一人目デザイナーのタスクの洗い出し方とまとめ
「デザイン経営」というパワーワードが浸透しつつある昨今、経営と現場の橋渡し的存在である一人目デザイナーもしくはデザインマネージャーたちも重要であると言わざるを得ません。
しかし企業側の期待が膨れ上がっているゆえか、入社してみるとデザインのデザインをしなければパフォーマンスを発揮できない会社も多いのかなと思います。またそのようなポジションは責任の重さやデザインを極めたいという個人の欲望と相反するため敬遠している方も多いのではないでしょうか。
また幸か不幸か一人目デザイナーになったりするとデザインを投資項目として捉え「いつ」「なにを」「なぜやるのか」を考えながら走りづつけることに苦労することになると思います(私だけかもしれませんが)
そんな中、投資項目を精緻化するにあたって「CTOの頭の中:技術投資を最適化する」という記事の枠組みが非常に参考になりました。
本記事を読むよりも元の記事を読まれたほうが正確かつ早いとは思うのですが、技術的な例だとデザイナーとしてはちょっとわかりにくいかなと思ったので、私の方でだいぶ背伸びをしてデザイン版を書いてみようと思います。ただ私自身 CxO の経験はありませんし経営との橋渡し的なポジションを長い間してきたわけではないので、未実践ながら学習しつつメモした内容や尊敬している周りのマネージャーの動きを観察して書き溜めていたものを多分に含んでいますのでご了承ください。
あくまで叩き台として、皆様のスタートが多少なりとも楽になれば幸いです。
なお特にこんな方へおすすめです。
一人目デザイナーになり何から始めるか検討している
上司または経営者と「何をやるのか」の意思決定がなぜか合わない
デザイナーからもらった戦略案への判断基準が好きか嫌いかになる
デザイナーのタスクを投資項目として整理するにあたって
そもそもP/LやB/Sって?
またP/L(損益計算)やB/S(バランスシート)を聞きなれない方もいるかもしれないですが、雑にまとめると「お金はいつ入ってきて、いつ出ていくのか。何に使うのか。」持続性やリスク、やるべきことなどを戦略的に考えるうえで参考にするものです。(G/Pについては CTOの頭の中:技術を財務で表現する をご覧ください)
ただデザインの場合はそれらに加えて、特定の行動が「どれくらい信頼を貯められるか?」「社外にどうみられたいか?」を調整することになると思います。というのも、エンジニアとは違って中間成果物や具体化するプロセスを担うことが多いため、生産力や生産量だけでは測りづらくなってしまうからです。
とはいえ信頼感というのは数字にしにくく、わざわざ「信頼してますか?」とも聞けないですし、顧客の真の気持ちは推し量ることが難しいため本記事では直接的には扱いません。持ち前の定性的な感覚と相手の行動を観察して推察してみてください。
そもそもなぜ整理をするべきか
「なんとなく今はデザインシステムと採用ブランディングやったらいいと思う!」で天才は企業を成長させてしまうのかもしれないですが、仮にうまくいかなかった場合、時間をかければかけるほど信頼を失っていきます。逆に細かな施策ばかり請け負い、成長戦略が描けていないと信頼は積み上がるかもしれませんが、あとあと修正すべき事柄(負債的なもの)が多くなってしまったり、スピードがどんどん下がって自分たちより強い人を入れなければ回らなくなってしまいます。(たいていそんな組織に魅力はないのでいい意味で変態的な人に巡り合わない限り苦悩の日々が続きます)短期的に効果があるからやったほうがいいとも言い切れませんし、長期的な施策だからといって必ずしも緊急性が低いとも限らないと思います。
ときには信頼を削って踏み込み、より本質的な施策を行うことで会社に貢献しデザインのチカラを証明していく必要があります。それらをなんとなくで終わらせないためにもだれがどれをやっているのか、どんなタスクがあるのかは把握して損はありません。
すみません、めちゃくちゃ前置きが長くなりました🙏
P/L(直接的に価値提供するものとそれを支える費用)
あなたは今 10,000 円もらえるのと数年後に 10,000 円 + 利子をもらえる仕事、どちらを優先的にやりたいでしょうか?仕事内容が同じなら早くもらえるほうがなんとなくいい気がしないでしょうか。一方でデザイナーは比較的「長期的で理想的な投資」を好みます。Vision 実現のため社会としてどうあるべきか?から考えたいからです。経営者やいわゆる”ビジネスサイド”との意見の不一致はこの辺の価値観の差にあるのかもしれません。
対 Revenue 投資
短期的にやるべき「フロー的な投資」、つまりやればお金になるものです。この辺は黙っていてもやろうとなるタスクを思い浮かべると良いでしょう。
明確な課題へのソリューション検討、最適化
UI やグラフィックなどの改善
A/Bテストを活用したデザインの最適化
リリース後のデータ分析に基づく確度の高いイシュー対応
LTV 向上施策および Time to Value の向上施策
ユーザーテスト形式での仮説ジャーニーの検査
各種テストとフィードバックの収集
ユーザビリティ向上
アクセシビリティ向上
マーケティング施策、コミュニケーション
バナー
LP
