#2「ピルで生理を止めるのって身体に悪くないんだ?」
前回の振り返り
♯1「生理痛って慣れで耐えてるだけだよね」では、「生理痛が重い人の基準って何?」や「生理の量が多いってどれくらい?」など生理の普通について話しました。
また初産の高齢化や出産回数の減少により、100〜200年前に比べて現代女性の生理の数が約10倍も増えていること、重たい生理痛の原因になりうる子宮内膜症だったり腺筋症だったりは、生理の回数が増えるとより症状が重くなっていくものだということを学びました。
さて今回は、そんな時代だからこそうまく付き合っていきたい「ピル」について話していきます。
ピルを飲んだら生理痛が軽くなった
いちこ「前回も話した通り、ピルは避妊のためだけじゃないから。むしろ、生理痛を和げたりPMSを改善したりするメリットもたくさんあるからね」
にこ「ピルって、特に男性は避妊のために飲んでるって思い込んでいる人が多いよね。率直に言ってすごく不愉快です」
いちこ「避妊の効果ももちろんあるけど、全然それだけじゃないよ」
にこ「生理周期を安定させるために飲む人もいるよね?」
いちこ「いるいる。大事な予定に生理がぶつからないようにする人も多いと思うよ。旅行とかね。私が初めてピルを飲んだのは医師国家試験のときだった」
にこ「超大事試験じゃん!」
いちこ「いや本当に!試験日が生理とかぶりそうになっちゃって。それまでは生理がしんどくても痛み止めを飲んで我慢してたんだけど、人生がかかった試験だったから、さすがに病院に行って低容量ピルを処方してもらったよ」
にこ「試験中はトイレも行けないし、万全の状態で受けたいもんね」
いちこ「うん。あと生理中はめちゃくちゃ具合が悪くなっちゃうから、それは絶対に避けたくて。処方してもらったピルを飲んで、生理を試験期間からズラせて無事に合格できた。正直、生理日とかぶっていたら確実に試験は落ちていたと思う……」
にこ「それくらい大問題よね。良かった良かった」
いちこ「良かったよ、本当に。しかもピルを飲んだあとの生理がすごく楽だったの!生理の量も減ったし。ああ〜こんな楽になるのかって、感動した」
にこ「生理痛が重たい人にとって、ピルは救世主なんだね。ちゃんとこの知識が広がってほしいです、切実に。
そして先生、初歩的な質問してもいいですか?私、ピルのこと多分何も知らなくて、どんな種類があってそれぞれどんな効果があるのかとか、何も知らない!ちゃんと知りたいです!」
⭐︎ここからピルについて説明しながら話しますが、
執筆段階(2024年10月)の情報であり、
あくまでも一個人の見解による内容になります。
体調や人によって合う・合わないがもちろんあるので
婦人科で受診し、担当医にちゃんと相談してください。
上記をご理解してご覧くださいませ⭐︎
ピル・ホルモン製剤の種類いろいろ
▼生理の仕組みについて
いちこ「そしたらまず、そもそもの生理の仕組みについて話そうかな」
にこ「自分の身体のことなのに、改めて聞かれると説明できない……」
いちこ「女性は約1ヶ月に1回、妊娠するために排卵(卵巣から卵子が排出されること)がおこるんだけど、それにあわせて、赤ちゃんのベッドのような役割を担う子宮内膜をホルモンの指示で厚くするのね。妊娠が成立しない場合はその(厚くなった分の)不要な子宮内膜が剥がれ落ちる。これが生理」
にこ「なるほど。それで出血が起こるのね」
いちこ「そうそう。で、そこには2つのホルモンが関係していて。
エストロゲンが子宮内膜を厚くする作用、プロゲステロンがその厚い状態を維持する作用があります」
にこ「うんうん」
いちこ「これを理解してもらったうえで、ここからピルとかホルモン製剤の話をしていくね」
①低用量ピル
いちこ「最初は一番聞き馴染みがあるであろう“低用量ピル”について。
低用量ピルにはエストロゲン、プロゲステロンの両方が少しずつ入っています。それを飲むことで「身体に2つのホルモンが一定数存在している」=「妊娠に近いホルモンバランスをつくる」から、脳が錯覚して排卵の指示をストップするのね。
さらに2つの少量ずつのホルモンでつくられる子宮内膜は薄いから、剥がれ落ちる量が減って血の量も減るし痛みも軽減される」
にこ「なるほど!低用量ってホルモンが少ないから?」
いちこ「えっとね、正確にいうと“エストロゲンが”低用量って意味だね。中容量ピルとの区別でそういう名称になってる」
にこ「へえ〜。ちなみに低用量ピルを飲むときに気を付けることってあるのかな?」
