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オフィスひめの通信 63号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2020年11月

―慢性炎症と疾患―


 COVID-19ではウィルスの増殖そのものではなく、ウィルスをきっかけに起きた免疫暴走が肺炎や臓器障害の原因となり命を脅かすことを目のあたりにしました。このような炎症はCOVID-19に限ったことではなく身近に存在します。特に持続的な炎症のくすぶりは、自覚症状がないままに少しずつ臓器や血管、細胞や遺伝子に傷をつくり病気の原因になっています。
 炎症の原因は、「異物(=自分ではないもの)」や「余分なもの」です。異物の代表例は腸から侵入した食べ物のかけらや有害重金属、環境化学物質などです。歯周病菌や細胞に潜伏して感染するマイコプラズマ、リケッチアなどの病原微生物も炎症の原因です。また、体にもともと存在するものが代謝異常を伴うと炎症の原因になることがあります。
例えば終末糖化産物(AGEs)は体内のたんぱく質に糖が結びつき、さらに複雑な反応を受けて生成され蓄積します(ただし体内蓄積の一部は食べ物由来です)。AGEsは活性酸素の発生源になったり、AGEsのレセプターを介して炎症のスイッチを押したりします。内臓脂肪も炎症の原因になります。肥大した脂肪細胞は炎症や血栓を惹起するサイトカインを出し始めるからです。メタボリック症候群と単なる肥満の違いは炎症の有無なのです。

 長引く炎症は「異物を除去する」という本来の役割を越えて私たちの体を壊します。働ける細胞が減り線維化して瘢痕(はんこん)が残り組織が硬くなっていきます。炎症の影響は臓器や血管という目に見えるレベルだけでなく細胞内のミトコンドリアや遺伝子にも及び、エネルギー産生に支障が出たり癌細胞の芽が生まれたりします。
 炎症の原因になるものは「入れない、溜めない、外に出す!」。口に入れるもの、吸い込むものの質をチェックしましょう。リーキーガット症候群では粘膜バリアが破綻しているため、本来入るはずのない大きなたんぱく質のかけらや細菌の一部が入り込むことにより炎症を起こします。血液脳関門に隙間が出来るリーキーブレインでは神経やそれを支える組織の炎症が起きて発達障害や認知症の原因になることもあります。粘膜バリアを壊す要因をなくして健全なバリアを取り戻すことが大切です。
 炎症は用が済んだら素早く火消しをして収束させる必要があります。火消しに大きな役割を果たしているのが副腎です。炎症が長引けは副腎が疲れてきます。精神的なストレスに覚えがなくても隠れ炎症にさらされると副腎疲労症候群になってしまいます。
 振り返って、COVID-19の重症化リスクと言われる持病は慢性炎症状態です。オーソモレキュラーの手法によって炎症の原因を取り除き、体の働きを取り戻し、炎症を収束させる力を強める努力が病気の克服に役立つと思われます。

―ミネラルと炎症―

 炎症の周りにはミネラルが活躍しています。ミネラルには最外殻の電子を与えたり奪ったりする性質のものがあります。酵素の活性中心にこのようなミネラルを置くことにより高エネルギーのラジカルや活性酸素を発生させて殺菌したり、役割を終えたラジカルを消去したりします。
 例えば好中球には鉄を含んだミエロペルオキシダーゼという酵素があり次亜塩素酸を発生させ細胞内に貪食した細菌を殺菌します。鉄を含んだカタラーゼという酵素は、殺菌・炎症の場所で発生する過酸化水素水を水と酸素に分解して無害化する役割をしています。活性酸素の消去には亜鉛や銅、セレン、マンガンなどのミネラルも大活躍しています。これらのミネラルが不足すると炎症によって発生したラジカルや活性酸素を速やかに消すことが出来ず連鎖反応を起こして周囲の細胞や組織が傷ついてしまいます。

 ミネラルはバランスが重要です。カルシウムとマグネシウム、亜鉛と銅などペアで働くミネラルはどちらかが多過ぎても少なすぎてもいけません。マグネシウムはカルシウムを抑制するミネラルです。カルシウムに比べてマグネシウムが欠乏すると血圧が上昇したり神経細胞死が起きたりします。
 有害重金属はもっと厄介です。例えば亜鉛と似た性質を持つ水銀やカドミウムが亜鉛酵素にはまり込むと酵素は本来の働きを失ってしまいます。重金属は活性酸素の発生源にもなるので二重の意味で体の機能を低下させます。有害重金属は結合が強く無理やりはがして排泄させないといつまでも体内に蓄積し続けます。ミネラル摂取の効果が出ない場合には重金属蓄積の検査やキレーションによる排泄を検討しましょう。

―ミネラルの検査―

 ミネラルを診断する検査には毛髪検査、血液検査、尿中排泄検査、組織内濃度検査などがあります。毛髪検査は排泄の検査です。体内に欠乏すると低値に出ることが多いのですが水銀などを排泄出来ない人は、結果が低値でも他の人より蓄積量が多い場合があります。
 血液中のミネラル濃度は輸送を見る検査です。急性中毒には有効ですが蓄積して動かないミネラルの測定には向きません。
 尿中排泄検査は薬によって排泄したミネラルを見る検査です。信頼性が高く薬の有効性の判定にも使用できます。使用する薬の種類によって排泄する金属の種類に違いが生じます。ただし体内に蓄積した有害重金属を引っ張り出してしまうので体調を整えてから実施しましょう。
 組織内濃度検査(オリゴスキャン)は手のひらに光を当ててミネラル特有の波長を検出します。まだ新しい検査手法ですが組織に存在するミネラルを測定するという点で優れています。データの蓄積により低年齢のお子さんも利用可能になってきました。
 それぞれ検査の意味が違いますので上手に組み合わせて正確な状態を把握しましょう。


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。


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