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★誕生日の物語#23

一瞬強く吹き付けた風が、駅舎を囲む花々を空へ舞いあげる。
つい驚いてしまった自分の耳へ、小さな忍び笑いが届く。

「いまのは妖精たちが駆け抜けたのですわ」
「君は」

覚えていてくれてうれしい、と告げる彼女に、かつて家庭教師として呼ばれた屋敷の中で邂逅した、兄や父の影に怯え、家の有り様に怯える小さな子供の姿が重なった。
あの時の子供が美しい女性となり、今、トランクを片手に立っている。
「今日はどうしてもあの日のお礼が言いたくて……それとお願いがありますの」
「お願い?」
「これからの先生の旅に、私も一緒に連れて行ってくださいな。世界を飛び回るなら、見聞を広げるのなら、私は先生の隣でそれをしたいのです」
きっと役に立てるから、と、彼女から差し出されたのはオパールの首飾りだった。
中に刻まれている文字が、この国の最高学府並びに機関から発行されるフィールドワークのための免状だと知らせてくる。

「私の知らない私を、先生はいくつも見つけてくれたから、ここまで来れましたのよ?」

そんな声に重なるように、頭上から汽車が駅へと降りてきて。
これが恋慕であることなどその時の私は知る由もなく、教え子の門出を祝うつもりで差し出された彼女の手を取った。

*誕生石・誕生日花*
パキラ: 快活・勝利
ワレモコウ: 変化・もの思い・愛慕
サンストーン: 情熱・勇気・仕事の前進・良縁を得る
トルマリン: 歓喜・忍耐・幸福
オパール: 苦しみの克服・幸福

Copyright RIN

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▶︎誕生日の物語とは?
あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
正式なリリースの前にFacebookでモニター募集させていただいた34編を順次公開いたします


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