いちこ「副作用がでる可能性があるから、処方するときには必ず説明するよ。一般的には眠くなっちゃったり吐き気がしたりが多いかな。
持病やそのときの身体の状態によって処方できない場合があるから、医師の判断に従って飲むのが一番いいね。今はオンライン処方とかで買えるところも多いけど、年に1回はちゃんと診断してもらうべきかな」
にこ「コンタクトと同じ感じかな?同じ種類を使い続けるにしても、年に1回くらいはお医者さんにちゃんと目の状態を確認してもらいましょう、的な」
いちこ「そうそうそう。あとは低用量ピルを飲むと血栓(血の塊)ができやすくなるリスクがあるんだけど」
にこ「聞いたことある!喫煙者が特によくないんだっけ?」
いちこ「うん。だから喫煙者には低用量ピルは基本的に処方できない。月経前のエストロゲンの減少によって偏頭痛の強い症状が出るとされているから、前兆のある偏頭痛持ちの人にも推奨できなくて。あとは太っている人も血栓ができやすい傾向にあるから、BMI30以上の人には処方しづらいかな」
にこ「結構飲めない人が多いんだね」
いちこ「うん。あと高血圧の人とか年齢も40歳超えてくると処方しづらい。でも今はホルモン製剤にも種類が増えていて、喫煙者や偏頭痛持ちでも飲めるものがあるよ」
②ディナゲスト
にこ「血栓ができやすい人でも飲めるってこと?」
いちこ「そうそう、BMIが高い人とか喫煙者も飲めるピルで“ディナゲスト”っていうものがあって。これにはプロゲステロンしか入っていないのね。
血栓の原因になると言われているのがエストロゲンで、それが入ってないから喫煙者も飲めるよ」
にこ「初めて聞く名前だ」
いちこ「ただディナゲストは副作用で不正出血のリスクがあるのね」
にこ「ちょっと怖いね……!まぁでもちゃんとお医者さんに適切なものを処方してもらったうえで、リスクを理解して飲めばいいもんね」
いちこ「うん。ディナゲストも飲むことで妊娠に近い状態をつくって排卵をおこさないんだけど、低用量ピルと違って、継続的に飲み続けて生理を完全にこなくするんだよね」
にこ「え!完全にストップさせていいの?」
いちこ「知らないとちょっとびっくりするよね。生理を止める話の前に、もう1つのホルモン製剤を紹介します」
③レルミナ
いちこ「ディナゲストと同じように、生理をストップさせる作用がある薬でレルミナっていうものがあって」
にこ「完全に初めて聞く名前です」
いちこ「めちゃくちゃ簡単に言うと、レルミナを飲むと閉経のような状態をつくるのね」
にこ「おお〜。もう生理が終わった身体にするってこと?」
いちこ「そうそう。妊娠のために必要なエストロゲン、プロゲステロンって脳からの命令で出てるんだけど、レルミナは脳の命令に作用してホルモンを出させなくさせるの」
にこ「なるほどね〜。脳を錯覚させるんだ」
いちこ「だから副作用で更年期障害みたいな症状が出ることもあるんだよね」
ここからは生理を止めることについて詳しく話していきます!
生理を止めることは悪くない!
にこ「どの薬にもメリット・デメリットがあるし、副作用は実際に飲んでみないとわからないんだね。やっぱりちゃんと病院に行って先生に相談しながら自分に合った薬を見つけていくのが大切ってことね」
いちこ「ちゃんとそれぞれの特性を自分でも理解するのも大事。多分、ピルやホルモン製剤を必要としている人って生理痛が重たい人の中でも、仕事とかが忙しい人が多いと思うんだよね。だから病院に行く時間がつくれないのかも」
にこ「あー、確かに。平日は動けない人も多そう。でも定期的に行かないとね。そして、生理をストップさせる話について詳しく聞きたいです!」
いちこ「ディナゲストとレルミナは、さっき話したように生理を止める薬なんだけど、つまり飲み続けている限りはずっと生理がこないし排卵もおきないのよ」
にこ「低用量ピルみたいに一定の周期で生理をおこす必要もないの?28日だっけ?」
いちこ「低用量ピルも種類によって120日周期(年に3回)のもあるよ」
にこ「え!そうなんだ、知らなかった。別に月に1回必ず生理をおこさなきゃいけないわけじゃないんだね」
いちこ「ここも明言できないんだけど……。ただ#1でも説明したように、生理や排卵は子宮内膜症の原因になりうるのね。だからその原因になる生理や排卵を止めるのは、むしろ子宮内膜の悪化を防いでいるともいえるのよ」
にこ「つまりピルでちゃんとホルモン調整をしたうえで生理を止めることは、身体に悪くないんだ?
