稽古場の雰囲気を重視する理由
stand.fmを密かにやっています。(noteに挿入できるようになって凄く嬉しい!)
稽古場はただ集まって稽古をする場所
「稽古場」というのは、本来舞台をやるために集まって稽古をする場所です。何言ってんだよという感じですが、意外とこれが難しい。
私は「全員で仲良く楽しく和気藹々と演劇しよう!」という空気感がどうも苦手です。
いや、いい芝居作るためだから全員と仲良くする必要なくない?みたいな。
私が主宰の劇団Яealityでは、最初に「仲良くしたい人とだけ仲良くして、そうじゃない人とはビジネスライクでいいよ、相手が嫌な思いをしないようにだけ配慮しようね」と言っています。
相手に嫌な思いをさせてしまうと稽古場の雰囲気が悪くなりますが、普通にビジネス的に接する分には何も問題ない。芝居に支障も出にくい。
稽古場の一番の目標は「芝居の稽古に全力で臨める場所」になるということ。過度な人間関係は、芝居にまで悪影響を及ぼす可能性があります。
稽古場の雰囲気は超大事
かと言って、全員無言の稽古場は良くありません。
演劇で一番大切なことは「信頼」だと思っています。
演出が役者を信頼できる、役者も演出を信頼できる、役者同士も信頼できる。これが理想です。その「信頼」を作るために、主宰だったり団員は動くべきだと考えています。
稽古場がギスギスしていては、どんなに演技が上手くても信頼関係は構築できません。そういう舞台は、技術でカバーできない限り舞台をみていても距離感とかで違和感が出ると思う。
全員がお互いに信頼できれば、多少のミスも全力でカバーできます。この人ならなんとかできる、私がここが動けるみたいに、良い形でチームワークが生まれると考えています。
だからこそ、稽古場から「信頼」を作ることを意識せねばと思うのです。
信頼は会話から生まれると思っています。
もちろん、お芝居が上手くてこの人ならどんな無茶振りでも大丈夫という信頼はあるとは思いますが、基本的には相手の人となりを知って会話を重ねて徐々に積み上げるものだと思っています。
だからコミュニケーションを取りやすい余白だったり、ツールを用意しておくことが重要だと考えています。
遅刻してでも行きたい稽古場に
朝寝坊して、もう稽古の開始時間には間に合わなくて、今日は仮病使って休もうみたいな時ありませんか?正直私はあります。
サボり癖という訳ではなく、なんとなく迷惑かけちゃって行きにくいみたいな。怒られるのかなぁ嫌な顔されるかもなぁと思ってしまう。
遅刻は褒められたものではありません。遅刻して世界を救ってきたならまだしも、そんなこと滅多にないしあったとしても言えません(全世界のヒーロー達ありがとう)。
そんな時、「やば!稽古行こう!!!」となれるのって大切だと思うんです。
みんなに迷惑かけた→怒られるかも→行きたくない
となるか
みんなに迷惑かけた→行かなきゃ!
になれるか。結構分かれ目。
劇団Яealityでは「詫び菓子」という制度があります。詳しい発足は忘れてしまったけれど、旗揚げ公演で遅刻魔がいて遅刻する度にミスドとかワッフル買ってきたところが始まりだったと思います。
これ、何がいいって遅刻連絡を入れると
「今日の詫び菓子はなあに?」「ハーゲンダッツがいいなぁ!」「叙々苑でしょ」みたいな、遅刻してくる人がいるとは思えない雰囲気にLINEがなるんですよね。怒る前にお菓子が気になる。
もちろん、ルール説明の時にお財布の負担にならない程度で構わないと言っています。一回本気でハーゲンダッツ15個とか買ってきた人がいた時はびびった。セブンプレミアムのお菓子でいいんだよ。
遅刻連絡を入れる→「詫び菓子楽しみ!」→稽古場にくる「遅い!お菓子は!?」→みんなで美味しく頂く→「ごめんね」「次遅刻したら全員に叙々苑の弁当買ってこい笑」
という感じになることが多いんですよ。あまりにも多いと怒りますが。
ちょっと脱線しますが、面白いのが詫び菓子のバリエーション。
この制度の目的は
・遅刻しても受け入れてくれる安心感→稽古に行きやすくなる
・お菓子を食べてる間交流タイムが生まれて信頼関係の構築を後押ししてくれる
・遅刻をすると出費をするのでかなり痛い
というところにあるのですが、一定数遅刻魔がいるものでお菓子のバリエーションが増えてきます。
《面白かった詫び菓子》
・水
・酒
・ねるねるねるね
・ハーゲンダッツの引換券
・全員に好きなもの1つ買ってくれる
・その日の飲み会おごり
・セブンイレブンのオープン記念で配っていたスナック菓子が稽古場に20個あったのにさらに買ってきて22個くらいになった
詫び菓子とはなんなのか。哲学的な問いになりますね。
大事なことなので二度言いますが、遅刻はしてはいけない。けれど、必要以上に制裁を加えることもないのだと思うのです。
お金のない学生や役者にとって、数百円の出費でも痛いもの。ちょっと痛い思いしてくれれば次からは注意します。だって回数を重ねると周りからの要求がエスカレートするから!
その上、遅刻した人が美味しいお菓子を持って現れるんです。朝から通さないと間に合わない!みたいな時以外は割とみんなお小言程度で終わります。お菓子の力は偉大なり。
遅刻はよくないですが(三度目)誰だってやってしまうこと。
それよりも、行きたいと思える稽古場の雰囲気を作ることが大切だと思うんです。
信頼を作りやすい雰囲気と余白を
稽古ってどうしてもギチギチに予定を詰めてしまいがちです。
けれど、最初の方はあえて場面稽古に時間を余るように設計したり遅刻者がいたらお菓子をみんなで食べる時間を取ったりします。
信頼は一朝一夕にできるものではありません。
レクリエーションから初めて、お互いのキャラクターを理解して、稽古を重ねて、会話を重ねて作るものです。
その信頼を早い段階に作ってしまえれば、通し稽古になってちょっとピリついても仲良しで適当に発散してくれます(演出は辛いけど)。
信頼があるピリつきと、信頼がないピリつきは別物。信頼があると言いたいことが言いやすくなるし、事前にコミュニケーションを取っているはずなので改善も早くやりやすくなる。
良い稽古場とは、信頼があって遅刻してでも行きたい稽古場である。
自分の稽古がないのに予定が早く終わったからきちゃった!と言って顔を出しやすい稽古場。遅刻してもある程度は笑って迎えてくれる稽古場。一緒に舞台を作る人たちを信頼できて全力で打ち込める稽古場。
お客様には見えないけれど、舞台の上から透けて見えるのが稽古場の雰囲気だと思います。