
ポップミュージックの桃源郷、さよならポニーテール
こんにちは。暇じゃない暇人です。
突然ですが、皆さんは「完璧なポップミュージック」ってどんなものだと思いますか?万人を唸らせる強度を持ったメロディ?東京の喧噪の中で流れていてもその輪郭を失わないような洗練されたサウンド?それとも歌い出しだけで人の心を掴んでしまうような声?
いきなり投げかけてはみたものの、これ相当難しい質問だと思うんですよ。邦楽シーンに絞っても現代のポップミュージックは音楽的にも環境的にも非常に多様化された状態で、ヒットチャートの先頭からインディーズシーンの先鋭的な才能、更にはVtuberのような存在までが素晴らしいポップミュージックを放つという豊潤な状況。そんな現代のポップシーンの中で、今回は筆者の思う「完璧なポップミュージック」について話したいと思います。それを演じ続けている存在こそが今回の記事の主役・さよならポニーテール、通称さよポニ。完全に後追いのビギナーによるビギナーズガイド的な記事となりますが、彼らの音楽の魅力が少しでも伝われば幸いです。
さよならポニーテールとは?

まずは公式が投稿している紹介文を引用。
2010年結成。これまでに一度もライブを行わず、活動は主にソーシャルメディア上のみで実態が謎に包まれている11人組のポップグループ。
これだけ読んでもなんのこっちゃ分からないと思いますが、実際彼らの音楽活動の姿勢は本当に謎だらけなんです。シンガー5人とソングライターなどの裏方6人で構成される11人組で、活動はほぼSNS上のみ、メンバーもその姿はイラストで表現される覆面ユニット。メンバーはこんな感じ。
ボーカル
・みぃな (金髪のロングテール)
・あゆみん (青のポニーテール)
・なっちゃん (栗色のボブ)
・ゆゆ (紫のロングストレート)
・しゅか (緑のツインテール)
※ゆゆとしゅかは2012年12月に加入
※あゆみんは2013年12月に代替わり、
現在は2代目
ソングライター
・クロネコ (腹黒、宣伝)
・ふっくん (作詞・作曲など)
・マウマウ (アレンジなど)
・324P (ミックスなど)
・メグ (サックスなど)
サポート
・めがねくん (広報など。なお非実在)
"神さま" [イラストビジュアル担当]
・初代: ゆりたん (2011-2013)
・2代目: ちぃたん (2013-2016)
現在は神さま不在で活動。
リスナーに対しても声以外の情報は秘匿とされたユニットですが、なんとメンバー同士でも交流がないというのが彼らの特徴。メンバー全員がお互いの顔や本名を知らない状態で、さよポニのブレインであるクロネコを介したネット上のやり取りのみで活動、という形態を続けています。そしてそれこそが彼らの大きな音楽的魅力を作り出している理由。さよポニのメンバー構成や活動スタイルについて軽く解説したところで、ここからはさよポニの音楽の魅力について話していきます。
さよならポニーテール、その魅力って?
とりあえずまずは一曲聴いてみましょう。2ndシングルとしてリリースされたさよポニの代表曲「新世界交響楽」です。
どことなくサブカル感もあって非常にクオリティの高いポップスですよね。サビにかけての歌メロとストリングスの巧みな絡み合いが象徴的なアレンジもめちゃくちゃ凝った出来です。こんな感じの、どこか漂う懐かしさとポップミュージックとしての新鮮さとワクワク感を損なわず両立させるバランス感覚を持ったサウンドはまず一つの大きな魅力。
これも聴いてもらって感じたと思いますが、何よりも特徴的なのは彼女らの歌声。どこかまったりとしたような、脱力感のあるような、上手く言葉では掴めない感じのボーカル。さらに、彼女らの歌の大きな特色はその感情の透明さで、どこまでもまっさらな音楽世界が広がっていく美しさがもたらされています。
ここで前述した彼らの活動形態を思い出してほしいのですが、さよポニはボーカル担当の声以外の情報は全て秘匿で運営された覆面ユニット。イラストでのビジュアルはあれど、リスナーが情報として得られるものは基本的に音楽そのもののみです。そして彼らが作品を通じて提供する情報も歌い手の内面や自我、感情といったものから切り離されたまっさらで純粋な音楽そのもの。さよならポニーテールの作品は音楽制作における美しいものだけが綺麗に取り残された、孤高の世界観を持ったポップミュージックの桃源郷だと思っています。
余談ですが、メンバーのみぃなは2010年代邦楽ロックの雄・Galileo Galileiのレコーディングに参加しており、名曲「Imaginary Friends」や「サークルゲーム」などでコーラスを担当しています。ここでさよポニの名前に触れた人も多いのではないでしょうか、筆者もその一人です。あの世界観を作り上げている重要なピースの一つと言えるでしょう。
さよポニ・全作レビュー
ここからはさよポニがこれまでにリリースしてきた作品について簡単なレビューをしたいと思います。15年近くの活動でリリースされたアルバムは12枚 (うちミニアルバム2枚) 。彼らの音楽性の変遷と一貫した芸術至上主義を見ていきます。
1st Mini 「モミュの木の向こう側」 (2011)