昔、仕事中の雑談で『生理が来るのが嫌すぎて、ピルでずっと生理を止めてるんですよ〜』って話している方がいて。そのとき、その場にいた女性全員が『えー!ずっと止めるのは身体に悪くないですか?』みたいなことを言っちゃったのを今思い出した。詳しく聞かなかったけど、その人は生理痛がすごく重たくて、生理を止めないと日常生活を快適に過ごせなかったのかもしれないね。悪いことしちゃったな、申し訳ない……」
いちこ「これについては知らない人の方が圧倒的に多いと思う。病院で処方するときに患者さんと相談しながら、一定周期で生理をおこすこともあるんだけど、それもケースバイケースだから、担当医に相談してほしいです」
ピルで妊娠しにくくなることはありません!
にこ「あとさ、ピルを飲むことで妊娠に影響がないか心配している人も多くない?」
いちこ「多い!高校生くらいで生理に悩んで病院に来る子は親御さんといらっしゃるんだけど、お母さんから『ピルを飲んで生理を止めることで妊娠に悪影響はないですか?』ってよく聞かれるよ。
ピルで妊娠しにくくなることはないし、特に子宮内膜症の人は状態を悪化させずに済むからむしろいいことだと思う」
にこ「重たい生理をたくさん経験するより、止めちゃう方が身体にいいかもしれないのか。え、じゃあもしかして極論、妊娠を考えるまで止めちゃってもいいってこと?」
いちこ「子宮内膜症の人は特にそうだね」
にこ「なるほど。じゃあ2〜3年後から妊活しよう!って思っている生理痛が重たい人は、薬で生理を止めて妊活までに子宮の状態を整えるのも、状況次第ではアリってことね。勉強になる〜〜〜」
「避妊リング」は生理痛も軽くなる!
にこ「そしてピルやホルモン製剤にはいろんな種類があるんだね。低用量ピル以外、ほぼ知らなかった」
いちこ「最近は避妊リングっていうのもあるよ」
にこ「それもなんか聞き覚えはある!」
いちこ「リング自体からプロゲステロンの一種のレボノルゲストレルっていうホルモンが出るんだけど、それで子宮内膜が厚くなるのを防ぐ」
にこ「じゃあ生理痛も軽くなるんだ!それって手術で入れるの?」
いちこ「ううん、外来で簡単に入れられるよ。入れてから5年有効だから、生理痛とか生理の量に悩んでいて、しばらく妊娠は考えません!って人にいいかも」
にこ「生涯子どもを産むことは考えていません、って人も多そうだもんね」
いちこ「うん。あとは既に子どもがいて、もうこれ以上産むことは考えていません、って人にもおすすめだね」
にこ「いくらくらいかかるの?」
いちこ「月経困難症の診断が出れば保険適用で1万円くらいのはず。保険が効かない場合は5万円くらいかなぁ。ちょっと高いよね」
にこ「確かに。でも5年間って考えるといいのかもね。というか、想像以上に選択肢がたくさんあって驚いています」
いちこ「実はいっぱいあるんだよね。生理痛の悩みや生活習慣、将来設計によって何が一番いいか変わってくるよね」
にこ「それぞれリスクもあるしね。最終的な判断はお医者さんに相談して選ぶべきだと思うけど、そもそも生理痛を軽減させる方法はたくさんあるんだよってことを知ってほしいね」
いちこ「本当にそうだね。生理はほぼ毎月くるものだし、その度に痛みを我慢するのは辛いし身体にもよくないから、ぜひ気軽に婦人科に相談に来てほしいです!」
にこ「悩んでいる間に症状が悪化する可能性もあるもんね。
では次回は“生理の一般知識”について考えます!」
次回予告
#3「生理の知識と想像力が欠如してるやつが多い」
次回の公開は11月29日(金)予定です。お楽しみに!