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西日本の衝撃を受けたパンでサッカーフォーメーション組んでみた①

筆者はここ約1年半で500店舗以上のパン屋さんを訪問し、行く先々でパンを食べて来た。そういう話をすると、「一番美味しかったのはどこのパン屋さんですか?」と、たくさんの人から聞かれる。

日本のパン屋さん約1万店舗の中から、美味しいと言われている人気のパン屋さんや、美味しい特徴を持ったパン屋さんを事前に厳選して訪問しているので、1万店舗分の5パーセント程度とは言え、参考になることは言えるかもしれない。ただ、美味しいは主観であるし、パン屋さんそれぞれ違う色を持っているので、一概にこれが一番というのは非常に難しい。誰かの言葉を借りると、一番綺麗な色を決めることなんてできないのだ。赤も青も黄色もそれぞれ素晴らしい。

それでも世のパン好きの方々、パンに関わる方々に何か少しでも気づきになるようなことを発信したい!もっと地域の美味しいパンを知って欲しい!という思いから、筆者が西日本で出会って衝撃を受けたパンを面白おかしくご紹介して行きたいと思う。

題して「西日本で衝撃を受けたパンでサッカーフォーメーションを組んでみた」

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スターティングメンバー発表の前に1つ断っておく。今回の記事はできるだけ新たな発見をご紹介したいと考えているので、下記の西日本で超がつくほどの人気店、スターシェフのお店は、殿堂入りとして今回は除外したいと思う。

  • 生瀬ヒュッテ 兵庫県西宮市

  • Le Sucre-Coeur(ルシュクレクール) 大阪府吹田市

  • PARIS-h(パリアッシュ) 大阪府大阪市

  • BÄCKEREI BIOBROT(ベッカライビオブロート) 兵庫県芦屋市

  • pain stock(パンストック) 福岡県福岡市

  • Ca marche(サマーシュ) 兵庫県神戸市

  • たま木亭 京都府宇治市

では、早速参りましょう!

フォーメーションは3-5-2で真ん中を厚くする布陣。ディフェンスラインは3バックで、しっかりと腹ごしらえができる惣菜パンを揃えている。5人のミッドフィルダー陣は、パスワーク重視で、月火水木金の5日間を毎週ローテしても飽きない、且つどんな癖の強い食材やメインディッシュに合わせることのできる高度なパンたちである。特にサイドハーフには、個の力で相手陣地に侵入することも可能(つまり、そのパン単体でも美味しく食べられる)な上、精度の高いサイドからのセンタリングを肉や野菜に合わせることで、非常に美味しくフィニッシュすることもできる。フォワード陣は個性の強い2枚。どちらも得点力が高く、昼夜選ばず胃袋に強烈なシュートを叩き込んでくれる。全体的に見ても、パン1人1人の個性が強いチームができたと自負している。

まずはゴールキーパーは島根県出雲市「Le CochonD'or Shussai(ルコションドール出西)」から「キーマカレーパン」

惣菜パンの守護神と言えばカレーパン。このパンの美味しさでそのお店の惣菜パンのレベルが分かってしまうぐらい重要なパンである。昔からパン屋さんの中で人気メニューであるが、最近では、ホリエモンこと堀江貴文氏が発案した「小麦の奴隷」の「ザクザクカレーパン」やYouTuberラファエル氏のカレーパン専門店「小麦の禁断症状」などさらに注目度が増している。また、カレーパングランプリというイベントが毎年開催されており、今年2022年は136種106店舗が出場し、過去最多の10万以上の票が集まっている。

そんな数多とあるカレーパンからなぜ、ルコションドール出西のキーマカレーパンを選ばせて頂いたのか?

筆者は以前キッチンカーでスパイスカレーを販売していた関係から、たくさんのカレーを食べてまわって研究していたので、カレーには正直うるさい方だと思っている。しかし、このキーマカレーパンは驚く程美味しかった。そのことをシェフに告げると、なんと筆者が研究中に見つけて大好きだった人気スパイスカレー店で働いていたシェフから学んだとのことである。そしてさらに、そのキーマカレーは毎日店舗で作られているというのだ。パン屋さんは、毎日早朝の激務からカレーなど惣菜パンに使う具材(フィリング)は外部から購入したり、購入してから一部調理するなど工夫して作業を軽減したりするが、自家製となると非常に手間がかかる。自家製=美味しいに100%繋がるわけでは無いが、美味しい確率がグッと上がると筆者は考えている。

こちらのルコションドール出西は島根県出雲市に位置するが、観光名所の出雲大社からは少し離れており、田んぼに囲まれてポツンと建っているようなお店である。しかし、毎朝午前9時半のオープン時には行列ができるほど人気で、筆者が伺った時は、50台以上停められる大きな駐車場がほとんど埋まっていた。県外からのお客さんも非常に多いとのこと。

