小さな迷いを、「進んでる感」に置き換えるには
8月の終わりは、カラーの一枚絵イラストを描いて過ごした。24日から30日まで。ほぼ一週間だ。
目的は、北海道イラストレーターズクラブアルファが主催する公募『羽ばたけ! 北海道イラスト大賞』に応募するためだ。
北海道民だけに応募資格がある、こんなコンテスト……知らなかったでしょう? 安心して。私も知らなかったから。
企画を知ったのはほんの偶然だった。7月だった。最新のデザインTIPSを仕入れるために本屋に行き、買った本をすぐに読みたくて、MARUZEN & ジュンク堂書店 札幌店のほど近くにあるカフェクロワッサンに入った。古くてなんとなく薄暗いんだけど、同じ通りのスタバに比べて、空いているのだ。
店内は広くて、案の定ガラガラだった。レジからそんなに離れていない座席に座った。ひととおり本に目を通して、顔をあげ、店に入った時から感じていた違和感の原因を考えた。チェーン店のはずだけど、地元のイラストレーターの個展みたいなものが開催されていて、壁に絵が並んでいた。
スタバほどの客入りはないが、地元に愛される努力をしているのだなぁ……とか勝手なことを考えつつ、正面に向き直ると、ポスターが目に入った。
座席との位置関係は完璧だった。周りからは茶をしばいてぼーっとしているだけに見えて、ポスターの内容がよくよく目に入ってくる場所に、偶然座っていた。他の席に座っていたらポスターに目をとめることはなかっただろう。
そのポスターというのが、イラストコンテストの告知だったのだ。
私は漫画を描き始めている。
あらゆる機会を利用して、絵やストーリーテリングを上達させたいと思っている。
偶然に普段は入らないカフェに立ち寄った。
カフェではローカルなイラストコンテストの告知をしていた。
告知ポスターの真正面に座っていた
コンテストの締切まで、当時二ヶ月ほどの猶予があった
これだけの偶然が揃ったので、「応募するしかない」と思ったのだ。
7月は、まだ漫画作品もリリースしていなかった。
短期的な目標としてはイラストコンテストに応募しよう、足元としては、漫画を作っているうちに、絵も描き慣れてきて、イラストコンテスト応募を乗り切るだけの画力がつくだろうと踏んだ。ヨミどおり、漫画のリリース前はそれこそ夢も希望も妄想ももりもりにあったけれど、将来的に描けるようになりたい絵と、現実的に今描ける絵の差を冷静に判断できるようになっていった。
コンテストを知った当初はもっと難易度の高い絵で審査員を殴りにいくぜ! とか思っていたけど、リサーチしていくうちに「やっぱり難しすぎてムリ」となり、漫画の冒頭ポエムで使ったモチーフをもうちょっと深める方向にシフトしたりもした。
描き始めるまでのモヤモヤ
実際に絵と向き合った制作期間は一週間だけど、
「こういう感じの絵が描きたい」--->「絵に登場させたい題材を調べてみる」--->「イメトレ」--->「ラフ」--->「必要な題材を絞り込んで情報収集」---> 「イメトレ」--->「ラフ」--->「よっしゃこれなら描ける!」
最後の「よっしゃこれなら描ける!」ってなるまではほぼ頭の中で組み立てる。ラフを描かないこともないけど、丸とか長方形とか針金人間とか、あくまで抽象的な形にとどめて、全体のイメージが引っ張られないようにする。
一週間で仕上げるっていうのは、「よっしゃこれなら描ける!」から一週間ということだ。
「こういう感じの絵が描きたい」から「描ける!」までは一ヶ月くらいかかる。
これがもっと短縮できるようになることが、上達の要素として必要になってくるんだろうか?
描きたいと思ったものを仕上げるには
一ヶ月は短いようで長い。この間、一枚の絵をどう完成させようか、どんな道順で登って行こうか、その過程でどんな景色が見えてくるのか仮説を立てる。
志はあるけれど、何も生み出してない、という苦しい期間だ。
でも、私は「こういうのが描きたい」から「仕上げる」までは、時間がかかったとしても完走できる。
これが友達だったとしたら、すごいことはすごいと思う。一ヶ月前に「絵を描きたい」って言って、一ヶ月後、忘れた頃に「でけた」って言って差し出してくる、美大生でも絵師でもない人が。一ヶ月を使うということは勢いでやったわけでもないということだ。
登り切れるのはなんでだろうか。客観的に考えてみる。
①目的を細分化する
「コンテストに応募する」という目標は、いくつかのブロックに分けられる。例えば、
仕上がった状態の絵を用意する(どの状態の絵が仕上がっていると言えるんだっけ? を意識しながら描く)
絵を仕上げるまでのスケジュールを組む
過去のコンテスト受賞作や、審査員のお告げを読み、コンテストの方向性を頭に入れる
応募票のフォーマットを埋める(作品タイトルとかコンセプトとか、ペンネームを考える)
締切日までに応募する
1から5まで、難易度としては1とか2が一番大変に見えるけど、重要度としては全部やる必要があることだ。3から5については、全部1000年前から決まっていたことであるかのように、レジが会計後にレシートを吐き出してくれるように、なんの疑いもなくできるだろう。
理想は1とか2についても、同じように「そこにあるから潰す」と勝手に手が出る状態にまで、タスクを切り分けるといいのだと思う。
②描きたい最終目標はそれとして、一歩でも進めればそれでOK
例えば、今回のイラストでは、私は「三人のキャラクターたちが乗り物に乗って、楽しそうにわちゃわちゃ絡んでいる絵」が描きたかった。コンテスト向きで華やかだし、審査員のお告げから、「絵からエネルギーを感じるような、ポジティブな作品」が求められている気がしたからだ。
見本として正しいかはわからないが、ONE PIECE第1巻の表紙みたいなさ……。
このとき、技術的にハードルになることがいくつもあった。
乗り物をほとんど描いたことがない🥹。
わちゃわちゃ感のある絵をほとんど描いたことがない。
そもそもカラー1枚絵をまるっと仕上げたことが少ない。
ていうか1枚絵のイラストを描くなんて、そんなに細部にこだわれないって思ってたんじゃ?