自主レーベル・音楽と魔法からリリースされた自主制作盤。あゆみん・なっちゃん・みぃなのボーカル3人体制での録音で、アコースティックなサウンドを基調として喪失やそれを乗り越える希望がコンセプチュアルに歌われた一枚。初期さよポニはみぃながメインボーカルを執りあゆみん・なっちゃんがコーラスを中心とするのがメインスタイルで、無表情だけれどどこか物憂げな声が美しいメロディを更に引き立たせる。今後様々な曲の歌詞でその名が登場する、さよならポニーテールという物語の第一章となる楽曲「思い出がカナしくなる前に」から始まり、最後「きみのことば」に辿り着いた時の切なさは特別なものだ。さよポニ初期の傑作だが、本作はサブスク未解禁。幸いCDは高騰していないので買いましょう。是非アルバム通して聴いてほしい一枚。
1st 「魔法のメロディ」 (2011)

エピックからリリースされたメジャーデビューアルバム。前作と比較すると楽曲の幅が大きく広がりバラエティ豊かな作品に仕上がったのがポイントで、よりバンドサウンドの風味を増した「あの頃」や「ナタリー」、エレクトロポップ的なサウンドの上で脱力的なラップを展開する「無気力スイッチ」など、どことなくサブカル的な雰囲気を感じつつも全編通してポップスの模範解答を出してくる心地良さが極上。全曲シングルカットできるような各々の曲の質の高さが最高です。収録曲の多くはふっくんが作詞作曲を務めたもので、彼のどこかノスタルジックな情景を感じる歌詞とメロディに、みぃなのあどけない歌声と二人のコーラスが乗るとそこにはもう魔法がかかる。当時在籍していた、イラストビジュアルを担当する "神さま" 担当のメンバーゆりたんによるジャケットもキュートだ。デビュー作にしてタイトル通りポップミュージックの魔法を見事に体現した、2010年代ポップスシーンにひっそりと佇む金字塔。
「ボブネミミッミ」で一世を風靡したAC部が手掛けた「ナタリー」のMVも必見。どこかノスタルジックなファンタジー風味の陰からAC部の顔が…。
2nd Mini 「なんだかキミが恋しくて」 (2012)

2012年リリースのミニアルバム。今作の大きな特徴はボーカル3人を含むメンバー8人 (この時点ではゆゆとしゅかはまだ未加入) が作詞曲を担当した曲がそれぞれ収録されていることで、メンバーがUNICORNを参考にして制作したと語る通り作曲陣それぞれの個性が強く出たバラエティ豊かな作風となっている。ふっくんによる「ぼくらの季節」は疾走感溢れる曲調に絡み合うストリングスのアレンジがたまらない一曲で、その後リリースされる代表曲「新世界交響楽」のプロトタイプ的な一面も。個人的なお気に入りはマウマウによる小洒落たギターカッティングが気持ちいい「雨はビー玉のように」と、クロネコが手掛けたラップやホーンセクションも取り入れた渋谷系的なソングライティングが巧みな「この夜のすべて」の二曲。CD初回盤にはボーナストラックで「あなたに☆めり~くりすます (2012ピアノバージョン)」を収録。
2nd 「青春ファンタジア」 (2013)

