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オフィスひめの通信 特別号2
執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2011年5月
-東日本大震災に寄せて~違いを乗り越える~-
3月11日のあの大震災の日から早くも2か月が過ぎようとしています。一部に復興への兆しが見える一方でまだ先の生活が見えない方や放射能汚染により新たに避難を迫られる方などそれぞれ立場が分かれてきています。立場の差、感じ方の差、立ち直りの速さの差が孤独感を生み、孤独感が新たな悲しみを生みます。被災した方々の悲しい胸の内を完全に理解することは出来ないと知った上でなお、違いを乗り越え連帯していきましょう。
余震が続く中不安で食欲がなくなり睡眠がとれないという方は、些細な問題と我慢せずにぜひ相談してください。私たちスタッフは悲しみや困難や不安を分かち合うためにいつもお待ちしております。
被災後の体と心の変化-ストレスを乗り越えるために-
前回はストレスを乗り切るために体の様々な反応が起きるというお話しをしました。
今回は、
ストレスが長引いても疲弊期に突入しないための方法
疲弊期に入ってもそこから回復する方法
についてお話ししようと思います。
体の活動はすべて食べ物を材料としてまかなわれています。したがってストレスに対抗するための ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン、副腎皮質ホルモン)の産生にもたくさんの栄養素が使われています。特に多く使われるのがたんぱく質、コレステロール、ビタミンB群そしてビタミンCです。ストレスの初期には副腎が肥大して盛んにホルモンを作っている様子が観察されます。材料が枯渇すると副腎は萎縮してホルモンを出すことが出来なくなります。体は材料があるぎりぎりまで頑張ってしまうので材料が枯渇するまで症状が出ません。気づいた時には枯渇していて体の回復にかなりの栄養素と時間を要します。
そこでストレスの初期から栄養を入れてあげることが大変重要になります。たんぱく質とビタミンB群はカロリーと物質の合成、ホルモンの合成に重要な働きをします。ビタミンCは水酸化酵素としてホルモンの合成に関わるほか、ストレス時に多く生じる活性酸素の消去にも活躍しますし、感染抵抗力の強化にも重要です。もちろん鉄、亜鉛、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル類も重要です。
宮城県の調査では、避難所の多くでカロリー、たんぱく質、ビタミンB群、ビタミンCなどの栄養素が不足しているそうです。特にビタミンCの不足は顕著でした。通常よりも必要量が増えていることを考えると、避難所の皆さんがストレスを乗り切るためにより多くの栄養素が届けられることを願うばかりです。
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放射線が生体に与える影響-フリーラジカル対策-
原爆や東海村の事故を知っている方は、放射線を光線のようなイメージで捉えているかもしれません。確かに透過性が高く体の奥まで届く放射線もありますが、今回漏出したヨウ素131やセシウム137が主に出すβ線はちょっと様子が異なります。
α線やβ線は高速の粒子で、水などにあたっただけですぐに止まってしまいます。では体内に入った放射線の何が怖いかというと当たった物質から電子を引き抜く力が強いからです(電離作用または酸化作用と言います)。物質は中央の原子核と周辺を回る電子から出来ています。電子は2個でペアをつくることで安定になっています。この一方が引き抜かれると残った一つの電子は新たな相手を探します。そして隣り合った物質の電子を引き抜きます。このようにペアのいない電子は電子を引き抜く攻撃力が強いのでラジカル(またはフリーラジカル)と呼び、次々と隣り合う電子を引き抜く作用をラジカル連鎖反応と呼びます。電子を引き抜かれることは酸化されたと表現します。
電子が一個変わっただけで物質は性質が変わってしまいます。その結果、正常な酵素反応が出来なくなったり、細胞膜の性質が変わったり、遺伝子の一部が傷ついたりたんぱく質を合成する指令が変わったりします。分子整合栄養医学においては、フリーラジカルや活性酸素による酸化作用が老化や癌の最も大きな危険因子なのです。
みなさんは、放射線による癌を心配されていると思います。フリーラジカルによって細胞が傷ついても1回の変化で悪性の細胞に変わるわけではありません。少なくとも遺伝子と細胞膜の両方にわたって数回変化することで初めて悪性の細胞になると考えられています。であれば、次の傷が起こる前に傷を修復してしまうか、フリーラジカルが出来たそばから消去してしまえば問題ないことになります。また、NK細胞など免疫力を強化して出来た悪性細胞を除去することも有用でしょう。
もともとフリーラジカルは放射線以外でも日常的に作られています。特に紫外線、酸化した脂質、過度の運動、内臓脂肪、添加物、ストレス、煙草などはフリーラジカルを増やします。体にはSOD,カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどフリーラジカルを消去するシステムが備わっています。消去のシステムを強化するのはたんぱく質やアミノ酸とセレンや銅、鉄などのミネラル、カロチノイドやビタミンA,C、Eといった抗酸化ビタミン群、フラボノイド、ビタミンB2、コエンザイムQ10などです。特にビタミンCは電子を吸収して無害なものに変える働きを持っています。
放射線の影響はフリーラジカルによる傷害の場所や組み合わせ、フリーラジカル消去システムのバランスで決まります。したがってどこまでが安全、どこからが危険という境界線はあいまいです。しかし、放射線がフリーラジカルにより健康被害を与えるからには放射線の害を防ぐのに必要なのは決して特殊な栄養素ではなく、体の本来の力を強化する栄養素であることがわかるでしょう。特にビタミンCを始めとした抗酸化ビタミンの効用はもっと強調されてよいと思います。
災害時の糖質制限食について ~ストレスに強い糖質制限食~
機能性低血糖症や糖尿病の方、そろそろ糖質制限食を再開されていますか?緊急時は過ぎ今後の長い期間を見据えた対策が必要になって来ます。体調が悪い方はそろそろ食事の立て直しを図りましょう。
今回は機能性低血糖症や糖尿病以外の方にもストレス対策として糖質制限食をお勧めしたいと思います。糖質や炭水化物をエネルギーに変えるためには多くのビタミンB群を必要とします。ストレス時にはビタミンB群がふだんよりたくさん必要で不足すると疲労感だけでなく不眠や気分の落ち込みにつながります。糖質制限食=高たんぱく質食にはビタミンB群がたくさんふくまれ、しかも代謝時にビタミンB群をそれほど必要としないため一石二鳥です。
また、糖質摂取のあとは血糖値が急上昇します。血糖値の急上昇は体内物質の酸化を増やします(酸化=電子を引き抜く作用でしたね)。酸化が起こると動脈硬化や老化、癌がおこりやすくなります。酸化を抑えるためにビタミンCなどの抗酸化ビタミンがたくさん消費されます。ビタミンCは副腎の働きに重要ですから、ビタミンCが消費されるとストレスに弱い体になってしまいます。糖質制限食はビタミンたっぷりの食事で酸化も起こしにくいのでやはりストレスに強い食事と言えるでしょう。
ストレスはカロリーだけでは乗り切れません。たんぱく質、ビタミン、ミネラルの豊富な食事が大切です。この機会に糖質制限食をぜひお試しください。
※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。
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