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◆久々に実家へ帰ったらうちの天使な甥っ子がエライことになってた件

「え、いや、なんで?」

 我ながら、マヌケな顔でマヌケた質問をしたと思う。
 玄関を開けて1秒。
 俺は我が目を疑った。

 かわいいかわいい、この世の誰よりも可愛くて溺愛してると胸を張って公言する最愛の甥っ子が、クマのミミ付きフードのレインコートをはおった超絶かわいいチビ助が、でかすぎる鉄製のスコップをかついで立っていた。
 物騒にも程がある。

「え、死体でも埋めんの?」
「あい! にーに、せいかい!」
「そっかー、正解かぁ」

 天使みたいな笑顔で悪魔みたいなことをのたまう甥っ子に、くらりとめまいがおきる。
 めちゃくちゃ可愛い。
 ものすごく可愛い。

「誰にお願いされたのかな?」
「マッマとパッパがねー、おかたづけてつだってーって」
「そっかー、ママとパパからのお願いかぁ」

 なに、子どもひとり置いて仕事に出てんだ、スケジュール管理杜撰すぎんだろ、あげくのはてにこんな夜に手伝いとして呼びつけるとか正気かよ、正気じゃねーな、よし、兄貴と義姉さんは後で説教する、ぜってぇする。

「にーに、どうしたの?」
「ん? なんでもないよ。それよりさ、にーににソレ、手伝わせてほしいなぁ」
「えー?」

 ひとりでなんでもやりたい年頃だもんね、嫌だよね、わかる、かわいい。
 でも、かわいいからこそ譲れない。

「にーに、ひとりぼっちで待ってるの怖いなぁ。一緒に行きたいなぁ。だめかなぁ」
「えー、したらいいよー」

 しょうがないなぁ、と言わんばかりの態度が食べちゃいたいくらいかわいい。
 ああ、かわいい。
 俺の天使が今日も可愛い。

「じゃあ、お片付けしにいこっかー! にーにを案内してくれる?」
「あい!」

 クマ耳フードに鉄スコップ装備のかわい子ちゃんが、俺の手を取って歩き出す。
 え、どうしよう。
 家業である社会の頑固な汚れを『一掃』する清掃業に従事して20年、もしかすると今が一番命の危機かもしれない、甥っ子が可愛すぎて心臓もたない、心停止起こしそう、ああ、天使かな、天使だな、これってお迎え来ちゃったってこと?
 いや、死なねーけど。

 己の業の深さもたいがいだなと自覚しつつ、俺は三徹目をものともせずに最愛の天使と夜のお手伝いに向かった。


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