【オーダーメイド物語】誕生日の物語#09
壁の一面をガラスで覆った執務室から眺める景色は、高純度のアメジストの夕闇に溶けていた。
待ち人は今日も来ない。
視線を手元に落とせば、白磁のティーカップに注がれた青紫のハーブティーの中で、金の星屑がキラキラチカチカと瞬いている。
あの人が私に残してくれた贈り物たちが、秘められた想い出が、そうして私の心を揺らすのだ。
この胸にあるのは寂しさなのだと、この胸に刺さる棘の名は喪失なのだと、痛む心をなぞる指先が教えてくれる。
『あなたはあなたの道を』
『魂が望むままになすべきことを』
『枷となり障碍となるものはすべて、この私が打ち砕いて見せよう』
私は天の導きをいただく存在であり、民の羅針盤となるべき存在。
あの人は切り拓き進む剣となるべき存在。
ただ寄り添い、互いのそばにいるということを良しとしなかったのは、それによってもたらされる未来を良しとしなかったのは、私たちだ。
避けられたかもしれない別離を、疑う余地のない愛によって受け入れたのも、私たちだ。
陛下、と、ふいに扉の向こうから気遣わしげな声がかかる。
もうそんな時間かと驚きつつも、喪失の棘を永遠の愛で包み込み、私は凛とした声でソレに応えた。
*誕生石・誕生日花*
ストック:永遠の愛・愛情の絆・求愛
キンセンカ:別れの悲しみ・悲嘆・寂しさ
レッドジャスパー:永遠の夢・情熱・自己制御
アメジスト:高貴・真実・誠実・心の平和
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▶︎誕生日の物語とは?
あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
正式なリリースの前にFacebookでモニター募集させていただいた34編を順次公開いたします