第五十七話 日本人と外国人
仕事を終えて家に帰る。シャワーを浴びて冷蔵庫からビールを取り出し乾いた喉に流し込む。ポケベルが鳴る。『724106』という数字が打ってある。(何してる?)と言う意味だ。『182164』(家に居るよ)と返す。『111014』(会いたいよ)と返ってくる。若い世代の人には全く理解できないだろうが、昔のポケベルは数字で文章を打って相手に伝えていた。『1056194』(今から行くよ)と返す。ビールを飲み終え、急いで着替え外へ出てタクシーを止めて、タクシーに乗り込み行先を告げる。行先はチェリーのいるフィリピンパブだ。
店に入るとボーイさんに「ナンメイサマデスカ」と聞かれ一人だと告げると席に案内される。早速チェリーがやって来て「キテクレテウレシイ、アイタカッタヨ」と言ってくる。「仕事が残業でさっき帰ってきた」「ソウナンダ、オツカレサマー」そんな会話をしながら楽しい時間が過ぎていく。チェリーは歌が好きで、上手かった。よくマライアキャリーの歌を好んで歌って私もよくリクエストした。
ボーイさんが来てチェリーを呼ぶ。「チョットイッテクル」チェリーは自分のグラスの上に名刺を置いて席を立つ。グラスの上に名刺を置いていくのは自分の指名のお客さんだと分かるようにである。チェリーは人気があったので指名のお客さんも多かった。指名の子が抜けるとヘルプの子が席についてくれるのだが、やはりチェリーの事が気になってチラチラとみてしまう。キャバクラでのあるあるである。指名が入ったから焼きもちを焼く客は女の子には好かれない。これもキャバクラあるあるである。
ただヘルプがつくのが嫌なわけではなく、ヘルプの子たちとも馬鹿なことを言い合って楽しく盛り上がっている。ヘルプの子がついた時はタガログ語を教えてもらったりもしていた。自分でも本屋でタガログ語の入門書を買ったりしてタガログ語を勉強した。少しでもチェリーが喜んでくれればと思ったからである。指名が重なっている子はボーイさんが各テーブルの時間をみながら行ったり来たりさせる。極端についている時間が短いと怒り出す客もいるのでボーイさんも大変である。私は若干18歳ではあるがキャバクラには慣れていたため焼きもちを焼く事もなく、逆に「俺のところは付ける時間短くても良いよ」と言っていたため店のボーイさんからも好かれていた。チェリーは私の席に戻ってくると決まって「コノセキカラハナレタクナイヨー」と言った。
だんだんと同伴やアフターにも行くようになっていった。同伴の場合は一緒にご飯を食べてゲームセンターなどで遊んでから店に行く。アフターは店が終わった後フィリピン人の経営しているフィリピン料理屋に行ってご飯を食べたり、ディスコに行って遊んだりした。次第にアフターの後は近くのホテルに行ってSEXする関係になっていた。枕営業と言われるものである。
何回も店に通ううちに彼氏や彼女の話などもするようになっていった。チェリーには彼氏はいないらしい。まあ水商売では、指名の客に彼氏がいるなどと言うのはご法度ではあるのだが。私もその時は彼女がいなかった。前に付き合っていた彼女とは、私がまた薬物をやったのがきっかけで別れてしまっていた。チェリーと話しているとなんとなく私に好意を持っているのではないかと感じることが多くなっていた。営業とはまた違った好意がである。私もその頃にはチェリーが好きになっていて、チェリーと付き合いたいと思うようになっていた。
ある日のアフター、ホテルに入りSEXが終わった後、私は「俺と付き合わない」と言ってみた。「ウレシイ、ワタシモツキアイタカッタ」と言ってくれた。「ワタシハツキアッタラ、オミセニアマリキテホシクナイ」「ミセニキテモラウタメニツキアッテルトオモワレチャウカラ」そんな事を言うチェリー。営業ではないという事が分かって、本当に好意を持ってくれていたんだなと感じた。
それからは、店に行く前にご飯を食べたり、店が終わった後待ち合わせをして食事やディスコに行ったりするようになった。私は外国人とSEXをするのはチェリーが初めてだった。肌の質感も日本人とは違うし、何よりもプレイが積極的だった。日本人とは違う感覚に私は虜になった。初めての外国人の彼女。外国人とのSEXを経験した私はどんどん外国人が好きになり日本人と付き合いたいと思わなくなっていた。
チェリーの店に飲みに行くことが無くなっても、違う店には飲みに行っていた。だが飲みに行く店も外国人の店が増えて行った。先輩と飲みに行くときは日本人の店に行くが、一人で飲みに行くときは外国人の店に行った。18歳にして外国人の良さに気付いてしまった私は少し大人になったような気がしていた。
その後はチェリーがフィリピンに帰るときに別れることになるのだが、次の彼女もフィリピン人だったし、数年間は日本人と付き合わず外国人と付き合っていた。若くしてフィリピンパブがきっかけで、外国人にハマる男は中々いないのではないかと思う。
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