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価値あるブランド体験を届けるために。スタッフとワンチームで挑む『挽肉と米 京都』の店づくり
2024年10月で2周年を迎えた『挽肉と米 京都』は、伝統ある花街・祇園に位置する趣あふれる店舗です。ここで店長を務めるのが、2023年3月に入社した八田達也(はちだ・たつや)です。20年以上の調理・店長経験を活かしたリーダーシップでスタッフを率い、世界各国から京都に訪れるゲストを笑顔にし続けています。
なぜ『挽肉と米』で働こうと思ったのか? 経験豊富な彼が感じるブランドの魅力、よいチームワークを維持する秘訣とは? 挽肉と米のCEO、山本昇平(やまもと・しょうへい)も同席のもと、八田に話を聞いてみました。
自ら志願した社長面接で、瞬時に心をつかまれた!
── 今回は八田さんを深堀りしていきたいのですが、『挽肉と米』の前はどんな職場で働いていたのですか?
八田:僕は生まれ育ちも京都市で、16歳の頃から20年以上飲食業界で働いてきました。一番長いキャリアは焼肉店。自分の料理を通して、お客さまの笑顔や会話が広がっていくのを見るのが大好きなんです。でも36歳になったときに「違う世界も見てみたい」と一念発起し、しばらく木こりとして林業に従事しました。長年室内にこもる仕事だったので、自然の中でのびのびと働きたくて……。その後、次のキャリアを模索しはじめたタイミングで、転職サイトを通して『挽肉と米 京都』の店長候補としてスカウトいただきました。
── 一度離れた飲食業界に戻る決意をしたきっかけは、何だったのでしょうか?
八田:実は面接に行く時点では、入社は考えていませんでした(すみません!)。一方で『挽肉と米 京都』の人気も、斬新なコンセプトも知っていたので「こんなすごい店を作った人に会えるなら会ってみたい」という好奇心が抑えられず、自ら社長面接を志願したんです。強気の逆オファーでしたが、そもそも社員面接は山本さんご担当とのことで無事面談の運びに。
その時に山本さんが語られた「最高のハンバーグ体験を提供する」という『挽肉と米』のブランド哲学、世界進出を見据えたビジョンに心が高鳴ったんです。同時に、どうやらこの会社は自分が知る旧態依然とした飲食店とはまるで違うらしいぞと。ならば「次の人生をかけてみる価値がある」と直感して2023年3月に入社。その3ヶ月後に京都の店長に任命いただきました。
──『挽肉と米』の店長の業務を教えてください。その上で一番大切にしていることは何でしょうか?
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八田:『挽肉と米』における店舗は、お客さまに最高のハンバーグ体験を提供し、心をときめかせる舞台のような場所。食材の仕入れや売上・衛生管理など、店舗を円滑に運営するための基本業務は当然として、一番重要なミッションは「挽きたて、焼きたて、炊きたて」というコンセプトを維持した上で、そこに満足感や感動などの付加価値をどれだけ乗せられるか?だと考えています。
そのために心がけているのが、僕らの言葉でいう「感じがいい」雰囲気の店づくり。気持ちのいい挨拶や接客はもちろん、食事の進み具合を見てさりげなく声をかけたり、提供のタイミングを調整することで「最高においしい瞬間」を届ける工夫をしたり。お客さまの笑顔が増えれば場の雰囲気もよくなり、一方でスタッフが気持ちよく働ける環境を整えれば、自然とサービスの質も向上しますから。常にフロアを見て、お客さまも料理もスタッフも「感じがいい」塩梅になる舵取りをしています。
共感力を高めることが、チームづくりの第一歩
──ところで、京都のスタッフ数はどれくらいなのでしょうか?
八田:現在は自分を含めた9名の社員とアルバイトを合わせて30名ほど。アルバイトのほとんどが学生さんです。忙しい店とはいえ、社員9名を確保してもらえる環境がありがたいですね。1日最低10名いれば店を回せるので、自由度が格段に上がります。トレーニングやサービスの向上にじっくり取り組むことができるんです。
──山本さんが感じる店長 八田さんの魅力を教えてください。
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山本:出会った誰もが感じる、このどっしりとした落ち着き感と包容力ですね。八田さんは京都の有名焼肉店グループでしっかりキャリアを重ねてきた方で、面接時からすでに頼りがいを感じていました。京都は唯一2フロアある店舗で、客席数も国内で一番多いのですが、安心して店を任せることができています。
それから、八田さんは「人との距離の取り方」が抜群に上手いんです。それが経験から来るのか、本人の性格なのかは分からないけれど、常に一人ひとりのスタッフと丁寧に向き合い、彼なりに相手との距離を縮めた上で、ベストなタイミングで伝えるべきことを伝えている。その見極めが絶妙だなあと。だから僕は30代の彼を年上の先輩に感じることがしばしば(笑)。それくらい信頼している最強の「店長オブ店長」です。
──八田さん自身は、チームや人材育成の際にどんなことを意識していますか?