ゆゆとしゅかが加入し、 現在の5人ボーカル体制が確立されてリリースされた2ndアルバム。これまでの作品でも見られた音楽性のバラエティは今作でも健在、アルバムとしての緩急を的確にコントロールしながら更に洗練されたバリエーションでポップアルバムとしてのクオリティの高さを確固たるものとしている。過去作と比べるとアイドル的な色を増してきたのがこの時期の特徴で、アイドルソング的なカラーで宇宙人との邂逅を描いた「ヘイ!! にゃん♡」や、これまでの文学的な青春観から日常感を増し、少しエロティックな目線も入れ込んだ「恋するスポーツ」「放課後れっすん」といった楽曲も登場するが、彼女らの歌声の透明性がこの思春期的な恥ずかしさと後ろめたさに独特の浮遊感を与えるのもまた魅力。前述の「ヘイ!! にゃん♡」は本当にさよポニだからこそできる世界観で、過剰に可愛さを演出しがちなアイドル文化に沿った曲の中で脱力と無表情によって歌を作り上げてしまう魔性が見える。そしてアルバム最後、大団円的な立ち位置で登場する大名曲「ロマンス」に涙。
ちなみにCD初回盤には1stシングルとしてリリースされたスピッツ「空も飛べるはず」カバーとコンピ盤収録のCHAGE and ASKA「SAY YES」カバー、そしてBiSとlyrical schoolによるさよポニ曲のカバーを収録。さよポニはカバー曲でもその独特の空気感で素晴らしい光景を見せるのでこちらも是非。
3rd 「円盤ゆ~とぴあ」 (2015)

CD3枚組、全33曲の大作となった3rdアルバム。 CD (=円盤) というメディアにおける最後の理想郷 (=ユートピア) をコンセプトに制作された意欲作で、Disc 1にはさよポニ流の直球ポップナンバーがシングルベストのように畳みかける "A面集で恋をして" を収録。「夏の魔法」は曽我部恵一とザ・なつやすみバンドをゲストに迎えた一曲で、みぃなと曽我部恵一のツインボーカルが夏の独特の温度と空気感を醸し出す。Disc 2は過去にYouTubeで季節ごとに公開されてきたノベルティソングをまとめてコンパイルした "さよポニ・カレンダー" 。どちらも大瀧詠一もといナイアガラのオマージュ的な試み。Disc 3に収録されたのは初期を思わせるアコースティックな楽曲群、ふっくんによる詞曲とみぃなのソロボーカルで録音された "思春期の光と影" で、ここではさよポニ初となる英詞の楽曲も2曲収録。2時間を超える大作ながらそのコンセプトは一貫して統一されており、その匿名性などからも窺える、彼らの世界観の強固さとそれを具現化するクオリティの高さが遺憾なく発揮された作品。
4th 「夢見る惑星」 (2017)

これまでのさよポニにはイラストビジュアルを担当する "神さま" と呼ばれるメンバーが在籍していたが、2016年の12月を以て2代目神さまのちぃたんがさよポニを卒業。 神さま不在のシーズン3に突入した彼らが放ったのは、より抽象的かつ普遍的なポップスの世界だった。これまで思春期や青春といった日常の中から見えるテーマを前面に据えることが多かったのに対して、今作ではSF作品的な世界観が見え隠れするなど、彼らのポップス観はより概念めいた場所へ動く。それに呼応するかのように音楽性も移り変わり、「フローティング・シティ」でより大胆にエレクトロポップに接近してみたり、本格的なアコースティックフォークを入れ込んでみたり、と更にニッチな世界を演出。これは過去一世を風靡した "かつてポップスだったもの" を新たにポップスとして再定義する行為だ。これまで世界観を作り上げてきたビジュアルすらも放棄し、音楽のみを発信する存在として完璧な匿名性を得たさよポニが送り出した、ループする世界 (=音楽性) の中での新しいポップス像。
5th 「君は僕の宇宙」 (2018)

