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【超ショートショート】(15)☆not at all☆~一緒に、くぐり抜けて来ただろう~

春にはさくら、夏には緑、秋には金木犀と紅葉、
冬には時々の雪化粧。

そんな自然豊かな丘陵地の1つに、
僕らの住む街がある。

僕と君は中学で一緒になった。
一番の親友同士になった。

君はいつも、街を一望できる丘にある樹の下で、
遠くを眺めるのが好きだったね。

だから、
待ち合わせの約束をしなくても、
この樹の下に来れば、いつも逢えるんだ!

中学三年になった。

僕らのクラスメイトの楽しみは、修学旅行だった。
僕らの中学の修学旅行先は、定番中のド定番!
「奈良・京都」だった。
クラスでは、
班ごとに自由行動の旅のしおりを作りに、
毎日のようにバトルが繰り返された。

どんな神社に行くか?
女子は恋愛系、男子は勝負系。
どんなおみくじを引いてくるか?
女子は可愛くて、やっぱり恋愛系。
男子は、基本怖がりだから、
内心引きたくない、
大吉がたくさん出るおみくじが好み。
どんなスイーツを食べてくるか?
女子は可愛くてインスタ映えするスイーツ。
男子は、表向き「甘いものは嫌い」と、
内心はスイーツ男子ばかりなのに。

みんな好きなだけ旅のしおりを作り終えた、
まもなく出発って時だった。

君が突然、入院した。

僕と君は同じ班で、
旅のしおりも君の行きたい所を入れたのに、
一緒に行けなくなってしまった。

落ち込む生徒を見て、北野先生が、
「みんな心配はいらないぞ!
ちょっと検査入院が、
病院の都合で早くなっただけだと、
服部(はっとり)のお母さんが話していた。
どこか、今、悪いと言うとこではないみたいだぞ!
だからみんな、そんな顔するな!
服部の分まで修学旅行を楽しんで、
それを服部へのおみやげにしような!」

「(クラスメイトみんなで)はい!(笑)」


君が学校に戻って来たのは、
修学旅行から2ヶ月後。

すっかり転校生のように、
少し居場所を失くしていたね。

その日の夕方、
丘にある樹の下に、僕は行ってみた。

君がいた!

僕は、なぜよそよそしくするのか?
尋ねてみた。
「お前さ、何でみんなに冷たいんだ?」
「冷たくしてないよ!」
「じゃあ、まだ具合が悪いのか?」
「違うよ!(笑)。もう退院してるから、
どこも悪くなかったんだよ!(笑)」
「そうか、それは良かった。(安堵)」
君と話をしていると、
どうやら、修学旅行に行けなかった事が、
とてもショックだったらしくて。
自分は
仲間はずれになってしまったんじゃないかって、
学校行くのが、怖かったって話していた。

1ヶ月くらいして、
君が少しずつ、
クラスのみんなと話せるようになった頃。
僕が学校に行くと、
君を囲んで、みんなが笑っている。
その日の昼休み、
クラスのみんなが、
「服部くんに!」って、
修学旅行のおみやげをプレゼント。
女子は、
お守りとかお茶とかスイーツとか、
男子は、
やっぱりガキでバカだから、
しょうもないものを買ってくる。
例えば、年頃だからしょうがないが、
◯っぱいまんじゅうとか、
奈良・京都に関係のない、
◯ードのデザインのTシャツとか。

「(ある女子が)服部くん!泣いてるの?」
「泣いてないよ!
男子のおみやげがバカバカしくて、
笑ってたら、涙が出ちゃっただけだよ!
こんな◯っぱいまんじゅうで泣いたら、
僕の人生終わりだよ!(笑)」


クラスメイトから愛を受けた君は、
翌日から、さらに変わり、
何故か?モテている。

「(ある女子が)もう元気なんだね?」
「(服部)あぁ。(恥)」
「(ある女子が)じゃあ今度こそ、
卒業式、クラスのみんなと一緒に出ようね!(笑)」
「(服部)あぁ。(嬉恥)」
「(僕・心の声)おい!服部!
お前、この女子好きなのか? (ジェラシー)」


