オフィスひめの通信 50号
執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2015年10月
ーミネラルの働きと有害重金属蓄積ー
栄養療法では、腸内環境の改善や欠乏する栄養素の補充によって病気の根本原因を解決する方法をさぐってきました。食事の変更やサプリメントの摂取、腸内環境の改善に努めてきたのに治療効果が上がらないという方は、有害重金属蓄積を考慮する必要があるでしょう。
必須ミネラルは生命活動に重要な役割を果たしています。酵素の中に位置して反応を助けたり、鉄のように酸素を結合して運んだり、カルシウムのように骨に強度を与えたりしています。信号伝達や遺伝子の発現に関わるミネラルもあり、ごく微量でも重要な役割を担っているミネラルもあります。
ビタミンもミネラルも共に重要な栄養素ですが、ビタミンとミネラルには一つの大きな違いがあります。ビタミンは多すぎて困るということがほとんどないのに対し、ミネラルは一つのミネラルが過剰になると他のミネラルの働きを妨げることがあり、相互のバランスがとても重要だという点です。例えば、亜鉛の過剰は銅を阻害し、カルシウムがマグネシウムに比べて過剰になると害になります。同様に有害ミネラル(重金属)も必須ミネラルの働きを妨げます。
水銀やカドミウムなどの有害ミネラルは亜鉛と性質がとても似ていて、体に入り込むと亜鉛の働きを阻害してしまいます。また体の組織と結びつくとなかなか外に排泄されません。他にも鉛やアルミニウム、ヒ素、ニッケルなどが体に蓄積すると様々な問題が起こることがわかっています。
どの程度の有害金属摂取が健康被害をもたらすのかについてはよくわかっていません。一人一人の感受性や排泄能力が異なり、必須ミネラルの欠乏状態によっても左右されるからです。有害ミネラルが過剰になると次のような問題を引き起こします。
■ 腸内環境を悪化させる
■ エネルギー代謝を阻害する
■ 神経や肺・肝・腎への蓄積による直接的なダメージを持つ
有害重金属の蓄積量や排泄能力を検査する法が少しずつ普及しています。一緒に学びながらよりよい解決方法を探していきましょう。
ー有害重金属はエネルギー代謝をストップさせる!ー
食べ物を活動のエネルギーに変えるためには酵素の働きによって化学反応が進み、最終的にATPが産生されることが必要です。その途中段階に右のような反応回路があります。TCAサイクルの反応に必要な酵素の補酵素がビタミンB群でしたね(オフィスひめの通信41号参照)。ところが、ビタミンや酵素があってもエネルギー回路が回っていない人がいます。何かが反応を邪魔しているのです。有害重金属は右図のような箇所で反応をストップしています。食べ物を変えてもサプリメントを飲んでもエネルギーが出ない、疲れがとれないという方はエネルギー回路がどこで止まっているか調べてみましょう。尿中有機酸検査の「クレブス(TCA)回路代謝物」の項目は、代謝が止まっている場所の推定に役立ちます。
ー有害重金属蓄積の診断ー
現在、当クリニックで実施している有害重金属蓄積の検査は3つあります。
<オリゴスキャン>
● 血管や脂肪組織に蓄積しているミネラル量を吸光光度法で測定
<毛髪ミネラル検査>
● 毛髪(生え際)のミネラル測定
● 毛髪への排泄量をみる
<尿中有害金属検査>
● 尿中に排泄される金属量を測定する
・キレート剤を服用前の検査 → 通常の尿への排泄能力
・キレート剤を服用後の検査 → 薬剤による尿への排泄能力
「オリゴスキャン」は、血管や脂肪組織のミネラルを 吸光光度法で測定する方法です。痛くないこと、測定した場所のミネラル量を推定できる点が長所です。まだ新しい検査の為、測定場所以外のミネラル量推定や測定の精度(正しさ)についてはデータを蓄積中です。
毛髪ミネラル検査では、毛髪に排泄されるミネラル量を測定します。測定結果から体内の必須ミネラル不足と、有害重金属の蓄積量を推定しますが、排泄障害があると低値になります。必須ミネラル値がばらつく場合には、ミネラル全般の輸送障害を疑います。
尿中有害金属検査は、診断と治療の予測や効果判定を兼ねた検査方法です。キレート剤を体内に入れて排泄をみます。重金属蓄積が疑われる人の排泄量はキレート剤なしでは軒並み低いことが多く、体内に蓄積したミネラルをキレート剤に結合させて排泄させます。体内に隠れている重金属蓄積を診断し、同時にキレート剤の効果予測をします。治療終了後の効果判定にも使用します。
いずれも、それぞれの検査の意味、検査時の注意 事項をよく理解して実施しましょう。
※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。