【オーダーメイド物語】誕生日の物語#02
白亜の屋敷が抱えるロングギャラリーには、絵画や彫刻の代わりに、たくさんの水槽たちが上に下にと並べ飾られている。
ひんやりとした静寂の世界。美しいアクアリウム。
覗きこめば、熱帯魚たちがキラキラと自ら光を発しながら、優雅にアクアマリンを溶かした水の中を泳いでいた。
私はおそらく夢を見ているのだろう。
そして、魚たちも夢を見ている。
魚たちは泳ぎながら、音にならない歌を紡ぐ。
紡がれた歌は、アクアリウムの水底におちて結晶を作る。
ソレは彼らの太古の記憶にして願いなのだと、私はなぜか理解していた。
あの結晶を取り出して、時の糸で編み上げて――ここから抜け出したいと願い、でも、ここでずっと微睡んでいたいとも願う、そんな惑う魂に安寧と導きとをもたらすものがつくりたい。
湧き上がる想いを言葉に変えて、それを唇に乗せた瞬間。
とぷり……と、耳元で水が揺れる。
気づくとわたしはひとり、自室の窓際で安楽椅子に身を預けていた。
美しいアクアマリンのアクアリウムはどこにもない。
けれど傍らには、魚たちの夢の結晶が小瓶に詰められ置かれていたから。
コレは想いを託されたのだと思うようにして、まずは時の糸紬が待つ工房へと向かうことにした。
*誕生石・誕生花*
デイジー:純潔・美人・平和・希望
オウバイ:控えめな美・期待・恩恵
琥珀:太古の夢
アクアマリン:聡明・勇気・知恵・幸福
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あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
正式なリリースの前にFacebookでモニター募集させていただいた34編を順次公開いたします