僕らは卒業式のある3月を無事に迎えた。

「(北野先生)おはよう!」
「(クラス全員)おはようございます。」
「今日は、先に、
クラスのみなさんへ大切なお話があります。」
「・・・・・」
「突然のことなんだが、
今朝、服部が息を引き取ったそうだ。」
「・・・・・?」
「先生も、先ほど、服部のお母さんから聞いてな。
驚いている。(悲痛)」
「・・・・・(悲痛涙)」
「それで、服部のお母さんがな、
服部の病気について、
みんなに話してくださいって、
お母さんから頼まれたから、
辛いけど話すぞ。いいか?」
「・・・・・(悲痛涙)」
「服部はガンという病気になっていたんだ。
だから修学旅行に行けなかったんだ。
みんなには、検査入院って話したけど、
服部がみんなに心配させたくないって言うから、
検査入院と伝えたんだ。悪かったね。」
「・・・・・(涙)」
「あの入院はな。もう身体に痛みが出始めてな。
お医者さんが、旅行には耐えられないから、
行っちゃダメってなってな。
先生も服部のお母さんも服部も、
お医者さんを説得したけど、ダメだったんだよ。」
「・・・・・」
「服部は、これが最後の旅行になるからって、
とっても楽しみにして、
病気がひどくならないように、
治療を頑張っていたんだけど・・・。」
「・・・・・(涙)」
「今日はな、服部からクラスのみんなにって、
お手紙を先ほど、お母さんから預かったんだ。」
「・・・・・(驚)」
「誰かに読んでもらおうと思ったが、
泣いちゃって読めないだろうから、
服部の代わりに先生が読んでみるぞ!」
「・・・・・(静)」

~~~~~~~~~~~
3年A組のみんなへ!

突然の手紙で、みんなビックリしてると思う。
僕には時間が無いみたいなんだ。
だから、
卒業式でみんなに会えないかも知れないから、
この手紙を書きます。
修学旅行のみんなからのおみやげ、
とっても嬉しかったよ!
田中の◯っぱいまんじゅう意外にも旨かった!
みんなからもらったお守りとか、
いつもベッドに飾ってあるんだ。
治るようにって。
みんな、本当にありがとうね。

僕は、たぶん高校生にはなれないけど、
みんなは僕の分まで、
高校生を楽しんでください。
佐藤も早く彼女作れよな!
そして、
高校でも修学旅行ってあるだろう?
国内海外のおみやげ募集中だから、
いつでもプレゼントしてね。
楽しみにしてる。
まともなヤツで、一つお願いします、男子たち!

北野先生も、本当にありがとう。
僕の病気のことを、みんなに黙っていてくれて。
お医者さんと闘ってくれて。
本当に本当にありがとうございました。

じゃあ、僕、
少し疲れたから休むね。
また、どこかで会いましょう!
それまで、みんな元気でな。

またな!ありがとう!

3年A組◯番 服部 真
~~~~~~~~~~

放課後、
僕は北野先生から、
「服部から!」と言われ、
1通の手紙を渡された。

僕は、
君に会いに行くつもりで、
丘にある樹の下に行った。

~~~~~~~~~~
オレの親友工藤へ

この手紙をお前が読んでいるなら、
オレはここにはもう居ないんだな。

1つ、言っておきたい事があるんだ。
オレが居なくなって、
寂しくなったり、怖くなったり、
すると思う。

オレも経験してるから、
今のお前の気持ちがわかるんだ!

オレ、じいちゃんが亡くなった時、
葬式も火葬も全部見たのに、
しばらくしてから、
「なぜ?人が居なくなるのか?
死って何だ?」
そんなことを、
毎日考えるようになった頃、
オレの心が
真っ黒になっていくのがわかったんだ。

そんなオレの様子を心配してな、
親戚のおじさんが、
「この曲聴いてみろ」って、
チャゲやら、アスカやら言う人たちの
曲を聴いたんだ!

『not at all』って曲!
知ってるか?

今のお前は、何も耳に入らないと思う。
まるで時間が止まった
不思議な世界にいる感じがするだろう?

その不思議な世界の時間が動き始めたら、
心が真っ黒になるから、
そうしたら、
チャゲやら、アスカやらの曲
『not at all』
聴いてみろ!
オレからの手紙だと思って。
いいな!
これは親友からの命令だから!

もし、いつまでも女みたいに、
めそめそしてたら、
オレ、もうお化けなんだからさ、
霊現象の1つでも起こして、
お前をびびらすから!
お前、肝だめし苦手だったから(笑)。
楽しみに待ってろ!
じゃあ、またな!

(3枚目)
P.S.
工藤へ
オレの大切な親友になってくれて、
本当にありがとうございました。
~~~~~~~~~~

あれから、半年後。

僕のもう一人の
保育園から一緒の親友のヤツに、
丘にある樹の下に呼び出された。

「(ヤツ)お前さ、最近元気ないって噂だぞ!
どうした?」
「何もないよ!
ただやる気が出ないだけだよ!」
「アイツ(服部)がいないのが、
そんなに寂しいのか?」
「・・・・・」
「オレも実はさ、
アイツ(服部)から手紙をもらっててさ。」
「えっ!」
「そこで、お前のこと、お願いされちゃってさ。
困っていたら、助けてやってくれって。(照笑)」
「・・・・・」
「オレだけなんだよ!
アイツ(服部)の病気に気づいたのは。
アイツがそう言ってたんだ。
たまたまオレがアイツの薬を見てさ、
オレの父ちゃんと同じ薬だったんだ。」
「そうか。」
「それで、アイツ(服部)に薬のことを聞いたら、
そうだって認めてさ。だから、誰にも話すなって、
特にお前にはな。」
「・・・・・(涙)」
「オレも父ちゃんが死んでからさ、
人が死ぬことや人が居なくなる意味が
わからなくて、毎日毎日悩んじゃってさ。
めっちゃ暗いヤツになってただろう?」
「あー。そうだったね。(少笑)」
「それでさ、
母ちゃんが好きなチャゲアスのライブを
DVDで見たんだよ。毎日(照)」
「うん。(困)」
「いつもだけど、
毎日母ちゃんはチャゲアスのビデオだの、
DVDだの、Blu-rayだの、付けるんだよ!(笑怒)」
「あっ・・・うん。(冷や汗困)」
「アイツ(服部)も感動した曲って、
中学になった時に教えてくれた、
同じ曲をオレもそのときに気に入ってさ。(誇笑)」
「うん。」
「これさ!アイツ(服部)から預かってたんだ。
今日、お前の誕生日だろう?」
「うん。(驚)」