続いては、全て惣菜パンで固めたデフェンス陣。
あらためて、惣菜パンとは、調理したおかずや具材をトッピングしたり挟んだりして作るパンのことであり、調理パンやおかずパンと呼ばれることもある。調理したおかずや具材の素材が良ければ、美味しい確率が上がるのは想像に容易い。しかし、今回筆者が注目したいのは、惣菜パン全体の味のバランスである。例えば、ディフェンダーにとっては、高い身長や屈強な筋肉が重要であったりするが、選手の素材が全てではないということである。2006年に世界年間最優秀選手(バロンドール)を獲得したファビオ・カンナバーロ氏は、ヨーロッパのセンターバックとしては低身長の175cmであった。つまり、瞬発力、ジャンプ力、鋭い洞察力と読みなど、身長を補う武器をたくさん持っているのだ。パンにおいても、素材だけで無く、複数の武器についても見ていきたいと思う。

まずは3枚のセンターバックの中心は、愛媛県松山市「be-blé ARTISAN BREAD(ビブレアーティザンブレッド)」から「じゃがバタフランス」である。

炭水化物の生地に炭水化物の具材ということで、あっさりかあるいは、バター中心の味わいになるかと思いきや、生地の旨味、じゃがいもの旨味、バターの味がバランスよく味わい深くて美味しいのだ。生地はバゲットと同じ生地が使われているのだが、国産小麦をメインに使ったハード系パンが得意なパン屋さんなので、生地の味は間違いない。

こちらのビブレアーティザンブレッドは、2022年9月28日に、旧屋号の「POUCED DE CHEF(プースドシェフ)」から移転リニューアルオープンしたばかりで、プースドシェフ時代のじゃがバタフランスは食べられないかもしれないが、こだわりと探究心が素晴らしいお店で、新たな衝撃パンに出会えるはずである。特にオーナーの得居シェフは、愛媛を飛び出して他の地域のパン屋さんや小麦農家に会いに行ったり、インスタグラムで国内外の新しいパンをチェックしてはお店のメニュー開発に活かしたり、エネルギーが半端ない方である。まさに進化系ベーカリー。新店舗になってからも、石臼を使って自家製粉を行うなど、進化が止まらない。

続いては、福岡県福岡市「Boulanger Kaiti(ブランジェカイチ)」の「牛スジ煮込みパン」である。

国産の牛すじ肉、にんじん、ごぼう、こんにゃくなどをぐつぐつ煮込んだものが、モチモチのパン生地に包まれているパンだ。日本にはカレーライスの文化があるので、このような煮込みとご飯を連想させるようなパンは非常に良いバランスだと思われる。実際、中の牛スジ煮込みをご飯にかけても美味しいはずである(笑)。

こちらのブランジェカイチのオーナーの二日市シェフは、ホテルベーカリー出身とのことであるが、筆者がたくさんパン屋さんをまわった経験上、惣菜パンの美味しい店は、シェフが元ホテル系であったり、料理人(特にフレンチなど洋食)出身の方が多いイメージだ。ホテルであれば、料理人の方と話す機会もあるだろうし、料理に合わせたパンをつくる機会もあるだろう。ホテルやレストランの環境が、惣菜パンのレベルを上げることに繋がっているものと予想している。

それでは最後のディフェンスは、岡山県岡山市「PUBLIC(パブリック)」から「オリーブとチーズのロデヴ」である。

Lodeve(ロデヴ)は南フランスのラングドック・ルーション地方にあるロデヴという町の名前が由来になっている。特徴としては、パン生地の加水率が高く、水分を多く含んだ高加水のパンである。そこにオリーブとチーズが加わるのだが、この相性が最高であった。オリーブとチーズはそれぞれ味に強い特徴を持っているので、パンの小麦の風味や味が強過ぎると打ち消されてしまうが、見事なバランスを感じることができたのだ。

こちらのパブリックのオーナーの金谷シェフは、まさに先ほど述べた傾向通りの元フランス料理店で働かれていた方である。オープンされたのは2020年6月とまだまだ新しい。現金使用不可の完全キャッシュレスというユニークなお店で、スタッフの方に「当店キャッシュレスですが…」と説明を受けた時、思わず「大賛成です」と反応してしまった(笑)。コロナ禍にオープンしたにも関わらず、大人気のお店である。

