見出し画像

★鉱石の囁きを閉じ込める物語#03

翡翠の囁き

ソレがいつから始まったモノなのかは誰も知らない。
一年に数度、あるいは数年に一度、一対の女神像を祀るこの教会の礼拝堂にはやわらかな光が霧雨のような繊細さで注がれる日が来る。
「……司祭さま」
礼拝堂の扉の前に聖歌隊のごとくならぶシスター達へと私は頷きで応え、先代から受け継いだお役目を果たすべく、ひとり祭壇へ向かう。
羊皮紙と羽根ペンを手に、あの光の雨の中へと身を投じるのだ。

「大丈夫。次は私が、あなたたちを護ってみせるから」

花に例えられる淡い紫、深緑、氷のごとく透明度の高い白、さまざまに色調を変えて注ぐ光には、かすかな旋律を伴っている。
ソレは、天使から私たちへと贈られる“言葉”なのだと教わった。
来たる災厄から、あるいは穢れから、大切なものを護るための術をもたらし、時に予言となり、時に福音となるのだと。
ただし、天使がもたらす言葉のすべてを受け取るためには、自身の魂の純度をあげ、ただひたすらに注ぎこまれる言ノ葉を一言一句逃すことなく綴り続けるしか術はない。
容易には果たせぬものだ。
けれど、私にためらいはない。迷いはない。疑いはない。不安はない。
そのすべてが福音であり、そのすべてが祝福の鐘であると、知っているから。

私は加護を受けた羊皮紙を抱き、愛すべきモノたちのために、ただその想いだけで、私は降り注ぐ光の旋律を剥き出しの魂で受け取り、綴る。




◆4-20-1 翡翠
繁栄、幸福、飛躍、調和、忍耐、福財

Copyright RIN
***

Facebookにて、オーダーメイド物語の新メニュー考案のために募集したモニター企画でした。
オーダーメイド物語としては初のお手紙方式(郵送)でお届けです。
運命のダイスを転がした結果の鉱石をモチーフとした、少し不思議な500文字の物語。
物語とリンクする形で、鉱石イメージのインクを使い、
ガラスペンでミニカードに「鉱石の囁き」を綴っております。
*ミニカードの内容はこちらでは非公開としています


いいなと思ったら応援しよう!