3月に、君からもらったのと同じ便箋の手紙と、
1枚のCDが、そこにはあった。

~~~~~~~~
いま!そこで暗くなっている!
おバカなオレの大親友へ!

おい!
何泣いてるんだよ!
元気出せよ!
オレには全部見えてるぞ!

今日はお前の誕生日だろう?
デートする彼女も、
まだ居ないのか?
オレは天国で、モテモテだぞ!
どうだ、羨(うらや)ましいだろう?

あっ!いま!
風吹かなかったか?

「(僕・心の声)吹いた!」

それが霊現象ってやつだぞ!

「(僕・心の声)ただ風が吹いただけだ!」

怖かったろう?

「(僕・心の声)なわけあるか!バ~カ!」

やっと笑ったな?

「(僕・心の声)いやいや、笑ってないよ!
怒ってるんだよ!まったくって(笑)。」

ほら、笑った!

「(僕・心の声)負けた(笑)」

泣いてる時間があったら、
オレの分まで勉強しろよ!
デートしろよ!
でも2股はやめろよ!
親友でも、修羅場には、
助けに行きたくないからな。
たとえお化けでもな。(笑)。

この手紙をお前が読んでいるなら、
ヤツから曲の話、聞いたろう。
ヤツの母ちゃんがチャゲアス好きって(笑)。

手紙と一緒に入れたそのアルバムは、
オレの形見だから、
お前に持っていて欲しいんだ。

オレのことで寂しいと思うときに、
このアルバムの特に『not at all』って曲を、
聴いてみな!

必ず助けてくれるから。
元気な時には気づかないメッセージが、
たくさん、この曲の中にあるから。
毎回聴くたびに、
オレからの手紙だと思って聴けば、
寂しくないからな!
わかったか?

それから、
ヤツにもオレからのお礼を言ってな!
ヤツは、長い間、オレの病気のこと、
黙っていてくれた。
苦しかったと思う。
自分の父ちゃん見てるみたいでさ。
今度、ヤツと一緒にナンパでもしてこいよ!
もう高校生なんだからさ!(笑)。

オレさ、お前のこと、
いつも見てるから、
何でも話せよ!

返事は出来ないけど、
お前が苦手な霊現象なら、
もう出来るから、
それで返事するから、
まぁ、楽しみにしてね。(笑)。

(3枚目)
P.S.
工藤へ!
この手紙が最後になるからな。
次があると思うなよ!
そして、
本当にお世話になりました。
ありがとう。
いまも大切な大親友だからな!
(笑)。
忘れるなよ!
(笑)。
じゃあな!
~~~~~~~~

10月の少し秋らしくなった風とともに、
金木犀の甘い香りがする。
そして、
君の手紙の上に、
赤く紅葉したもみじが一枚、
何処からともなく落ちてきた。
丘にある樹の中にもみじの木はない。

僕は初めて霊現象を目撃した。

「アイツ・・・(笑)」


(制作日 2021.6.19(土))

今日は、CHAGE&ASKAの曲を入れて、
物語を作りました。

ご紹介した曲は、
CHAGE&ASKA『not at all』
同じタイトルのアルバムにも収録されています。

2004年 CHAGE&ASKAのコンサートツアー
『two-five』での『not at all』が、
今回の物語の参考になっています。

当時は「25周年」で、
その分の歴史を振り返るシーンもありました。

年齢を重ねると、
誰もが振り返れる歴史が増えますが、
その中でも、
やっぱり人の死に経験すると、
そこから立ち直るのには、
ひょっとしたら、
残された人の一生をかけてしまうことも
あるかもしれません。

でも、
先に天国へ行った方にしたら、
いつまで泣かれても、
ひょっとしたら、困っているかもしれません。

日々生きていても、
泣き顔を見るよりも、
笑顔がみんな見たいと思います。

その気持ちは、
亡くなった人も同じだと思います。

解説のつもりが、
うまくまとめられませんが、
物語にあるように、
元気じゃないときに、
『not at all』を聴いてみると、
何処からともなくメッセージが、
もみじのように降ってくると思います。
ぜひ、試してみてください。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~~

参考にした楽曲は、
CHAGE&ASKA
『not at all』(2001年)
作詞 ASKA・松井五郎
作曲 ASKA
★収録アルバム
『not at all』
(2001.12.27発売)
☆『two-five』ライブ映像より☆
https://m.youtube.com/watch?v=IkYH8yx4ZmE

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