【オーダーメイド物語】誕生日の物語#08
鍵をかけられ、永く閉ざされてきた師の書斎へと足を踏み入れたのは、もしかすると何かの予感があったのかもしれない。
かすかに残る香りの中に、甘やかな花の存在を感じる。
紋様を刻み、赤い実を模した宝玉が埋め込まれた机には、懐かしささえ感じさせる鼈甲細工のペンがひとつ、忘れ去られた過去のように置かれていた。
あの人が誰かに手紙を認めたのだろうか。
それは誰かの元へ届けられたのだろうか。
微かな疑問を抱きつつ、黄色から赤、赤褐色、黒と複雑に混ざり合った紋様に惹かれ、思わず手に取って。
「…‥師匠?」
それがトリガーだったのだろう。
内に込められていた師の懐かしい魔力が、指先から私の体内をゆるりと巡る。
『進むその道に惑うことはない』
『なにがあろうと、お前を一番そばで見守っているよ』
優しい眼差しが、力強い言葉が、あたたかな愛が、鼈甲細工からあふれて、私をとりまく。
悩み、迷い、次の一歩をためらう私へと贈られた、過去からのメッセージ。
すべてを見通す師の、その不在で生まれた胸の虚が充たされて、知らず涙がこぼれて落ちた。
*誕生石・誕生日花*
ヒメジョオン:素朴で清楚
ユーカリ:新生・再生・思い出
ナナカマド:慎重・賢明・私はあなたを見守る
べっ甲:未来・予知・生命力
トパーズ:誠実・希望・友情
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▶︎誕生日の物語とは?
あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
正式なリリースの前にFacebookでモニター募集させていただいた34編を順次公開いたします