背景どうする? パースがかかった絵とかまだ描き慣れてない。
キャラクターそれぞれのファッションはどうする?
絵の季節感は? 制作時期は夏だけど、発表時期を考えると秋〜冬。あまり季節感を打ち出さない方がいいかも?
乗り物の画像を集めてみたり、パースの本を読んでみたりして、モチーフの難易度を上げて空中分解するよりは、今描ける絵を描いた方がいい、と考えるようになっていた。だから、目標を下方修正した。
キャラクター三人のポージングと絡みで印象的な絵にする。
背景は抽象的にする。せめてメインと調和の取れた色使いにしつつ、インパクトを出す
ファッションもシンプルにするが、配色を工夫する。シワとか影の勉強のつもりで描く。
季節感は出さない。
「ポジティブさ」を追求しすぎると無難になりそうなので、直球で「エネルギーを感じる」ような絵に仕上がればそれでいい。
イラスト描くだけで十分チャレンジングなんで、キャラクター3体を描き切って、背景と組み合わせられるだけで十分私すごいって思えるように描き進めることにした。
描き終わった後、我に返るまで
目標を細分化して、実作業の一週間で集中力と執着を発揮できた。
最終的には「これ以上は技術的に今の時点ではよくわからない」と思えるところまで描いて提出した。
「仕上げる」ということにはインパクトがある。でも絵を描くだとか、創作をするって、事件は内面で起きていることがほとんどなので、外側は微妙な季節の移り変わり以外何も変わってない。
目に見えるものの変わってなさと、自分の中の変化の温度差にぼーっとなる時間がある。この時間が、創作をしていて一番気持ち悪くて嫌いな時間かもしれない。
動けないほど疲れ切っているわけでもない、わりと冷静でいる。情緒も安定してる、なのに、頭の中が片付けきれていなくて呆然としてしまう。こういう時間て、みんなどう過ごしているんだろう?
正直な意見としては、何もしたくない。作ってたのと同じ期間、ぼーっとしてたい。でも、立ち止まっただけソンする気もする。このまま、高橋留美子の漫画みたいにアクシデント続きで目的からどんどん遠ざかって、描くことを忘れ去ってしまったらどうしよう。
作り終わったその瞬間に自分がまっぱだかになってると気がついて、ショックと寒さから、しばらくは気弱になる。落ち込みは創作期間に比例して長くなったり短くなったりする。
流石に、作ってたのと同じ期間続くことはないけど、不安の最中は、不安がいつ去るのか予想できるわけもない。
不安が来るとわかっているなら、作業が終わった時の息抜き方法を考えておけばいいのかもしれない。や、でもね、息抜きに気を取られて、絵を描くことを忘れちゃわないか、わりと真剣に不安になるんだよね。なんせ、基本不安な時期だから。
だから、不安は不安として、だましだまし付き合って、家でゆっくりだらだらすごして、ちょっと好きなもの食べて、漫画読んだり動画見て、落ち込みすぎないように自分を癒しつつ、ちょっと元気になってきた、また描けそうなきがする、くらいのタイミングで、出かけたり買い物したり、美味しいもの食べたり、展覧会行ったり、思いっきり好きなことする、みたいなパターンが理想なわけよ。
私は感情を甘やかしすぎない程度に、向き合って、知りたいタイプ。
今回のそんな時間で観たのが、さいとうなおき氏のこの動画
すごい要約すると、誰かを喜ばせるために絵を描くのに疲れたら、たまには自分のためだけに思いっきり描いてもいいんじゃない? 絵を通して、今の自分の心と向き合ってみたら? みたいなことを言っていた。
たしかにな。
公募に挑戦するっていうのは、審査員とかトレンドに、自分なりに忖度するわけで、忖度と、それでも自分の目指したいものを叩き出していく戦いでもあるわけで、疲れないわけがないんだよね。実作業が一週間だとしても。考えてみたら、5営業日+休日の7日間じゃなくて、7連勤てことだしね。
モヤモヤしがちなタイミングに意識的になる
そんなわけで絵を描き渋っている状態なのでnoteを書いてるわけだけれども、立ち止まってしまいがちなタイミングとは、実作業の前と後にあるということにきがついた。
以前のnoteでも、スランプ状態とは脳みそが情報の整理をしている期間だと書いた。だから不必要な期間ではない。
でもさ、人生って常に新鮮であってほしいじゃん。
変化を望むってことは、今までのやり方が通用しないことがあるというのも受け入れる姿勢でいたいわけよ。
「わー、なんか不安だー、いつものスランプだー、風呂入ってアイス食ってオフトゥンにズボーってしたら治るぅー」って、基本はそうであってほしいけど違うなら違うでいいとも思っているのよ。
だから、新しい不安が来るごとに、「わー、もう今度こそ、この小さな不安で脳みそが腐って死ぬぅ〜〜」って思っている自分が、嫌いかって言えば、そうとも言い切れないの。
生きるっていつまでも難しいよね。
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