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八田:僕は自分が先頭に立ってリードするよりも、後ろから見守って支えたいタイプ。店の主役はスタッフだと思っているので、彼らには失敗を恐れずにどんどんチャレンジしてほしいと思っています。失敗も糧にして成長することで「自分が店を支えているんだ」「自分がブランドを作っているんだ」という意識が芽生えていくはずですから。できるだけ誰でも何でも挑戦できる空気をつくるようにしています。
ハンバーグの焼き方を教えるときも同様ですね。まずは何回も試し焼きをして、自分自身で感覚をつかんでもらうことが第一。もちろん何度失敗してもOKです。その上で必要な技術や知識のアドバイスを加えるようにしています。その後は褒めて伸ばす戦略です!
あとは極端に言えば、入店時に怒っていたお客さまが笑って退店されたら万事OK。限られた時間、限られたメニューという枠の中で一体何ができるか——? これを意識して動けるスタッフをどれだけ増やせるかが、僕の店長としての挑戦かもしれません。
山本:まさに僕が店長に求める資質が、八田さんが自然に体現しているスタイルなんですよね。『挽肉と米』ではトップダウンで指示を与えるカリスマよりも、スタッフを巻き込んで、ブランドへの共感力を高めていけるリーダーを必要としています。それは、店舗での一瞬一瞬のお客さまの幸せな食体験が、そのままブランドの価値になるから。その体験を最大化するには、最高のチームワークと一人ひとりの意識が鍵になるんですよね。
『挽肉と米 京都』ならではの魅力、働きがいとは?
──『挽肉と米 京都』の運営スタイルや客層に、他店舗との違いはありますか?
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山本:京都の店は芸妓さん、舞妓さんが行き交う花街・祇園に位置しているのが大きな特徴です。建物は古い京町家をリノベーションしているのですが、元々ここは「検番(けんばん)」と呼ばれる芸舞妓さんたちの取次所でした。そんな伝統ある場所をお借りしている責任を感じますし、この街に敬意を払い、大切な文化を守りながら店を運営していきたいという思いがあります。
八田:こうした僕らの姿勢を示すひとつが、身だしなみ。京都では他店舗で使用しているTシャツではなく、京都の着物屋さんに仕立てていただいた着物風ユニフォームを採用しているんです。これを着ると、気持ちがキリッと引き締まるんですよね!
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客層に関しては、約7割が訪日旅行客の方です。他店舗と比べて欧米の方の比率が多いように思います。福岡は韓国、東京は中国・台湾の方の比率が多いので、他店とは異なる反応をいただけるもいいですよね
──店内ではいつも流暢な英語が飛び交っていて、スタッフの英語力の高さに驚かされます。
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八田:英語が得意なスタッフも多いですが、それが採用条件ではありません。僕のように元は英語が苦手だった人もいますし。でも最高のサービスを提供するためには、どうしても伝えるべきことがある。英語の上手下手は関係なくて、相手の目を見て笑顔で話しかけることが大事。「伝えようとする気持ちをまず伝えようぜ!」とみんなを鼓舞しています。
山本:今の言葉、すごくいいですね!「おもてなしたい」という気持ちを見せることが大事なんだよね。
風通しがよい秘密は、フラットな組織構成にあり
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——入社後2年弱が経ちましたが、どんな時に『挽肉と米』で働く喜びを感じますか?
八田:『挽肉と米』は創業してまだ4年半。日々進化を続ける渦中に飛びこんで、成長の手応えを直に感じられるのが醍醐味です。それに近年は海外出店が加速化していて、世界中にファンがどんどん増えている。これも最高に嬉しいことですよね。
うちの会社のいいところは、「もっと店をよくしたい」と願っている熱意あるスタッフが多いこと。マニュアルひとつとっても、実は常にアップデートしているんですよ。つまり、日々確実にサービスの質が上がっているということ。月1回の店長会議も活気があって、ポジティブな提案が次々と上がってくるんです。
——会議はオンラインで行っているのですか?
