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2024東北一周旅(1日目)

2024年10月6日(日)

本当は午前4時に出発を予定していた。朝には新潟につき、日本海を眺めながら朝食を食べつつ、朝日を拝もうと考えていた。しかし、前日にあった集まりの中で話が随分と盛り上がってしまい、気づけば帰宅したのが日付を回る直前。そんなこともあり、朝起きたら5時で、結局出発は2時間押しての6時になった。だが、別に一人で車で行く、ほとんどまともな計画もないような旅だ。大した影響があるようには思えなかった。出発時間にしたって、実際のところは単純に、未明の高速道路を走りたかっただけなのだ。

中央道に乗って八王子へと向かい、そこから圏央道、そして鶴ヶ島で関越道に乗り換えて新潟へと向かう。一人の車旅は常に眠気との戦いだ。生あくびを噛み殺し、やってくる眠気をいろんな方法で振り払う。大声で歌ってみたり、無駄に独り言を言い続けたり、ガムをかんだり、飲み物を飲んだり。
特に関越道なんかは危険だ。ごつごつとした山を眺めながらくねくねとした道を駆け抜ける群馬県内はともかく、関越トンネルを抜けた先、新潟市へと到着するまでの間の道は、たいていいつも空いていて、カーブも勾配も急でなく、淡々とした道だ。景色も悪くはないのだがそれほど変わり映えがしない。それでもひたすらに走り、新潟西ICへ到着する。長いこと走った高速道路を降りるときは、何とも言えない寂しさがある。

新潟市街を海岸方向に少し抜け、途中のPAで検索して目星をつけていたパン屋を目指す。神社の横の敷地にあるそのパン屋は、朝と昼との間くらいの中途半端な時間にもかかわらず多くの人でにぎわっていて、店内の席はほとんど埋まっている。ハード系と言われるかためのパンが多数並び、その中から3つほどチョイスして、コーヒーとともにテイクアウトにしてもらう。コーヒーがマシン抽出ながら一杯ずつしっかり出してくれるもののようで、少し待ち時間がかかる。手渡されたコーヒーはかなり熱く、右手と左手に行ったり来たりさせつつ、外に出て、海沿いへと向かう。
お久しぶり日本海。福岡から見えた海も日本海と呼んでよいのなら、2年ぶりくらいだろうか。座ってパンを食べられる場所を探していたら、ちょうどよいベンチを見つける。少し奥まってはいるけどいい場所にあるのに、だれも座っていない。ラッキー。
美味しいパンと浅煎りのコーヒーをいただきながら海を眺めていると、どこかから何かのアナウンスをする女性の声が聞こえる。水族館のアナウンスみたいだなと思ってマップを見てみたら、本当に水族館がすぐそばにあった。座ったところがちょうど水族館の裏側にあたる場所だった。人も少ないわけだ。水族館のお姉さんがあれこれ説明する声と、時折上がる歓声。それを独りで聴きながら、旅が始まった感覚を少し感じる。

海岸沿いの気持ちのいい場所でブランチ

車に戻り、次の目的地をカーナビにセットする。村上市。温泉と村上牛のイメージ。以前に新潟に住んでいた友人に連れてきてもらって以来、村上牛を使った贅沢な牛丼の味が忘れられず、新潟に来ると思わずいつも食べに行ってしまう。海沿いの道をひたすら北上する。過去何度か村上まで行く時には少し内陸の道を走っていたので、初めて通る海沿いの道だ。
海岸線やそこに建てられた風力発電の風車などが景色として流れていく中で、ガソリンがかなり減っていることに気づく。村上につくまでには一度給油をしないといけないが、こんな道沿いにガソリンスタンドなんてあるのだろうかという雰囲気の道だ。だが、あった。まさにそういう旅をする人用ともいえるようなガソリンスタンド。セルフ式ではなく、おじさんが一人でやっているようだ。現金かカードが使えるといわれ、カードで支払う。こんなところでもクレジットカードは使えるんだなと変な関心をしていると、給油を終えたおじさんがクレジットカードを返しつつ海沿いを行くのかと話しかけてくる。北上する旨を伝えたところ、しばらく行くと漁港があり、そこではうまい海鮮があること、またここでの給油で秋田くらいまでは全然いけると思うけど、海沿いにはスタンドが多くないから気を付けるよう教えてくれる。にこやかに感謝しつつ、心の中でごめんとつぶやく。心は肉に傾いている。

