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★誕生日の物語#20

聖女様、と――そう呼ばれることに違和感を覚えられたのは、あの出会いがあったから。

「あんたの名前は?」
私に名を尋ねてくれたのは、旅の絵描きと名乗ったあなたが初めてだった。
「聖女だからって、むりやり籠の中で飼われるもんでもないだろ?」
教会の戒律に従う私に、なぜ隷属と搾取に甘んじるのかと、そんな問いと価値観を差し出した。
穂月の祭りは、国をあげての収穫祭でもある。
彼はその祭りを描きにきたのだとうそぶきながら、その筆が描き出すのは、生命力と躍動感にあふれた『私』の姿だった。
「あんたに、これまで誰も見たこともない景色を見せてやりたい。あんただって本当は、ソレを望んでるんじゃないのか?」
口元に皮肉げな笑みを浮かべながら、けれどその瞳の奥には私の知らない愛が滲んでいて。
驚きで何も言えなかった。
けれど、あの時確かに救いの手を差し伸べてくれたのだと、少し時間はかかったけれど気づくことができたから。

だから。

聖女を唆した咎で囚われ、地下牢へ繋がれたあなたを、今度は私が救い出そう。
司祭を眠らせ、見張り達を遠ざけ、いくつもの呪術の壁も消し去って――重なる柵も枷もすべてを壊し、あなたの手を取り、私は籠の外へと飛び立つのだ。

*誕生石・誕生日花*
クレマチス:精神の美・旅人の喜び・策略
ディアスキア:私を許して
アイ:美しい装い・あなた次第
ペリドット:希望・友愛・夫婦の輪
サファイア:慈愛・誠実・徳望

Copyright RIN

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あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
正式なリリースの前にFacebookでモニター募集させていただいた34編を順次公開いたします


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