(短編小説)申し訳ございませんが、文字数制限のためこのタイトルは表示できません。

 黒森市の新興住宅街、向日葵ヶ丘に市浜鉄道の黒森・鎌ヶ崎線の新駅が設置されることが発表された。
 地元住民や関係者が集まり、駅名を決める会議が開かれることになった。
 会議では、地域の歴史や名所、人物の名前が飛び交い、様々な駅名候補が出されていった。

 会議室には、黒森市市長、市議会議長、商工会議所所長、地元出身のオリンピック金メダリスト、浜鉄グループのCEOなど、様々な立場の人々が集まっていた。

 口火を切ったのは市長だった。
「新駅の名前は、地域の歴史を反映したものにすべきです。私の提案は『海州国分寺駅』です。」
 黒森市のある市浜県は昔、『海治国(みはりのくに)』と呼ばれており、『海州』はその略称である。

「それもいいですが、もっとシンプルに『矢守塚駅』というのはどうでしょう?」と商工会議所所長が続けた。
『矢守塚』はこの土地に新興住宅街が造成される前の地名である。
「副駅名に『矢守塚製菓前』を入れれば、地域の特産品である矢守塚最中もアピールできます。」
 矢守塚製菓が所長の経営する会社であることは言うまでもないだろう。

「いやいや、歴史的な視点から見れば『矢守塚貝塚前駅』が最も適切です」と市議会議長が反論した。
「この地域の古代の遺跡をもっと広く知らしめるべきです。」

「私は『大蛇川駅』を推します」と金メダリストが発言した。
「この地域の自然の美しさを象徴する名前です。」

「しかし、『大蛇川温泉駅』が既にあります」と浜鉄グループのCEOが指摘した。
「私の提案は『矢守塚古墳駅』です。歴史的な価値を強調できます。」

 議論は白熱し、各々の意見が飛び交う中、地元の新聞社が実施したアンケート結果も紹介された。
 「アンケートの結果、最も支持されたのは『向日葵ヶ丘駅』です」と司会者が発表した。

「それでは、あえてすべての意見を取り入れずに、『寿限無発祥の地・寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助駅』というのはどうでしょう?小さいですが、近くに『寿限無発祥の地』の碑が立っていますので。」と一般参加枠の市民が提案した。
 会議室は一瞬静まり返ったが、次第に賛同の声が上がり、最終的にこの長い駅名が決定された。

 ◆

 向日葵ヶ丘小学校の4年生の空良(そら)は、新しい駅名を見て、その長さに驚いた。
 空良はそのニュースを見ながら、「これだ!」とひらめいた。

 夏休みの課題として、あの面倒な読書感想文を書くことになっており、空良はあるアイデアを実行すべく、寿限無の話を選んだ。
 
 彼は原稿用紙を広げて、感想文を書き始めた。
 感想文の中で新しい駅名を何度も引用し、彼なりのユーモアを交えながら文字数を増やした。

 面倒に思っていた400字詰めの原稿用紙3枚の宿題が見る見るうちに埋まっていった。

「寿限無の名前はとても長いです。なんと、『寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助』です。」

 空良は、感想文の中で新しい駅名を何度も引用し、文字数を稼いだ。
「新しい駅名『寿限無発祥の地・寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助駅』もとても長いです。駅名が長すぎて、切符に収まりきらないかもしれません。」

 彼は、寿限無の話と新しい駅名を絡めて、独特のユーモアを交えながら感想文を書き進めた。
「駅のアナウンスも大変です。『次は、寿限無発祥の地・寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助駅です』と言うたびに、乗客たちは笑いをこらえきれないでしょう。」

 ◆

 新しい駅名が発表されると、空良の予想通りに、地域にさまざまな影響が現れた。
 まず、彼の予想通りに駅名が長すぎて切符に収まりきらないという問題が発生した。
 駅の自動券売機は、長い名前を印刷するために特別な設定が必要となり、駅員たちはその対応に追われた。
『浜鉄CEOを含めた』満員一致で決まった手前、『寿限無発祥の地』と省略できなかったのだ。

 また、駅のアナウンスも彼の予想通りに一苦労だった。
「次は、寿限無発祥の地・寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助駅です」とアナウンスが流れるたびに、乗客たちは笑いをこらえず、次の駅に到着するまでにアナウンスが終わらないこともあった。

 さらに、観光客が増えたことも大きな影響の一つだった。
 メディアに取り上げられたことで、「世界一長い駅名」として話題になり、全国から観光客が訪れるようになった。
 地元の商店街や観光地は活気づき、経済効果も大きかった。

 新しい駅名が発表された後、地域の住民たちはさまざまな反応を見せた。
 商店街の八百屋の店主は、「どうせ、切符には『寿限無発祥の地』とだけ印字するんだろ」と笑いながら話していた。
 一方、地元の歴史愛好家は、「地域の歴史をしっかりと反映していて素晴らしい」と感動していた。

 また、駅名が話題になるにつれて、地元のカフェやレストランでは「寿限無発祥の地・寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助駅パフェ」や「寿限無発祥の地・寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助駅サンドイッチ」など、ユニークなメニューが登場し、観光客に人気となった。

 一方で、通勤通学で駅を利用する住民たちは、長い駅名に少し困惑していた。
「毎朝アナウンスを聞くたびに笑っちゃうけど、ちょっと長すぎるかな」と高校生の一人が友達に話していた。

 ◆

 感想文を提出した空良。
 先生はそのユーモアを理解し、感想文を高く評価した。
 授業の終わりに、先生は空良を呼び止めた。

「空良君、あなたの感想文、とても面白かったわ。寿限無の話をうまく使って、駅名の長さをユーモアに変えたところが素晴らしいわね。」

 空良は少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます、先生。」

「明日の授業で、クラス全員の前であなたの感想文を紹介したいと思うの。みんなで笑い合える素敵な作品だから。」

 翌日、先生はクラス全員の前で感想文を読み上げた。
 空良のユーモアあふれる文章に、クラスメイトたちは大笑いした。
 感想文が終わると、教室は拍手に包まれた。

「空良君、本当に素晴らしい感想文だったわ。これからもそのユーモアを大切にしてね。」

 空良の感想文が学校のイベントで発表されることになった。
 イベント当日、体育館には多くの生徒や保護者が集まり、空良の感想文が読み上げられた。
 彼のユーモアあふれる文章に、会場は笑いと拍手で包まれた。

 ◆

 その後、新しい駅名は地元の誇りとして定着し、地域全体が活気づいた。
 観光客も増え、地元経済は潤った。
 しかし、数ヶ月後に市浜県知事が交代し、新しい知事が関連条例を変更したことで、駅名は再び議論の対象となった。

 最終的に、新駅の名前は『向日葵ヶ丘駅』に変更されることが決定された。
 地元住民たちは少し残念に思いつつも、新しい駅名を受け入れた。
 空良は、「寿限無発祥の地・寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助駅」という長い名前が短期間でも地域に笑いと活気をもたらしたことを誇りに思った。

―――
ちなみに、この小説はタイトルも含めて3676文字です。

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曳舟次郎
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