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オフィスひめの通信 35号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2013年7月

アンチエイジングを考える ー加齢とは何か?ー

 加齢とともに生物の体には何が起きるのでしょう?

  1. 細胞の数の減少

  2. 体に必要な成分の合成の減少

  3. ホルモンバランスの変化

  4. 修復できない傷の増加と積み重なり

  5. 腸内細菌叢の変化

 細胞が分裂出来る回数には限りがあります。入れ替わりの細胞を作れなくなると体の細胞の数が減ってきます。細胞以外の体の成分、例えば骨や筋肉や軟骨、コラーゲンなどを作る力も年齢とともに減っていきます。これらは体格の変化として意識されることもありますし、疲れやすさや回復の遅さなど体の働きの低下として意識されることもあります。
 修復できない傷に関しては、まず痛みが大きい問題でしょう。関節の痛み、神経の痛み。病院に行っても「歳のせいですね」と言われ「治らないのか」とがっかりして帰ってくることもあるでしょう。
 痛みを感じない傷もあります。例えば動脈硬化!動脈硬化は血管の壁、血液を流れる側に面している内皮細胞の傷が原因となって発展します。癌や認知症も傷によって出来る病気といってよいでしょう。遺伝子や細胞の膜に傷が生じると、まずは修復を試みます。修復がうまくできなかった時は免疫の働きやアポトーシスという細胞自体が持っている自死機能によって細胞は消滅します。働ける細胞の減少は機能の低下につながり瘢痕(はんこん)のような形で残ることもあります。数か所に同時に傷が起きたり、傷を取り除く機構が働かなかったりすると異常な細胞が増えるのです。
 アンチエイジングとは、寿命という生物の宿命を受け入れながらも、自分で変更できる部分を積極的に変えていこうという試みのことです。病気や老化は環境要因や行動スタイルに大きく影響されます。生涯、健康で楽しい生活を送るためにはどうしたらよいかを一緒に考えていきましょう。


暮らしに役立つ栄養療法 ー消化の悪いものを食べよう!ー

 痩せたいけど痩せられない人の食べ方には一つの特徴があります。それは早食いとドカ食いです。1日に摂っているカロリーが全く同じでもお腹がすいている時に消化のよいもの=お菓子やおにぎり、パンや麺類、ジュース類を食べる人は太りやすくなります。
 太りやすいことには理由があって、消化のよいものは胃に貯留する時間が短く急激に血糖値が上昇し肥満ホルモンであるインスリンを過剰に分泌させるからです。
 口から入った食べ物は消化を経て吸収されます。唾液ではアミラーゼによって主にでんぷん(炭水化物)が、胃の中では胃酸によって出来たペプシンが主にたんぱく質が消化されます。胃から十二指腸に出た食べ物は膵液に出会います。膵液にはたんぱく質と炭水化物と脂質の分解酵素が含まれています。胆嚢から出る胆汁は消化された脂質をミセルの形にして吸収を助けます。小腸では追加の消化と糖の最終分解が行われ吸収されます。
 胃はたんぱく質を消化するための器官ですから、十分消化が出来るまで胃の中にためておくという働きを持っています。食べ物が十分消化されると胃の出口が開いて少量ずつ十二指腸に排出します。消化能力が低い方がいつまでも胃に食べ物が残っている感じがするのはそのためです。

正常な胃の働き
http://www.ASTellas.com/jp/heALTh/heALThcare/fd/basicinformation03.htm

 消化のよい精製された糖類や炭水化物は、たんぱく質の含有量が少ないため胃で消化する必要がなく、すぐに十二指腸に排出されてしまいます。たんぱく質食品、食物繊維の多い食品を先に食べるか、精製していない炭水化物を食べると胃の出口が開かず、結果的に血糖値の上昇は緩やかになるでしょう。
 消化能力が低く胃に食べ物が残って辛いため、消化のよいものを好んで食べる方は太る心配はないもののたんぱく質などの栄養不足になりがちです。胃酸を抑える薬を飲んでいる場合は本当に必要なのか再検討しましょう。 消化されたたんぱく質(アミノ酸)の形で摂ったり消化酵素を補ったりしてぜひ体に良い栄養を摂ってください。


血液検査の読み方 ー酵素の寿命ー

 血液検査の見方講座の2回目です。肝機能に分類されるASTやALTの上昇は肝細胞が壊れているサインという話をしました。ではASTやALTが低い場合は何を考えたらよいのでしょう。
 検診ではASTやALTが高いと肝臓の細胞が壊れているサインとして注意されますが、低い場合には異常と言われることがほとんどないように思います。若い女性ではALTが一桁の人も珍しくはありません。血液中のASTやALTの濃度は肝臓の細胞内の酵素の量を反映しているので数値が低ければ酵素活性が低いのですからやはり問題です。
 ASTやALTの構成成分について考えてみましょう。酵素はたんぱく質です。図のようにたんぱく質が立体構造を作っています。反応が起きる場所には補酵素が結合しています。ASTやALTの補酵素はビタミンB6から出来るピリドキサルリン酸です。

http://www.topsan.org/Proteins/JCSG/3ele 一部改変

 ビタミンB6が不足により補酵素が結合できないと酵素の寿命はとても短くなります。特に補酵素の結合していないALTの寿命はASTに比べてかなり短くなるのでALTがASTより低い場合はビタミンB6が欠乏していることを意味しています。
 血液検査の読み方で困るのは、脂肪肝とビタミンB6不足が両方ある場合です。脂肪肝によってALTが上昇し、ビタミンB6不足によってALTが減少すると、相殺されてたまたまALTが正常範囲に入ってしまう可能性があります。
 実際に、ビタミンB6が欠乏するとたんぱく質合成やエネルギー産生に関わる酵素の活性が低下するため代謝が低下し隠れ脂肪肝を起こす確率が高いのです。ビタミンB6を補給してALTの数値がポンと跳ね上がる場合もあります。数値だけで判断せず常によりよい食事を心がけることが大切ですね。


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。


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