八田:いえいえ、毎月全員(経営陣+店長)で顔を突き合わせて行うのが山本さんの信条。場所は東京、京都、福岡の店舗を順番に回っています。直接会うことでしかできない深い話ができるので、恵まれた環境だと感じていますね。各店を訪ねることで、毎回新鮮な発見や気づきも得られます。他店のいいところは、京都でもどんどん取り入れていますよ。
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山本:『挽肉と米』は広域展開なので、店長会議をきっかけに「チームとしての結束力を高めたい」という思いがあります。毎回4時間ほど会議をして、その後に会食するのですが、時間が足りなくなるくらい議論が白熱することも。それに、僕らの組織はピラミッド型ではなく、変化に柔軟に対応できる「フラット型」。ブランドの最前線(店舗)にいる店長と密に連携しているので、現場の課題をいち早くキャッチし、スピード感を持って対処できるんです。
結束力を高める試みは他にもあって、『挽肉と米』ではスタッフ同士の交流・交換にも力を入れています。店長自身が1週間くらい他店に勤務することもあるし、社員やアルバイトも同様です。今も京都店のアルバイト3人が東京で勤務しているんですよ。店を行き来することで互いの違いに気づけるし、新しい刺激も得られる。各店やスタッフの成長の原動力になっていると実感しています。
焼き方も接客も。常に第一線のプロでありたい
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——八田さん自身の現在の目標を教えてください。
八田:店頭での僕自身の「サービスの精度」をより磨き上げていきたいですね。管理職だからといって、一番大事な努力を怠るつもりはありません。ひそかに得意としている接客技術も高めたいですし、ハンバーグの焼きの技術もさらに極めたい。焼肉店での経験上、炭火や肉の扱いには自信があるけれど、ハンバーグの火入れは本当に難しくて。知るほどに奥深さを感じています。
山本さんはハンバーグの一流のプロだから、普段は言葉に出さないけれど、本当は味に関してとても高い理想を持っているはず。それを僕らが理解して、最高の味を追求していかなければと思うんです。
山本:スタッフを信頼しているので我慢はしていないけれど、嬉しい提案ですね。
八田:これをさらに突きつめて、焼く時、提供する時の「所作」や「魅せ方」もアップデートしていけたら。どの角度で網に乗せたらよりおいしそうに見えるか? お客さまのワクワク感が高まるか? 僕らの所作が与える影響も探究していきたいですね。
——八田さんの視点は職人的というか、“芸”や“道”に通じる気がします。食の都・京都らしい感性ですよね。
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山本:本当に頼もしいですよね! 焼き技術については彼らの努力が実り、ここ一年で全体の底上げが進みました。「唯一マニュアル化できない」と言われてきたけれど、「この条件なら、何分何秒」といった具体的な指標が出せるようになってきましたから。海外進出を加速する上で、これほど心強いことはないと思います。このほかにも、定休日を活用して「焼き研修」を行ってきた成果も大きいですね。店舗スタッフみんなでいろんな焼き加減を試して、食べ比べて。「この焼き具合がおいしいよね!」という共通認識を培ってきたことが技術向上に表れていると思います。
自分たちの活躍で、業界にイノベーションを巻き起こす
——今回のような気軽な場だからこそ、山本さんに伝えたいことはありますか?
八田:せっかくの機会なので、今入社を考えている方にも役立つリクエストをさせてください!『挽肉と米』の給与・待遇は他の飲食店より格段によくて、心からこの業界に戻ってきてよかったと感じています。これに加えて今後、ボーナスが業績や個人の評価次第でドーンと跳ね上がる仕組みが加わったら、働く人たちの夢が広がるように思いました。それから、うちの屋台骨を支えてくれているのは学生アルバイトなので、彼らもハッピーになれる給与体系ができると嬉しいですよね。
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山本:将来的には、そうなっていくはずですのでお楽しみに。というのも『挽肉と米』では、「給与水準が低い」と言われてきた外食産業に風穴を開け、他の業界に負けないくらい稼げる企業をつくることを目指していますから。そのためにブランド価値を高め、海外とのライセンス契約で利益率を上げる経営モデルに挑んでいます。
ただし現在は、ボーナス以前にしっかりとした「ベースアップ」を実現していく段階にあります。基本給こそが業績に影響されることなく、個人を正当に評価している証ですからね。アルバイトさんも含めて基本給を十分に上げた上で、『挽肉と米』らしいインパクトのある施策を考えていくつもりです。
こんな風に新しい未来図を描くことで、外食ビジネス全体を盛り上げていけたらいいですよね。
八田:期待が高まりますね!『挽肉と米』はコンセプトも経営方針もイノベーティブで、内側で働いている僕らも「本当にいい会社だよね」と胸を張っていえる会社です。そんな僕らが生き生きと働いている姿を見てもらうことで、共に志高く共に働いてくれる仲間をさらに増やしていきたいですね。
八田達也(はちだ・たつや)
株式会社 挽肉と米「挽肉と米 京都」店長
京都市生まれ、京都市育ち。2023年3月 株式会社 挽肉と米に入社、同年6月より「挽肉と米 京都」の店長を務める。飲食業界での勤務歴20年以上を有し、「おいしい料理を介して生まれるコミュニケーション」を大切にしているのがモットー。有名焼肉店での調理・マネジメント経験と持ち前の包容力で、国内一の席数を誇る京都では約30人からなるチームを率い、経営陣や同僚からの信頼も篤い。2024年4月にオープンした韓国「挽肉と米 島山」店では2ヶ月滞在し、現地スタッフのコーチングを担当。日々接客スキルやハンバーグの火入れ技術を磨き続ける職人気質な一面もあり、「店長オブ店長」の異名も。
聞き手・文章:山口紀子
写真:伊藤 信