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【オーダーメイド物語】誕生日の物語#01

その手紙が届いたのは、太陽がゆるりと西の空に溶けて消えさる頃だった。
螺旋図書館の執務室で私は歓喜の悲鳴を飲み込み、あまねく魔導書や禁書たちの声を振り切って外へ飛び出していた。

空を駆ければ、わずかな涼をはらんだ夜風にまぎれて遠い記憶も蘇る。

燃え上がるような情熱をその瞳に宿す、優しい魔術の師との時間。
たとえば、ソレは炎月祭の夜。
『焔の花茶を淹れて祝おう』と、はにかみ笑いながら茶会を開いてくれたけれど、結局は、指先でたわむれる精霊たちに邪魔されて、私が淹れることになった真夜中のティータイム。
遠すぎる追憶へ想いをはせれば、握りしめていた招待状が蜂蜜のようにとろける光を帯びて、左の薬指にはまるリングへ形を変えた。

――ソレは、世界の境界を越える鍵となる。

「……お師匠さま」

空を支えてそびえる菩提樹が影を落とす紅玉の館――
研鑽を積め、世界を識れと、師に送り出された後には二度と辿り着けずにいた館が、いま確かに目の前にたたずんでいる。
そうして鼻先をくすぐるのは,記憶の中にあるものと同じ焔の花茶の香り。
誘われるままに中庭へと向かいながら、左手の指輪にそっと唇で触れる。
ようやく私はもう一度、師の隣に立つことができるらしい。

*誕生石・誕生花*
ニチニチソウ:楽しい思い出
ボダイジュ:夫婦愛・結婚
ヘリオドール:高い精神性・希望 
ルビー:情熱・勇気・自由・威厳

Copyright RIN

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