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前に見た夢の話を聞いてくれ

人は毎晩、夢を見ていると言われている。
目を覚ますと忘れてしまうことも多いが、わたしは比較的覚えている方だ。

「人の夢の話ほど、どうでもいいと感じるものはない」
わかる。そう言いたい気持ちもわかる。これまで、友人たちのそういった何のとりとめもない話に、どう反応すればよいのかわからず枕を濡らした夜もあったと思う。でも、どうしても話をさせてほしい。読んでくれている皆さんの枕は、濡らさせやしないから。きっと。



そのおっさんは上下毛玉だらけのグレーのスウェットに、茶色の便所サンダル、くったくたのグリーンのモッズコートを着て軒先に現れた。頭髪はほぼない。そんなの当たり前だろう、くらいに生えてない。

わたしは、そのおっさんとなぜか大声で罵り合っていた。


「俺の言うことのどこが間違っとんじゃあ!ボケェェェ!!!」

「何もかもすべておかしいやろ!脳みそ腐っとんちゃうか???!」

「何やともっぺん言ってみぃ!!お前がさっき言うたアレとコレについてはどやねん??!矛盾してるんと違うんか言い返してみぃ!!!」

「…そ、それはもともとお前が発端でわたしが仕方なく訂正したったんやろがい!!!」

「お前、さっきと言うとること違うな、どないなってんねん???!」


これを軒先で大人ふたりが大声でやっていることにも引いてしまうが、それよりも、こちらが完全に劣勢なことに気がついてほしい。あんな風貌なのにも関わらず、そいつは本当に口が立った。これまでの会話に出てきた情報を、ありとあらゆる場面で駆使し、痛いところをめちゃめちゃに突いてくるのだ。あんな風貌なのに。
それにひたすら暴言のみで応戦するわたしは、目に見えて完敗だった。


小学生のときから、口喧嘩で負けた記憶がほとんどなかった。クラスの発表会で披露するモーニング娘。の歌のパート割りにグループ内で不満が出たときだって、わたしが中心となって、リーダーのみのりに意見したのだ。そういえば一番不満そうにしていたなっちゃんは「そーや、そーや!」しか言ってなかったな。なっちゃん、元気にしてるかな。
社会人になってからだってそうだ。独自ルールで希望を出してシフトを組み、土日と祝日ばかり元気に休みまくる女に、「あの、そもそもの話なんですけど」と冷静に切り出し、平等性を説いたのもわたしだ。次の月からは、勤務歴など関係なく、一人ひとり順番にシフトを組むルールに変更になった。
口喧嘩とは違うが、とにかくわたしも、「口が立つこと」で得をしてきた人間なのだ。こんなわけのわからんおっさんに論破されるなんてあってたまるか。


モヤモヤとイライラが頂点に達した瞬間、わたしはそいつに殴りかかった。グーで。


突然の展開に驚いていることと思います。口が立つことについて、これだけの尺を使って書いてきたのに、ここにきて暴力ですもんね。自分が一番驚いています。これ夢の話だからね?普段はこんなことなんてぜったいにしないからね?とても温厚なメスゴリラなので安心してください。それでは続きをどうぞ。


バキィッッッ!!!!!


とにかくイライラしてどうしようもなかったわたしは、硬くこぶしを握り、助走をつけて力いっぱいそいつに殴りかかった。


痛っっ!!えっ!痛???????



突然大きな音がして目が覚めたのだが、同時にある違和感を覚えていた。
右のこぶしが、めちゃくちゃ痛いのである。
電気をつけて確認すると、手の甲の中指付近から出血していた。

そう。わたしは夢と連動して、思い切り壁を殴っていたのである。
不運なことに、そのとき、左肩を下にして横向きの体勢で寝ており、さらに最悪なことに、すぐ目の前には壁があった。
ケガするすべての要素がこんな形で整うことある?何かのお膳立て??何の???
右腕がフリーなもんだから、めっちゃ動かしやすくて全力で振りかぶって殴りかかっちゃった。壁に。


「反抗期以外で壁殴ることあるんや」とか考えてたら中指がジンジンして熱くなってきたので、すぐに冷やしてシップを貼って対処した。
時計を見たら、朝の4時過ぎだった。アカン、もう寝れん。



それから数日後。わたしはまた夢を見た。
風邪を引いている夢だったのだが、とてもひどい鼻風邪で、息苦しくてどうしようもなかった。
「鼻をかもう…」
ティッシュに手を伸ばし、ちょうど鼻をかんだところで目が覚めた。布団で鼻をかんでいた。きれいに、右の角を使って。

夢ならばどれほどよかったでしょう。
この歌詞の本質を捉えた気がした。

次はうんこを漏らした夢を見たときにでも、またここで報告しようと思う。

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