オフィスひめの通信 51号
執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2015年12月
ー口腔と全身疾患 体の健康はお口からー
ある患者さんで血液検査の結果が急に変わったことがあります。「何かありましたか?」と尋ねると、「歯の治療に通っていて、うまく噛めずにうどんばかり食べていました」とのお返事です。歯のこと、口腔内のことは、こちらから尋ねない限りお話されないことが多いようです。何となく話しにくかったり見られたくないとは思いますが、口腔内と体は切っても切れない関係があるのです。
歯周病の菌が血液に入ると、心臓の弁に付着して塊をつくって心臓の働きに異常を来したり、血管を詰まらせたりすることは昔からよく知られています。また歯周病菌や歯周炎によってTNF-αというサイトカインが増えインスリンの効き目を悪くすることにより、内臓脂肪の蓄積や糖尿病の原因になります。炎症の場所には常に活性酸素が発生しているため動脈硬化も進みます。歯周病を放置すると多くの恐ろしい病気に結びつくのです。
口腔内の状態を良好に保つためには、たんぱく質やビタミンCなどで抵抗力を保つこと、ストレスや過度の飲酒を避け唾液の減少を防ぐこと、よい口腔内細菌に置き換えていくことなどが大切です。予防医療と同時に予防歯科!よい状態を維持するために、歯科を定期的に受診し口腔内の健康を保ちましょう。当院では、栄養療法やアマルガム除去に理解のある歯科医をご紹介しています。
ー口腔内の乾燥 口呼吸していませんか?ー
あなたは口をぐっと閉じても、ずっと平気でいられますか?知らないうちに口を半開きにして口呼吸をしていませんか?風邪をひきやすい方や口やのどが乾燥しやすい方は、寝ている間に口呼吸をしている可能性があります。
口腔内が乾燥すると、唾液の抗菌作用や潤滑作用が不十分になり、歯が着色したり、う歯になりやすかったり、口腔内に菌が増えて口臭がきつくなったりします。唾液が減少する理由は口呼吸だけでなく、ストレスや薬、ビタミンやミネラル不足なども影響します。
鼻呼吸では空気が鼻を通る間にウイルスや細菌、微粒分子などがフィルターに掛けられ、喉や気管に入る量を減らしていますが、口呼吸ではこれらが直接入ってしまいます。また鼻粘膜は空気の湿度を上げる働きがあるのに対し、口呼吸では乾燥した空気がそのまま入ります。そのため風邪やアレルギー症状が起きやすくなります。
口呼吸の方は鼻に炎症があり、鼻の空気の通りが悪くなっている場合が多いので、まずは耳鼻科で治療することをお勧めします。その上で口周囲の筋肉を鍛えましょう。本格的な訓練方法もありますが、ここでは簡単に出来る「かっいうべ体操」をご紹介します。
口腔内の状態を整える方法としては、唾液を増やすためにビタミンAやビタミンC、たんぱく質、亜鉛、カルシウム、マグネシウムを摂ったり、口腔内の細菌を整えるため口腔有用菌のサプリメントを摂ったりする方法もあります。早速今日から対策を始めましょう。
ー消化管の炎症を診る 消化器総合検査(CDSA_2.0)ー
口腔内だけでなく消化管の炎症も体に大きな影響を及ぼします。消化管の炎症は、炎症物質が血液中に入って肝臓の炎症の原因になったり、腸粘膜を 傷つけてリーキーガット症候群の原因になったりします。腸の炎症は血液検査では分かりにくく、便の消化器総合検査(CASA_2.0)が多くの情報をもたらしてくれます。(オフィスひめの通信38号も参照)
消化器総合検査では二つの炎症マーカーを測定します。好酸球蛋白X(Eosinophil Protein X)は好酸球が分泌する物質です。主にアレルギー性の炎症をみます。炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)、寄生虫、慢性的下痢、アレルギー、リーキーガット症候群、アトピー、アルコールの過剰摂取などで上昇します。
カルプロテクチン(Calprotectin)は主に好中球に存在する物質です。炎症を伴わない過敏性大腸炎と炎症性の腸疾患の区別をするために有用なマーカーです。大腸がん、ポリープの際に上昇することもあり、カルプロテクチンが高値の場合には原因を診断するための大腸内視鏡検査が必要となります。炎症性腸疾患の再発を早期に発見したり、改善効果をみたりするのにもよいマーカーです。
消化管に炎症が存在すると、肝臓の働き、副腎の働き、そして脳の働きに影響が出ます。腸の状態が悪いままたんぱく質をたくさん摂ると、腸内環境が返って悪化し症状が強くなることもあります。まず炎症の改善、そして粘膜の再生と腸内細菌叢の改善が根本改善への道筋です。
※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。