
【物語ライター】物語の登場人物風にあなたのもとへ宝箱を届けてみる【企画】
物語ライターがお送りするFacebook限定物語体
企画。
今回のテーマは、『宝箱』
裏テーマとしてタロットカードの『小アルカナ』をキーワードに。
もしもあなたが物語の登場人物だったら?
宝箱の中にあるものは、財宝、出会い、あるいは小さな予言となりうるもの?
完全ランダムの物語、興が乗りましたらのぞいてみてくださいませ。
…*…物語の登場人物風にあなたのもとへ宝箱を届けてみる…*…
◆ワンドのクイーン
旅立ちを決めた日。かつての学友である王妃に呼ばれ、私は従魔たる灰色の雛鳥たちと秘密の庭園へ足を運ぶ。
「餞別よ」
「これって……」
言霊の魔匣ーー差し出された美しい木箱は、語る言葉を糧に未来を引き寄せる宝具だ。
自分の夢を語るあなたが好きだからと、彼女は微笑み、私を抱きしめた。
◆ソードの8
深夜、荊に覆われた教会の礼拝堂でわたくしはひとり、神が眠る石櫃へ祈り続ける。
天の試練を前に多くの者が堕ちていった。
理想とは矜持ーー共に語り歩める者がいない孤独に心が振れた瞬間、ふいに石櫃の蓋が開く。
中では月を映す8本の美しい剣が、断ち切るべきものがあると囁いた。
◆カップの3
穂月祭の夜、私は友人ふたりと互いを労う。
重ねた試行錯誤は実を結び、荒れ果てた地は豊穣の地へと姿を変えた。
黄昏の迷宮で水神の紋様が刻まれた3つのゴブレットを宝箱の中に発見したあの日が、全ての始まり。
豊かさの輪を広げるためにーー聖杯とともに授かった使命を私たちは再確認する。
◆ペンタクルのキング
誰にも脅かされない安寧を、誰もが苦しみを一人で抱え込まず支えあう居場所を作りたいと願っていた。
戦禍の中、同じ孤独を持つ彼とふたり、朽ちた王城の地下で金貨の詰まった宝箱を発見したのは導きだったのかもしれない。
私達の抱いた理想がやがてひとつの国になるのだと、確かな予感に胸が震えた。
◆カップの5
迷宮の最深部で呆然とする。
禍つ神を隔離世へ封じるための聖杯ーーソレが収められた宝箱ごと破壊されていた。
これで三度目。魔力の残滓が人間の仕業だと告げている。
「絶望するには早すぎんだろ?」
風の精霊が耳元で笑った。
「聖杯はまだふたつある」
お前ならやれると囁く愛しい声が満身創痍の私に覚悟を決めさせる。
◆ワンドの2
魔法陣を敷いた机の上へ、旅立ちに必要なものを並べていく。
「自分を信じて」
幼馴染の彼女が、木箱を取り出し、置いた。
中には互いのために魔樹から作った杖が2本。
そのひとつを彼女が取り出す。
学院を出て、私は魔術師の塔へと挑戦する。
行ける所まで行くと決めた私に、友の祝福が優しく手渡された。
◆ワンドのペイジ
王命で訪れた宝物庫の前に、満面の笑みで私を迎える少年がいた。
無邪気なあどけなさと貫禄が同居する不可思議な存在に手を引かれ案内された奥の間に掲げられた変革の杖。
ソレにより訪れる試練は、情熱を行動へ移すための燃料となる。
巡り合わせたチャンスに、私は手を伸ばした。
◆ワンドの3
水平線を燃やす朝焼けをながめながら、私は目指すべき道を確信する。
最果ての迷宮に眠っていた宝箱は、この海岸に祀られた祠の前で三本のワンドへと姿を変えた。
己の在り方を決定づける運命の三女神の祝福が宿るソレを胸に抱けば、燃え立つ情熱のまま、望むままに進むなら今だと告げてくる。
◆ワンドのエース
これはまさしく天啓だった。
100年に一度、村は白銀に染まり、冬の森には宿木が姿を表す。
その内側には時に天からの贈り物が隠されているという。
呼ばれるままに森へ踏み入った私は、そこではじまりを告げる特別な一本の杖を見つけてしまった。
刹那、世界を広げたいという私の願いが揺り起こされる。
◆ペンタクルの8
作り手としての己と向き合い、こだわり、仕上げてきた宝石箱たち。
いつの頃からか、満足のいく出来のものには金貨が1枚入るようになっていた。
見たことのない紋様を刻むソレが8枚目となった今日、私の工房に一人の青年が現れた。
精霊の気配をまとう彼は、私に王への贈り物を頼みたいのだと微笑んだ。
◆ソードのキング
深い知性と厳格さをたたえる双眸が、玉座から私をまっすぐに見据えている。
