「Wikipedia旅行」ガイド

「Wikipedia旅行」とは何か。

僕はWikipediaが好きだ。なによりともかく、読みやすい。

旅行も好きだ。数行くわけではないし、趣味というほどのものではないけど、まぁ、好きだ。

旅行に行くときというのは、たいてい観光ガイドを準備すると思う。ただ、観光ガイドというのはとにかく情報量が多い。色もたくさんあるし、字もたくさんある。付箋を貼っても、最近は付箋も色とりどりだ。気が散る。そこでWikipediaだ。

Wikipediaは知っての通り、あらゆる基本的な情報が用意されたネット最大の集団投稿型フリー百科事典だ。試しに「旅行」のWikipediaを見てみよう。

旅行(りょこう、英: travel)とは、見物・保養・調査などのため、居所を離れてよその土地へ行くこと[1]。旅(たび)とも。

だそうだ。こんな感じで色んな記事が色んなユーザーによって書かれており、当然そこには日本中、世界中の地名の記事も存在する。どこかへ出かける時に旅行者に必要な情報というのは、そこに書いてある単純で基本的な程度で十分なんじゃないか、と僕はある時思った。例えば、渋谷に旅行に行くとする。であれば、Wikipediaの「渋谷」の記事を見てみよう。

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%8B%E8%B0%B7

そうすると、そこには渋谷の歴史、地理、施設、行われているイベントなどが載っている。「地理」を見てみよう。

新宿が甲州街道に沿って尾根筋に生まれた“丘の上の街”であるのに対し、渋谷は武蔵野台地を侵食する渋谷川(穏田川)・宇田川の合流地点に作られた“谷底の街”である[15]。

これを頭に入れて渋谷を歩くとなるほど、確かに渋谷は二つの坂に駅や繁華街が挟まれた、谷底の形をしている*¹。「おぉ!Wikipediaに書いてあった通りだ!」と感心する。Wikipediaを上から下まで全部読めば(更にプリントアウトしてマーカーでも引けば)この類の満足感がいくらでも味わえる。

