【オーダーメイド物語】誕生日の物語#05
妖精たちのいたずらのせいなのか、入り込んでしまった惑いの森のその先で、菫青石の門を構えた屋敷を見つける。
わずかに差し込む日の光で淡く色を変える美しいソレに誘われて、そろりと足を踏み入れた。
誰か、と声をかけてみても、応えはなく、あるのはどこまでも透き通った静寂のみ。
石畳の向こうに見える館の扉を開けるのは何故か少しためらわれて、庭の方へとまわりこむ。
「あ」
思わず、声がこぼれ落ちた。
広くひらけた庭園には清浄な空気に満ちていて、瑞々しい緑のなかに、純白のクロスをかけたテーブルセットがひとつ。
そろりと近づけば、ハイビスカスの花々が、紅茶や焼き菓子の代わりに、ティーカップやティーポット、ティースタンドからあふれているのが見てとれた。
思わず鮮やかなその花に手を伸ばせば、指先が触れた途端に、知る。
このお茶会は、私のためのものだ。
魂ごと迷子になっていた私を、私自身が見つけるために、催されたものなのだ。
わたしはだれ。
わたしはわたし。
何かが始まる予感にふるえながら、私は私と対話するために、そっとお茶会の席に着く。
*誕生石・誕生日花*
アイオライト:アイデンティティ・穏やかな心
ペリドット:平和・安心・和合
ハイビスカス:繊細な美・新しい恋
ルコウソウ:繊細な愛
***
▶︎誕生日の物語とは?
あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
正式なリリースの前にFacebookでモニター募集させていただいた34編を順次公開いたします