冬の王による鑑定を、私もまた臆せず受け止める。
「なるほど、貴殿の潔癖さが力となるか」
王自ら立ち上がり、身の丈を上回る宝剣を差し出す。
今この瞬間、私たちは未曾有の危機に立ち向かう同志であり仲間となった。
◆ワンドの6
張り巡らされた城壁から門へと騎乗した竜馬で凱旋する私たちへ、祝福の波が押し寄せてくる。
私と仲間たち6人の魔術師が成し遂げたことがこれほどのうねりになろうとは。
いまや魔国と人国を隔てる障害はすべて取り除かれた。
種族を超え、言葉を超えて、つながる術を得たいま、世界の扉は大きく開かれる。
◆ペンタクルの9
祝福と歓喜に満ちた小さな村には、愛情を注いだ葡萄畑が広がっている。
竜をも酔わせる神域の雫が生まれたことで約束された繁栄。
私は水晶硝子の小瓶の中で煌めく金貨たちへそっと視線を落とす。
神の刻印がなされた9枚の金貨がもたらした奇跡。
滅びに瀕していた故郷は今、確かな地位を確立しつつある。
◆カップのペイジ
豊かな感性、語らう幸せ、正しく力をつけていく喜び。
無邪気に笑う彼の成長に、司祭たる私の心はほろりと揺れる。
この教会の扉前に倒れ伏していた幼子を迎えてから数年。
力を失い沈黙していた運命の聖杯は、いまや私の唯一の宝であるこの子の光で満たされていた。
全てが動き出すまであとわずかーー
◆ペンタクルの3
司祭に促されるまま祭壇へ膝をつき、掲げられた創世記の一幕を描いた絵画へ向けて祈りを捧げる。
天窓から注がれる光が、 絵画と私とをなで、そうして跪く私の前で3枚の金貨へと形を変えた。
そこに刻まれた紋様は私に神の領域に届く芸術家たれと示す。
周囲のどよめきを供に大きな転機がやってきた。
◆ワンドの5
こんなにも心が高揚したのはいつぶりだろう。
私はロッドを操り、4人のライバルたちと互いの魔法を駆使して牽制し合いながら迷宮を駆ける。
真実の砦まであと少し。
自分一人では辿り着けない、彼ら彼女らの存在が私をさらなる高みへ連れていく。
砦の向こうで待つ褒賞の匣の中身より、今この瞬間がいっそ尊い。
◆ソードのエース
ここから先は未知の世界。
切り立った崖の上から、私は遥か彼方まで広がるアレキサンドライトに萌える森を見つめた。
叶えたい願いがある。
手にしたいものがある。
私は学院の試練の間をクリアすることで得た剣を供に、決意を固める。
どれほど過酷な道のりであっても、私はけっして歩みを止めない。
◆ワンドの7
樹海の中心に据えられた遊戯場。
盤上に載った駒へ触れ、己のうちの深層まで降りて見つけた箱を解錠して得た『答え』を糧に、そっと魔力を注ぎこむ。
世界と自分の存続を賭けた悪魔との遊戯は、運気の追い風を受けて私の勝利へと傾いていく。
相手の好きにはさせない。
主導権はいつでも、私の側にある。
◆カップの4
魔導士の塔の属性を表す4つの聖杯が四方の扉の前に掲げられている。
この塔の始まりから繰り返されてきた聖杯を巡る勢力争い。
この杯が満たされたことはついぞなく、真理の扉は固く閉ざされたまま。
奪い奪われる関係では真理に手は届かないと、気付いた私たちの世代から、転機を引き寄せるのだ。
◆ソードの7
魔法師たる師匠が私の旅立ちの日に託してくれたのは、7つの剣を封じた宝玉だった。
師が神の庭から持ち帰ったソレは、私に悪意や危機の存在を告げ、時には石の中より顕現して悪きものを薙ぎ払ってみせて。
そして今この瞬間、妖精の輪へ引き摺り込まれかけている少女たちをも救えるのだと私に示した。
◆ソードの10
あらゆる光が消えた漆黒の帷の中。
私は悔恨を胸に抱きながら、深く広く記憶と思考の糸を巡らせ、那由多に分かたれた運命の、その岐路をなぞっていく。
楔として残してきた魂の剣たちが、そのたびに夜明けを告げる音色を奏でて。
立ち止まるのでなく次にすべきことは何か、私はその答えを静かに手繰り寄せた。
◆カップのナイト
憧れと理想とを胸にたずさえ、聖杯が封じられているという霊峰を目指して長く旅を続けてきた。
その頂にようやく辿り着いた私を待っていたのは、聖杯ではなく純白の天馬だった。
翼あるものは私にその背へ乗れを告げる。
高く早く、理想へ手が届くまで舞い上がる術を彼は私に与えてくれた。