*¹ 坂\__街__/坂  ←こういう形だ。

もちろん、一般的な観光ガイドとしての使い方────つまり、「どこへ行くかの選択」にも使える。同じく渋谷の記事にある「施設」を見てみよう。

施設
主な施設
渋谷駅西口周辺
渋谷センター街
渋谷スクランブル交差点
東急百貨店東横店(西館・南館) - 2020年3月閉館、渋谷スクランブルスクエア西棟・中央棟建設のため
渋谷フクラス(東急プラザ渋谷)
渋谷マークシティ
モヤイ像
ハチ公前広場
しぶちか
MAGNET by SHIBUYA 109(前109MEN'S、旧109-Part2)
シブヤ西武(A館)
QFRONT
シブヤ ツタヤ
スターバックス シブヤ ツタヤ店[36]
渋谷西村フルーツパーラー道玄坂店(渋谷西村總本店)
渋谷駅東口周辺
渋谷スクランブルスクエア 東館 (東急百貨店東横店東館跡地)
渋谷ヒカリエ
渋谷警察署
渋谷のんべい横丁
渋谷TOEI
ビックカメラ渋谷東口本館
ミヤシタパーク
渋谷東急REIホテル[37]
渋谷センター街方面
QFRONT
大盛堂書店
三平酒寮渋谷店
ダイワ靴店渋谷2号店[38]
ABCマート Grand Stage渋谷店[39]
マクドナルド渋谷センター街店[40]
カラオケルーム歌広場渋谷センター街本館[41]
カラオケ館渋谷本店[42]
FOREVER21渋谷(2019年閉店)
井の頭通り方面
シブヤ西武(A館・B館)
渋谷ロフト
ZARA渋谷店[43]
リーバイス®ストア渋谷店
ジーンズメイト渋谷店
ザ・ボディショップ渋谷店
ゼンモール(サカゼン)
ちとせ会館(居酒屋、飲食店その他が入居する複合商業施設)
渋谷警察署宇田川交番
Francfranc渋谷店 (2019年移転し、同社の別ブランドが開店)
UNIQLO渋谷スペイン坂店(2019年閉店)
ベイプストア (BAPE STORE) 渋谷[44]
渋谷BEAMビル
ヨシモト∞ホール
アニメイト渋谷
まんだらけ渋谷店
イシバシ楽器渋谷店
渋谷BEAM(レコード店)
HMV record shop 渋谷(レコード店)[45]
マンハッタンレコード(レコード店)
CLUB QUATTRO
渋谷チェルシーホテル(CHELSEA HOTEL、ライブハウス)
東急ハンズ渋谷店
ザ・ダイソー渋谷センター街店
キャンドゥ渋谷井ノ頭通り店
サンマルクカフェ渋谷井の頭通店[46]
サイゼリヤ渋谷東急ハンズ前店[47]
公園通り方面
渋谷PARCO
hotel koé tokyo(HP 、渋谷PARCO part2跡)
ヒューマックスパビリオン渋谷公園通り(複合商業施設)
ディズニーストア渋谷公園通り店
渋谷HUMAXシネマ
カラオケパセラグランデ渋谷店[48]
かに道楽渋谷公園通り店
Apple Store 渋谷
Supreme Shibuya
BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS 渋谷公園通り店
オニツカタイガー渋谷
ビームス各店舗[49]
アーバンリサーチ神南店[50]
ハレ渋谷店
RAGTAG 渋谷店(古着屋)[51]
ルークス ロブスター PARK STREET店[52]
楽天カフェ
アイア 2.5 シアタートーキョー(多目的ホール)
渋谷エッグマン(ライブハウス)
桑沢デザイン研究所 
北谷稲荷神社
渋谷東武ホテル
東京山手教会
日本アムウェイ本社ビル
渋谷区役所
渋谷公会堂
渋谷税務署
NHK放送センター
NHKホール
みんなの広場ふれあいホール
NHKスタジオパーク (2020年閉館)
放送センター内郵便局
代々木公園
国立代々木競技場
SHIBUYA BOXX
ファイヤー通り方面
渋谷マルイ(旧マルイジャム渋谷)
渋谷モディ(旧マルイシティ渋谷)
タワーレコード渋谷店
シダックスカルチャービレッジ(旧電力館)
アクネ ストゥディオズ シブヤ (ACNE STUDIOS SHIBUYA)[53]
キャサリン・ハムネット・ロンドン (KATHARINE HAMNETT LONDON) 渋谷ファイヤー通り店
リーガル・シュー・アンド・カンパニー (REGAL Shoe&co.)
クラークス (Clarks) 渋谷店[54]
ノーチェ (NOCE) 渋谷店(インテリア家具店)
ニトリ渋谷公園通り店
一蘭渋谷店[55]
ドトールコーヒーショップ渋谷神南1丁目店[56]
ハローワーク渋谷
渋谷消防署
宮下公園・キャットストリート周辺、明治通り原宿方面
ミヤシタパーク(宮下公園)
渋谷TOEI
ビックカメラ渋谷東口本館
渋谷東急REIホテル
cocoti
トゥモローランド渋谷本店
ディーゼル (DIESEL) 渋谷
ピンクドラゴン[57]
アメリカンアパレル渋谷メンズ館(2015年8月閉店)[58]
ブリティッシュ・スクール・イン・東京[59]
渋谷教育学園渋谷中学校・高等学校[60]
文化村通り方面
東急百貨店本店
Bunkamura
オーチャードホール
シアターコクーン
ル・シネマ
MEGAドン・キホーテ渋谷本店(旧ONE-OH-NINE)
H&M渋谷店(旧ONE-OH-NINE 30's[61])
道玄坂方面
SHIBUYA 109
ザ・プライム
UNIQLO渋谷道玄坂店
渋東シネタワー
ベルサール渋谷ガーデン[62]
渋谷ソラスタ
円山町方面
Shibuya O-EAST、O-Crest
Shibuya O-WEST、O-nest
WOMB
ユーロスペース
井の頭線神泉駅
桜丘町方面
セルリアンタワー
セルリアンタワー東急ホテル
渋谷インフォスタワー
東急本社
宮益坂・青山通り(国道246号)方面
渋谷ヒカリエ
渋谷郵便局
ゆうちょ銀行渋谷店
マザーズハローワーク東京
渋谷クロスタワー(旧東邦生命ビル)
キユーピー本社ビル
マリークヮントコスメチックス[63]
青山学院大学
国際連合大学
六本木通り方面
渋谷警察署
金王八幡宮
ベルサール渋谷ファースト[64]
青山学院中等部・高等部
青山学院初等部[65]
実践女子大学渋谷キャンパス
実践女子学園中学校・高等学校
渋谷駅新南口・並木橋周辺、明治通り恵比寿方面
渋谷ストリーム(2018年9月13日開業)
渋谷ブリッジ(2018年9月13日開業)
ホテルメッツ渋谷
東急ステイ渋谷新南口
渋谷三丁目郵便局
トランスコスモス本社ビル
村田製作所東京支社ビル
渋谷清掃工場
ウインズ渋谷
ライフ渋谷東店(総合スーパーマーケット)
ザ・ダイソー ローソンストア100渋谷店
渋谷区立渋谷図書館
渋谷区立常磐松小学校
國學院大学渋谷キャンパス


全部の施設に目を通した?

