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★誕生日の物語#15

私を乗せた水晶の馬車が、来訪の鐘をひとつ鳴らす。
たったそれだけで、壮麗たる門は音もなく開かれ、緑柱石と月光石から生まれた鈴蘭たちが、風に揺られながら、りりんしゃらりんと愛らしい音を響かせながら迎えてくれた。
懐かしくも愛おしい、ここは秘密の楽園にして、エメラルドの箱庭。
遠い昔に私があの子のために作り上げた、思い出の地。
主として地上を取り仕切らねばならない《華月祭》を前に、久しく訪れることのなかったこの場所へ再びやってきたのは、ある約束のため。
かつて自分が出会い、己の庇護下に置いた、愛しい百花の聖霊からの誘いに応えるためだ。

「お待ちしておりましたわ」

陽に透き通るほどに鮮やかな花々の中で、私のためにと催される茶会の席。
宝石のような果実の菓子と紅茶をならべ、朝露から生まれた脆く幼い聖霊は、いまや王族としての威厳を備えて優美に微笑む。
あまねく試練を乗り越え、見事に開花して見せた愛弟子の華やかなる姿を誇らしく思えば、

「あなた様の愛がわたくしをこうして育ててくれたのですわ、祝福の導き手たる"碧の陛下"……わたくしの、永遠のお師匠さま(おかあさま)……」

あの頃と変わらぬあどけなさで、その白い両腕が、私の体を抱きしめた。

*誕生石・誕生日花*
アマゾナイト:気晴らし・才能開花・聖なる愛情
エメラルド:幸運・幸福
エーデルワイス:大切な思い出・勇気
スズラン:再び幸せが訪れる・純粋・純潔・謙遜

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▶︎誕生日の物語とは?
あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
正式なリリースの前にFacebookでモニター募集させていただいた34編を順次公開いたします


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