神さま不在の新シーズン、さよポニはこれまで自身で演じてきたノスタルジーから脱却する。過去作ではその匿名性を軸に作り出してきた青春やノスタルジーの演者として歌ってきた彼女らだが、今作でテーマとなったのは "時間は戻らないし、大人になることは避けて通れない" ということ。過去の青春や思い出を歌い、感傷に浸るセンチメンタルな世界。時に痛々しくも過去をなぞるような世界観の歌詞も、歌の透明性は一貫しているのが余計に風景を引き立たせ、その音楽性も世界が齢を取るのに呼応して洗練され空気感を作り出す。そして、これまでの作品を通して描かれていたループする世界のゆくえ。 "時間は戻らない" というキーワードがこの世界の行く末についてひとつの答えをもたらす。アルバムの最後、「青春ノスタルジア」「ファンタジー」の2曲が告げた物語はあまりにも残酷で美しい。これまで展開されてきた "さよならポニーテール" という物語において重要なピースとなる一枚であり、音楽的にもさよポニのひとつの最高到達点だ。
リリース時クロネコが寄せたこのコメントを読むとまた味わい深いものがある。ポップミュージックとは循環や連鎖が生み出していくもので、それは美しくもあり、彼の言葉を借りれば "青春の呪縛" でもある。一曲目の「センチメンタル」のイントロがThe Style Council「Shout To The Top」のオマージュなのも、彼らが自身の過去作に収録されていた曲を再びアルバムに入れたりしていたのもこの連鎖や呪縛の演出、といったところだろうか。過去ポップスであった音楽を再びポップスの壇上に持ってくる試みを行い続ける "さよならポニーテール" というループする世界はポップミュージックの流れそのものの物語でもあるのだ、と筆者は解釈している。
6th 「来るべき世界」 (2019)

さよポニの作品を順番に聴いていったとき、このアルバムで度肝を抜かれるのは間違いないだろう。リードトラックである「空飛ぶ子熊、巡礼ス」で聴こえてくるのはダビーなベースとパーカッション、過去に増してSF的でシュールな詞世界、言葉を詰め込んでラップとポエトリーリーディングの狭間を浮遊するような歌。まるでFuture Funk、とにかく異質な展開だ。このように今作は全体通して今までに類を見ないほどダンサブルな一枚で、ファンク的な影響が色濃いサウンド展開が随所で見受けられる。音数が多くもミニマルな音像と淡々とした歌の中で疾走感が光る「ラプンとツェル」からシンセポップ的な方向の「いつか夢で」など、その振れ幅は様々。その濃厚かつ緻密なサウンドに乗るのは透明感と脱力感を纏ったさよポニのボーカリストたち、というギャップがこれまた最高だ。その中でも「眠れ、シロクマ」「まるで映画のように」などこれまでのさよポニらしい美メロもしっかり回収するアルバムの作りも巧み。青春とノスタルジー、ループする世界、魔法、そこに突然退廃的で異世界のような情景のファンタジーが持ち込まれたさよポニわ~るどはいったい何処へ向かうのか、か、か、か。
また今作はCD2枚組となっており、Disc 2には以前カセットテープで販売されていた「324P Remix」を収録。タイトル通り既存曲のリミックスアルバムであり、原曲の完全な分解というよりかは新アレンジのようなリミックスが施されている。さよポニが大きな武器としてきた声を巧みに用いた形でも再構築され、非常にクオリティの高いリミックス集となっているのでこちらも要チェック。ちなみに「王国のベッドルーム」は未音源化曲なので現在ここでしか聴けません。
Best 「ROM」(2019)