しばらく海沿いを走ったのち、内陸へと道が向いはじめ、村上市へと到着する。目的の店は混んでいて、しばらく順番待ちになる。昼も少し過ぎたところなのだが、大変なにぎわいようだ。30分ほど待っただろうか、席へと通され、牛丼を注文する。これまたしばらくして、牛丼が運ばれてくる。赤みの少し残った牛肉が丼を埋め尽くすように重ねられている。付け合わせでもう一つの看板メニューと思しき鮭のアラを使った煮つけも添えられている。煮つけも骨まで柔らかく煮てあり美味しかったが、やはり本命の牛丼。米をくるむようにして、肉寿司のような形で口に運ぶと、噛んだ瞬間にうまみが口いっぱいに広がる。程よい塩気だけの味付けが肉の甘さを一層に引き立てる。うまい。何年か前に来たときはあまりに旨いので追加で別皿の肉も頼んだ気がするが、さすがにそこまでの食い気は今はもうない。ひとしきり丼を楽しむ。

柔らかくて甘い肉。うす味でも十分に美味しい

満腹感で襲ってくる眠気を飛ばすため、少し仮眠をとったのち、次の適当な目的地を考え始める。出発前に聞いた中で、秋田にある喫茶店をお勧めしてもらったので、そこを目的地に入れてみる。到着予定は午後5時過ぎ。お店が閉まるのは午後5時。間に合わない。遅く出発した弊害が出てしまう。残念だが仕方ない。それならせめて、景色のいいところで夕日でも眺めたいと思い、男鹿半島に目をつける。これまた出発前に名前を聞き初めて知った場所だったが、半島を回りつつ夕陽を見れたらいいだろうなと、ひとまずの目的地を半島の根元にある男鹿市に定める。
高速道路は節約のためにしばらく使わず、国道7号線をひたすら走る。道は山の中に入ってみたり、再び海岸線へと出てみたりを繰り返す。ふと、ここまで景色らしい景色の写真を撮っていなかったことに気づく。今日のうちに通過してしまう山形県内で一枚景色を撮っておきたいと思い、海岸沿いで車を停められるところで一時停車をする。走ってきた南側に目を向けると海岸線が見える。走っている間も思ったが、砂浜よりも岩場に近いような場所が多く、その岩も大きくてごつごつとした海岸が多い。武骨でかっこいい印象だ。そんな景色を数枚カメラに収め、再び走り始める。

関東圏ではこうした海岸はあまり見ない気がする

走りながら、思いのほか日が暮れるのが早いこと、そして天気も悪くなっていくのを感じる。午後4時くらいの時点で既に夕陽っぽい雰囲気が漂い始め、挙句、雲が徐々にかかり始める。雲間からこぼれた太陽の光がきらきらと海の一部を照らす様はとてもきれいだったが、それが長く続くとも思えない。しかし、今更行き先を変える気にもならず、ひとまず男鹿に向けて走る。案の定、男鹿半島の入り口についたころにはもうほぼ日は暮れていて、通過していく町は眠りにつき始めてすらいるような状況だった。無計画の極みだと思いつつも、せっかくだからこのまま男鹿半島を回ろうと思い、そのまま半島の外側を走る道へとひた走る。
小さな海沿いの集落から夜釣りと思われる釣り船が出向しようとしているのを見たのが最後で、そこから先はろくに民家も街灯もない、海沿いの道をひたすらに走る。すれ違う車もなく、ひたすらに孤独を感じる。だが、以前に山奥の道で似たような状況になった時と違って、恐怖までは感じない。海と山。この二つに対する感覚の違いはこの後も旅を通じて、一つの疑問としてずっと付きまとうことになった。
一つの目当てであるゴジラ岩に到着するも、こんな時間に見に来ることは想定されておらず、ただただ真っ暗闇の中に、岩があることを示す明かりが明滅を続けているだけ。一応写真も撮ってみたがどこがゴジラっぽいのやらもわからない。笑ってしまうくらい何の感情もなく、ゴジラ岩を後にして、さらに半島を北上する。