それはともかく、(渋谷はあまりに多すぎるけど)Wikipediaにはこれだけの施設が載っていて、その多くはクリックすることで更にその該当記事に飛んで、詳細を確認することができるし、外部リンクから公式サイトに飛ぶこともできる。

さっき僕はWikipediaに載っている情報について「単純で基本的」と書いたから、なんとなく情報が少なめなのかと思われたかもしれないけれど、全くそんなことは無い。いくらでも情報がある。ただ、情報はむしろ少なくても良いのだ。これに関しては後述する。

「情報がいっぱいあるなら観光ガイドと同じじゃない?」と思われるかもしれないが、最初に僕がWikipediaを好きな理由に挙げた通り、Wikipediaというメディアはとにかく読みやすい。情報量とその視認性の高さは比例するべきだろう。僕が観光ガイドなどを読むのをやめ、Wikipediaを読んで外に出るようになったのはこういう理由だ。

………ここまでは前置きのようなものだ。「Wikipedia旅行」の本当の良さはそのコンパクトさにあるわけではない。Wikipedia旅行でWikipediaを最も活用するのは、旅行に“行く前”ではなく“旅行中”なのだ。そこにおける役割が、Wikipediaと観光ガイドの最も違う点だ。


「Wikipedia旅行」の途中で、マックに入る。

マックでなくとも良い。というか、むしろ旅行先ならその土地で人気の店にでも入った方が良いのかもしれない。まぁ……マックでも、良い。

旅行中に飲食店へと入った時、旅行者は何をするだろうか。ご飯を食べる、その写真を撮る……もちろんそういうのをあると思うけど、僕は、あと多分大抵の旅行者は観光ガイドを開いてこれから行く場所を確認したりするんじゃないか、と思う。(しないかもしれない)Wikipedia旅行でもそれをやることはある。だが、もう一つ大事な工程があるのだ。それが「編集」である。

Wikipediaの特徴的な点は「どんな人でも編集できる」というのがある。だから時折間違っているし、情報には過不足がある。そういうのを見つけたとき、ユーザーは単なる読者から編集者に変わり、その記述ミスや過不足を修正できるのだ。Wikipedia旅行でやるのもこういう事だ。つまり、出てきた食事を頂いたあと、自分が現在いる土地や立ち寄った施設のWikipediaを開き、ざっと目を通してみる。

そこでは改めて「確かにこの通りだったなぁ」と思う事もあれば「あれ?これ違くね?」や「あれ……あの事書いてないんだ」という感想を抱くこともある。Wikipedia旅行の真価は後者の感想にある。そういう風に思った瞬間、Wikipediaのモードを「閲覧」から「編集」に変更し、すぐさま該当部分を修正・変更するのだ。

編集を完了し、ページをリロードする。記事に再度目を通すと、そこには「自分がその土地を歩いた証拠」が明確に記されていて、そしてその情報がその後全ての閲覧者に影響を及ぼしていく。Wikipediaは知っての通り、誰しもが使う普遍的なサービスだ。その存在感と影響力はかなり強力であり、Wikipediaの記事を編集する、というのは現実世界にかなりダイレクトに干渉する行為なのだ。

誰もが編集可能で、それゆえ嘘と間違いが容易に存在するにも関わらず、Wikipediaはそんな力を持っている。世界を破壊したければ、まずWikipediaを改竄し続ければよい。情報の素晴らしさと恐ろしさはそれが例え虚構にあろうが現実にあろうが等価だという事で、それを端的に体現したのがWikipediaなのだ。( ー`дー´)キリッ

その土地を歩きながら、その土地の記事を編集し、その土地の情報を改変していく────。それもWikipedia旅行の面白さの一つといえる。


「Wikipedia旅行」は誰のもの?

これまで「コンパクトさ」「現実への干渉可能性」という2つでWikipedia旅行のポイントを書いてみた。最後は、さっきのとは逆で「干渉されなさ」についてだ。ちょっと「旅行」という事で流行りの「Gotoトラベル」についても書いてみたい。

まず、これはなんとなくな趣味の問題なのだけど、僕は「旅行」っていうのはランダムな方が良いなと思っている。偶然みたものとか、思いがけずした体験が旅行の醍醐味だ(体験しようと計画してしたものではなく)。

それで、さっきちょろっと触れたけれどWikipediaにはそんなに情報の無い土地の記事もあるというのは分かると思う。その上で僕がWikipedia旅行を推すのには別にそれでも良い、むしろプラスだと思っているからだというのがあるのだ。

Wikipediaに全然情報がなかったとしても、とりあえずその僅かな情報だけで街に行ってみる。すると当然、どんな場所でもリアルな土地には色んな情報が溢れている。その中には、あらかじめ前提情報を仕入れていたら意識しないようなものもたくさんあったはずだ。