ベスト盤ですが軽く紹介。活動10周年を記念して制作されたベストアルバムで、Disc 1にはふっくん、Disc 2には324P、そしてDisc 3にはメグ、マウマウ、クロネコの3人が手掛けた楽曲がそれぞれ収録。アルバム未収録曲も多く揃えられ、例えば前述した2ndシングル「新世界交響楽」はオリジナルアルバムには未収録なのでここで初収録。「ハミングの色」や「神さまのイタズラ」、「秘密の時間」などシングルのみでリリースされ入手困難だった曲もまとめて網羅。YouTubeのみで公開されていた初代あゆみん (あゆみんは一度所謂中の人が変わる"代替わり"をしています) の卒業曲「ゆめなんです。」の初音源化もあり、更には「いっぱいしっぱい」「テン」の新曲2曲も収録。そしてアルバムの最後を飾るのはさよポニワールドを象徴する、クロネコ作詞曲の「わ~るど(みたいな)」と「わ~るど2」の2曲。音楽、魔法、ループを軸としたさよポニの世界観はこのベスト盤でも物語を描く。ただのベスト盤に留まらない充実ぶりの一作、入門編としてもハマった後のネクストステップとしても是非。
7th 「きまぐれファンロード」 (2020)

ベスト盤を経て発表された7作目はミディアムナンバーを中心とした全9曲32分のコンパクトな仕上がりに。324Pによる気だるげでダンサブルな「初恋ペンギン」、マウマウとクロネコの共作ポップチューン「それゆけジャーニー」などさよポニらしさを随所から感じるキュートな曲が並ぶ。歌詞もキュートなファンタジーから放課後、魔法などこれまでのさよポニらしい世界観だ。だがしかし前作までで多彩な実験精神を取り入れてきたのがさよポニ、アコギ主体のフォークトロニカに朗読を乗せた「肖像と白昼夢」やカントリー的なサウンドからいきなりのテンポチェンジをこなす「昨日のように遠い日々」など、その攻めた姿勢は健在。そして先行シングルとして発表された「シオン」はあゆみんメインボーカルの新境地的な名曲。同年みぃながソロとしてアルバムをリリースしたのもあってか、今作ではみぃなのメインボーカルの比率が過去よりも下がり5人それぞれの声を楽しむこともできる。過去作の強さを受けるとコンパクトで地味な印象を受けるかもしれないが、これまでの音楽的な探求を改めてさよポニ流王道ポップスに落とし込んだ快作と言えよう。
8th 「銀河」 (2021)

コロナ禍でもさよポニの活動は左右されない、と言うかの如く黙々と音楽制作を続けた彼らが放った8作目。 みぃなが作詞曲を務めたアコースティックナンバー「はじまった」で幕を開けるバラエティ豊かな11曲。前半のハイライトは先行シングルとして配信された「キマイラ」、シンコぺを入れまくったメロディラインと暴れるベース、あゆみんとしゅかの気だるげなマイクリレーとまさにキメラのようなトリッキーさがたまらない。初期を思わせるコーラスワークとユニゾンが心地いい「楽園」、ソングライターのメグがボーカルも務め、オノマトペを多用した歌詞が勢い全開のドラムンベース「ちいさなへいわ」、Twitter越しの素性が分からない "君" を想う切ない名曲「みえないフレンド」などそれぞれが独自のカラーを発揮。このテーマを完全な匿名性を持ったさよポニでやってしまうメタまで含めて解釈の余地が分かれそうな不思議さ。そしてアルバム最後に置かれた「この道」はミニマルなサウンドでファンタジーを歌いつつも力強いメッセージが込められた名曲。大きな一つの物語というよりかはアンソロジー的な側面が強く、 シンガー5人とソングライター5人それぞれが描く物語に浸れる一枚だ。
9th 「夜の出来事」 (2022)

久々に攻めたモードのさよポニが帰ってきた。可愛くてポップ、そこから見える物語性とノスタルジー、それらを見せてきた彼らのニューモードはアダルティ。 そんなさよポニによる9作目は詞、曲、サウンドの全てを "夜" というコンセプトで統一。シングルカットされた「キュリアスガール」の時点でその異質さは際立ち、シンセポップ的な方向性をふんだんに導入、吐息を用いたコーラスワークにディープかつダンサブルなミニマルサウンド。今までのさよポニらしさもある「月とピザ」でもノスタルジーを完全に振り切り都会的なモデルチェンジを遂げている。ハイライトはなんと言っても「クレイジーボーイ」、サビで入ってくるコーラスが絶品。今作のモードを最も上手く演出するのがボーカルで、これまで透明性や無表情といったキーワードで表してきた彼女らの歌声はこの "夜" や "都会的" といった情景と非常に相性が良い。みぃなのブレスが多めに聞こえる歌い方もあどけなさからアダルティなムードに変化して作用するのだ。最後「朝日のように君は」で夜が明け作品の幕が閉じる流れも美しい。さよポニ屈指の異色作、ビジュアルまで大きくイメージチェンジして作られたコンセプトの美しさを堪能できる一枚。
10th 「You & I」 (2024)

