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【オーダーメイド物語】誕生日の物語#03

世界から隠された小さな箱庭に、彼はある日突然空から落ちてきた。
灰色の翼をたずさえ、灰色の全身鎧をまとった満身創痍の有翼人たる彼は、地にふせながらも、憎悪に燃える瞳でここはどこだと問いかけ、そのまま意識を手放した。

そうして次に目覚めた時、彼は自らの名を失っていた。
問えば、「夢に降りた神に奪われた」と言う。
それどころか、名前と一緒に記憶までもが次から次へとこぼれ落ちては失われているらしい。
「あれほど我が身に激っていたはずの、復讐心すらもひどく遠いものなのだ」
帰る場所もわからないと困惑する彼を、私は私が作り上げたこの小さく閉じた箱庭へ迎えることにした。

やがていくつもの季節がめぐり、彼の身に刻まれた傷は癒え、彼の瞳からは憎悪のわずかな欠片さえも消え失せていた。

「この心臓と剣を捧げ、あなたを護ると誓おう」

代わりに鮮やかな生命力を宿した彼は、あふれるほどの騎士道精神を示し、私を驚かせる。

この箱庭にかつて生まれたトリカブトをそっとつつみこみ、いまや一帯を埋めつくすほどに咲き誇るインパチェンス。
触れないでと拒絶しながらも豊かに彩ってみせるその存在が、その魔力が、いつしかあなたをも生かす糧となれたなら。
騎士の誓いを立ててくれた彼の想いを受けながら、私はそっと神に祈りを捧げる。

*誕生石・誕生日花*
シェル:美しい契り
ルビー:情熱・勇気・自由・威厳
インパチェンス:鮮やかな人・強い個性・豊かさ
トリカブト:騎士道・栄光・人嫌い・厭世家・復讐

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あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
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