むしろ「編集」を有効かつ積極的に活用できるのはそういう土地だ。途中でマックに入り、何も知らなかったが故に入ってきたたくさんの情報たちをいくらでも編集したらいい。家に帰るころには、その土地に関する記事の情報は行く前の30%増えているはずだ。その旅行は(そしてその中で書かれた記事は)主に自分の力で歩まれた旅行だ、と言えると思う。僕が良いと思うのはそういう旅行だ。

ところで、Wikipediaの記事というのは基本的にただ情報が羅列されており、主観的な記述は積極的に削除/編集されていくという仕様になっている。(それはWikipedia旅行の時に注意しなくてはいけない重要なポイントでもある)

Wikipediaの根本的な方針として、以下のようにあるからだ。

ウィキペディア上のすべての百科事典的内容は中立的な観点に沿って書き記されなければなりません。

もちろんこれがパーフェクトに遵守されているとは僕も思わない。しかし、ある程度の主観の排除、プラットフォームの中立性は担保されているはずだ。観光ガイド的なものを活用した旅行にはそれがあまり無い。そこには誰かの主観的な「ここに行って欲しい」「ここに行くべきだ」という方針が存在する。

それは何故か?単純にそれが「旅行のために作られたガイド」だからだ。

その制作者は「これを読む人は旅行に行くために読んでいる」と考えている。それは当然だろう。だからこそそれをコントロールしようという意志が働き得る。旅行者がどういう旅行をするか、その可能性は狭まっていく。それは僕の思う良い旅行ではない。おんなじ理屈で僕はいわゆる「ツアー」というのが好きではない。

ところで「あなたへのおすすめ」というような機能が最近の世界にはたくさんある。どうやら「わたし」を「あなた」と呼ぶ誰かが、閲覧履歴などから何かをおすすめしてくれているらしい。

でもそれは“誰から”あなたへのおすすめなんだろうか。顔も知らない誰かのおすすめに従って、最適化された選択をしていく行為の結果は満足感は高いかもしれないけれど、意外性や驚きは少ない。旅行における「あなたへのおすすめ」は観光ガイドだ。例えば京都の観光ガイドを要約すると

「あなたは京都に行くんですね!?ならおすすめはここです!!美味しい料理ですか!?ならここです!!安い料理ですね!?ならここです!!」

ということになる。ある程度読めば、そうやって集積された「あなたへのおすすめ」を元に、旅行プランが出来上がっていく。でもそれは「“誰か“からあなたへのおすすめ旅行プラン」なのだ。今話題の「Gotoトラベル」なんかは、その亜流だろう。あれを要約すると

「あなたは旅行に行きたいんですか!?この県に行きたいんですか!?じゃあこの宿なら安いですよ!?この店舗なら更にクーポンも使えますよ!?超安いですね!」

みたいな感じになる。最近は「Gotoトラベルが使えるところから旅行先を選ぶ」という事もあるみたいだけれど、それは旅行先すらも「あなたへのおすすめ」の中から選んでいるということになる。でもなんだかそれで良いのかという感じがしないでもない。前澤社長といい、最近はとにかく金を配ることがそんなに嫌なものだと思われなくなっているんだなぁ、とか思ってしまう。「いや、貰えるなら欲しいじゃん」と言われるかもしれないけれど、当然そういう時には金(またはそれを貰える可能性を得る権利を)を得る代わりに何かを差し出しているんだから、別に特別得しているわけでもないだろう。もしかしたら令和は拝金主義を上手く使える人が得する時代なのかもしれない………。(ちょっと嫌だ)

脱線した。それはともかく、さっきまでの話に戻ろう。

観光ガイドを書く人は当然「これを読む人は旅行に行くために読んでいる」し、だからこそそこに主観的な「あなたへのおすすめ」を仕込んでくる。その集積で出来あがった旅行は、「おすすめ」をしてきた誰かの意志が介入した旅行だ。

しかし、Wikipediaを編集している大半の人間は「これを読む人は旅行に行くために読んでいる」などとは考えない。当たり前だろう。だがWikipediaは旅行のために書かれていないがゆえに、そこに「あなたへのおすすめ」が存在しない。だからこそWikipedia旅行は、本来旅行を取り巻く色んな他者の意図から解放され、偶然性と意外性、誤配にあふれた「わたしだけの」旅行が楽しめるんじゃないだろうか。そうしてそんな旅行の途中に、あるいは帰ったあとにWikipediaを編集して欲しい。

それはきっと────あくまで中立的で非旅行的な────「誰かへのおすすめ」になり、それを読んだ誰かが「わたしだけの旅行」をする何よりのガイドになるだろう。

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