2024年リリースの目下最新作。みぃなによるアコースティックナンバー「虹を見たかい」で幕を開ける今作は前々作『銀河』の流れを汲むアンソロジー的なポップソング集の趣。アコギカッティングが気持ちよく、前作の続きとして "光" をテーマに据えた「ルーシア」、 90sの香りが弾けるド直球最高ポップス「ふれられない奇跡」など、さよポニのノスタルジーとその中からも湧き出るエヴァーグリーンさを存分に感じられる楽曲揃い。それに対してドープさとシティポップ的な影響も感じる「星の旅路」「クルーエルボーイ」や、ダブ色が深い音と気だるげな歌声の相性が抜群な「夜のたわむれ」など前作『夜の出来事』の延長線上にあるサウンド展開も導入。更には初期らしいアコースティック路線「フレンド」、マウマウによるファンク系統の「アポロン」、新機軸としてボサノヴァから意表を突く作りの「絵空事」、そしてアルバムを締めるのはローファイヒップホップとウィスパーボイスのラップが異色な雰囲気を醸し出す「いのる」。アルバム10曲全部を紹介してしまったが、今作はこれまでのさよポニの音楽的冒険を一枚に結実させてみせたような幅広さと窓口の広さを両方兼ね備えた一枚ということだ。個人的には今作がさよポニの最高傑作だと思う。
今作収録の「ふれられない奇跡」、筆者がさよポニで最も好きな曲なのでもう少しだけ話を。My Little Loverなども感じさせるふっくん作詞曲、ゆゆ & しゅかリードボーカルの王道ポップナンバー。この曲の聴きどころはサビ前に入ってくるあまりにも美しく切ないコーラスワークと二人の個性が光るツインボーカル、そしてサビの最初に置かれたこのフレーズ。
ひとりきりのさびしさが ぼくらの正体だ 今わかる 大人になるってこと
"大人になるってこと" という少し足りないように聞こえるフレーズのみでまたサビのフレーズに回帰していく切なさは一級品だ。素晴らしい名曲。
(あと個人的かつ我儘な話ですが、オンライン限定販売だった今作のCD再販を切実にお願いしたいです。筆者がさよポニにドハマりしたのが今年の1月の話で、その直前にCDが完売してしまったので…。これだけの傑作確実にフィジカルで所持したいし (アナログは買いますが) 、これだけ入れ込んだアーティストに出会うのも久々のことなのでできれば全作CDで揃えたいです。次のアルバムリリースの機会などに是非お願いします…。)
というわけで、さよポニがこれまでに発表してきたアルバム全12枚を紹介してきました。度々言及した通り、音楽作品を通してさよポニわ~るどの物語を描いてきたグループなので、是非最初から順番にアルバムを聴いていってほしいですね。更に彼らの世界観に深く潜り込むことができると思います。
そんなさよポニの最新曲は昨年の12月にリリースされた「それから」。なんとボーカルなしのクロネコによるピアノオンリーのインスト曲。更にクロネコによるとこの曲の仮タイトルは「わ~るど (えんど)」、前述したさよポニわ~るどの象徴としての楽曲「わ~るど (みたいな)」「わ~るど2」のエンドロールにあたる楽曲とのこと。
そのタイトルが「それから / after that」、つまりこれからその続きが始まるということでしょう。この先のさよポニわ~るどに一体何が起こるのか。今後のさよポニからも目が離せません。
最後に筆者が選んださよならポニーテールの名曲20選のプレイリストを置いておきます。皆さんも是非さよポニというミステリアスかつポップな音楽の魔法に触れてみてください。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!