続いてミッドフィルダーに移っていくが、まずは守備的なミッドフィルダー、ボランチから紹介していきたい。ここで言う守備的とは、ディフェンダーの惣菜パン程では無いが、しっかりパンチが効いていて、朝昼の食事として単品でも戦えるパンのことである。そして、偶然ではあるが、2枚のボランチはどちらもオーナーシェフが冒頭の殿堂入りパン屋さんとして紹介したパンストックのご出身である。パンストックと言えば、2010年7月開業とまだ新しいながらたくさんの人気店シェフを生み出し、パン業界の台風の目となっているパン屋さんである。筆者もたくさんのパン屋さんをまわっていて、パン職人の方々からよく名前をお聞きしている。

ボランチの1つ目は、山口県周南市「Le Grand Ballon(ルグランバロン)」から「ブレッツェル」

Brezel(ブレッツェル)はドイツ発祥のパンで、縄を結んだような特徴のある形をしている。頭文字はBだが、日本語で発音する際はプレッツェルと呼ばれることが多い。筆者はドイツパンの中でも、ブレッツェルが好きで、ドイツ系パン屋さんに訪れた際は良く購入しているのだが、ここのブレッツェルは格別であった。

ブレッツェルはシンプルなパンなので、発祥のドイツではビールのおつまみになったり、ハムやソーセージと一緒に食べることが多いが、ルグランバロンのブレッツェルは非常に味わい深く、まさに先ほど述べたように、これだけ単品で食べても美味しく頂けてしまうのだ。オーナーの西村シェフは、パンストックの他にフランスのアルザス地方での修行経験もあり、日本と海外の両方の良さが滲み出ているようだ。アルザス地方はドイツの国境に面しており、そこでドイツパンに触れられたのではと考える。また、生地は石臼で挽かれた全粒粉を使っており、小麦の味わいをしっかり感じられるのは、小麦の味を大事にされているパンストックから得たものではないか。と、あくまで筆者個人の妄想であるが、地元山口県産の小麦「せときらら」を使ったパンも作られていたり、小麦へのこだわりがあるのは間違い無いと思われる。

もう1つのボランチは、福岡県八女市「Olivier Rain(オリビエレイン)」の「八女抹茶のブリオッシュ」である。

Brioche(ブリオッシュ)はフランスのリッチな菓子パン(ヴィエノワズリー)の1つであり、卵と乳製品をたっぷり使っていることが特徴である。発祥は乳製品の産地として有名なノルマンディー地方と言われている。現代ではブリオッシュは朝食に食べることもあるが、材料が焼き菓子に近いことから、発祥当時はお菓子として食べられることが多いようであった。マリー・アントワネットの有名な作り話「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない」のお菓子はブリオッシュのことである。フランス語原文はbriocheと明記されているのだ。

そんなリッチな菓子パンであるブリオッシュが、和テイストに仕上がったのが八女抹茶のブリオッシュだ。使われている抹茶は、地元八女にある星野製茶園の高級抹茶である。抹茶は京都の宇治が有名だが、実は八女は日本でも有数の高級茶の産地なのだ。そんなハイレベルな抹茶でつくられたフワッフワなブリオッシュ生地がとてつもなく美味しかった。また、生地には大納言小豆が散りばめられており、このバランス感覚も非常に素晴らしい。まさにリッチというエッセンスも受け継いだ和のブリオッシュである。

オーナーの田中シェフは、こちらのオリビエレインを2016年、シェフご自身がまだ22歳の時に立ち上げられており、2022年現在でもまだ20代だ。筆者がお店に伺った時は、13時過ぎであったが、八女抹茶のブリオッシュが1つだけ残っていただけで後は全て売り切れ状態。若くして、人気店を切り盛りされており、非常に素晴らしい。

ルグランバロンもオリビエレインも県庁所在地から離れたエリアで展開しているにも関わらず、近隣人口をもろともしない人気店である。ゆえに県外からのお客さんも少なくないと考えられる。県外からお客さんを呼び込むためには、その地域、そのお店ならではが必要であり、山口県産小麦のせときらら、福岡県八女市の星野製茶園の高級抹茶は、まさに呼び込むためのコンテンツになりうる。筆者のような大多数の一般消費者にとっては、国産小麦でも外国産小麦でも、美味しければOKという感じではあるが、美味しいもので溢れる日本では、ただ美味しいだけでは無く、その場所ならではのストーリーを感じることで、体験価値が増し、またこのお店に行ってみたいに繋がる

ボランチというポジションの語源は、ポルトガル語でハンドルを意味する。ボランチが試合の舵取りを担っているように、新たなパン時代の舵取りは体験価値を提供する若いパン屋さんが担っていくのかもしれない。そんな希望を感じさせるパンたちであった。

続いて、攻撃陣のパンをご紹介しようと思ったが、パン1つ1つへの思いが強すぎて、長い時間がかかってしまった…(笑)。一旦ここで、筆を置かせて頂きたい。

次節に続く。

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