ゴジラ岩らしきもの。実際はもっと真っ暗

とっくに閉館時間となった水族館の前を通過したあたりで、再び少しだけ集落の気配がし始める。進路が東に変わり、半島をほぼ一周して内陸へと戻っていく。秋田県内でここより北の土地だと、名前を知っている町が能代くらいだった。なので、能代へと向かう。きっと私が知っているくらいの町だから、それなりに夕飯を食べたり宿を探したりできるだろうと高をくくって。
街灯のない道が続く。ヘッドライトの光はとにかく行く先を照らすのみなので、いったい自分の走っている横にあるのが田んぼなのか、畑なのか、砂浜なのか岩場なのかもわからない。海岸沿いの小高い丘に無数に建てられた風力発電の風車だけが、妙に怪しげな光を放っているのが見えるばかりだ。立っている場所が人の立ち入らないようなところだから何かの目印にもならない。ひたすらにカーナビの案内するままに走り続ける。数時間ぶりに見た信号を曲がると急に人里へと降りてきた感が出てくる。国道7号線に戻る。人里へと戻り、最初に見た看板はドラッグストアの看板。コンビニではないんだな、と変なところで感心する。

能代へと到着し、どこかのファミレスで夕飯でも食べながら今日の宿を探そうとするも、町のメインストリートと思われる場所にファミレスらしきものは見当たらない。宿代わりにとあてにしていたネットカフェも見当たらない。自分が名前を知っているくらいの町だから、まぁまぁ栄えてはいるんだろうという慢心が見事にあだとなる。いったんコンビニに車を停めてトイレ休憩をしながら、どうしたものかと途方に暮れる。状況を聞き見かねたパートナーから、青森県の弘前まで行けば宿がありそうだと情報をもらう。調べてみると現在地から約2時間。午後10時には着ける。まぁ夜に走るのも楽しいしちょうどいいかと、弘前のホテルを予約したうえで、そのホテルを目的地にセットする。

ルート設定に「有料道路は含まないが、高速道路を含める」とすると、自動車専用道路がルートに含まれる場合が出てくる。関東圏にしか住んだことのない人間には聞きなれないものなのだが、全国各地を走っていると結構ある。無料で走れる高速道路みたいなものだと勝手に思っている。実際、制限速度も高速道路並みになる。設定された弘前までのルートにも自動車専用道路が含まれていた。
自動車専用道路は無料である代わりになのか、舗装が結構いまいちなことが多い気がする。そしてたいてい街灯がない。つまり、夜に走るのにはあまり適していない。とはいえ、ここを通らないともっとひどい山道を通ることになるだろうし、それこそ日付を回ってしまう。ここまで既に700km以上を走っているが、逆にハイになっているのか変に集中力はあるような状態で、夜の自動車専用道路を駆け抜ける。

ようやく到着した弘前の町は、これまでの町や集落に比べると午後10時にしては明るかった。しかし、町そのものは起きている様子がない。ほとんどの店は閉まり、明かりだけが灯されている。とはいえ、ホテルが中心地よりも少し外れたところにあったので、夕飯を食べに行きがてら中心地へと向かう。だが、中心街と思しき場所に着いても、印象はさほど変わらなかった。日曜の夜ということもあるのかもしれないが、町は基本的に寝静まっている。
パートナーが先に調べてくれていた店は開いていたので、そこに入る。個室居酒屋となっていて、一人だけぽつんと部屋に入れられる。少し耳をそばだててみても、店内にいる客は私のほかに、隣に一組くらいのようだ。適当な注文をして出てきたものを食べていると、隣の部屋の会話が耳に入ってくる。カップルかただの友人かは分からないが若い男女の声。年上の女性は割とあけすけに自分のことを語るが、年下の男性の方は自分の話をあまり詳細にしない。悩み事はあるが、詳しくは話したくない。何ともやきもきする問答が聞こえてくる。食事も酒も尽きたので、会計を済ませて出る。二人が寝静まった町で何かを得られますように。

気づけば初日にして800km近くを走りきることになってしまった。宿に戻ると、疲れもあったのか、気づけばとるものとらず寝てしまった。

知らない町は、知らない匂いがしていた


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