ライティング
スキル向上と分業化
チームメンバーのスキル向上のためのトレーニング
デザインタスクの適切な分業化による専門性の向上
対 Cost 投資
デザインする効率を上げるような投資項目です。
デザインライブラリの構築
再利用可能なデザインコンポーネントの開発
一貫性のあるデザインパターンの洗い出し
各種ドキュメンテーション
デザイン原則
ブランドガイドライン
ツールの選定、導入
プロトタイプツールやホワイトボードツールなど適切なデザインツール導入
タスク管理ツール
重複しているツールや運用整備
デザインツールやプロセスの効率化
よるプロセスの効率化
特定のデザイン作業の自動化
デザインオペレーションの改善
デザインと開発の連携強化
デザインプロセスの透明性と効率の向上
B/S(利益を生み出す基礎)
企業が価値を生み出せるプロダクトや組織、そして対になる今はお金にならないけど事情があって抱えているものなどです。
エンジニアがプロダクトを実際に作ってるのに対して、デザインはワイヤーフレームや Figma などを用いて組織のアイデアを統合する行為であることが多いのに加え、一般にいう技術的負債とデザイン的な負債は複雑に絡み合うためより長期よりの投資になりやすい気がします。
ディスカバリーフェーズ的なものの必要性を感じていたり、PdM がリサーチをデザイナーに頼まない限りはチャレンジしづらいですが短期的な投資で信頼が蓄積されればもしかすると中期的な投資もできるようになるかもしれません。
対 Assets 投資
雑にいうと企業の資産価値が中期的に高まるためのデザイン投資手段になると思います。専門性が高く非専門家でも「できる」と思われがちなデザインは言語化以上に早期に巻き込んでもらうための行動やその際に使える便利なものを作っていくことも必要なのかなと。
デザインシステムの構築
一貫性のあるデザイン言語やガイドライン作成
デザインリサーチ
市場ニーズやトレンドの反映
ユーザーのニーズや行動の理解のための調査
顧客フィードバックを元にしたサービス、プロダクトの改善
サービスブループリント等によるユーザーニーズのマッピング、差分だし
新機能や商品のデザイン、新規事業の検討および視覚化
デザインスプリントやワークショップを通じた新機能の設計、評価
価値検証型のプロトタイピング
デザインリーダーシップの強化
クリエイティブなリーダーポジションの強化
デザイン文化の醸成
チームメンバーへの継続的なトレーニングとスキル向上
レビューシステム構築
対 Debt 投資
プロダクトを作ると市場が求めるスピード感と本当にやるべきことにはギャップが生まれます。また組織を急速に拡大すればコミュニケーションあるいは構造的な歪みが出てきます。事業が持続的に成長するためにも根本的な改善もできるのかもしれません。
デザイン負債の解消
意図して(?)見送ったデザインの更新や正しいデザインパターンの導入
過去のデザインのレビューと更新
デザインプロセスの標準化と改善
メンテナンスされていない各種ドキュメンテーションの修正
デザインオペレーションの最適化
ワークフローの改善と効率化
デザインと開発のシームレスな連携のためのプロセス改善
StoryBook → Figma Lint 化や Variable の導入など
デザインプロセスの効率向上と品質改善のためのトレーニング
デザイン文化の確立と維持
デザインアプローチを組織に浸透させるためのプログラムの導入
チームコラボレーションとコミュニケーションの向上
G/P(長期的に効果が出る可能性が高いもの)
そもそもの市場が大きかったり競合のデザイン資産が強力であれば最初からやるようなタスクです。エンジニアの「作り続ける力」に対してデザイナーの場合は一言でいうと「熱狂を生み出す力」なのかもしれません。
これは私の思想が強く出ているので話 10% くらいで聞いて欲しいのですが、組織のアイデアを引き出すために透明性をあげ早期に失敗、学習できるのはデザインの強みの 1 つだと思っています。長期的視野で考える際はどれだけ頭が良い人でも不確実性を持ちながら決めていく必要があり、参画タイミングもよく後回しにされがちですが、そういったデザインこそ序盤にとても力を発揮することもあると思います。
余談ですがデザイナー採用がエンジニア採用より難しいと言われるのは人口が少ない以上に、ここに投資しないから共感する人と巡り会えないのかなと思ったり思わなかったり笑
対Accelarator投資
今までやれてこなかったデザインアプローチを導入することで、企業の成長を加速させ競争力が向上させられる可能性があります。
デザインリーダーシップと戦略のアライン
デザイン、デザイナーへ投資する背景整理
ビジョンとデザイン戦略の統合、発明
デザインがビジネス目標を達成するためのリーダーシップの発揮
インナーブランディング
意思決定ラインへのデザインへの啓蒙
ブランドガイドの内部展開
会社全体にデザインを普及させるトレーニングプログラムの開発
デザインプロセスにおける改善のための定期的な監査と調整
新しいデザインツールの導入
AIや機械学習を活用したデザイン支援ツールの導入
プロトタイピングとデザイン検証のための新しいテクノロジーの活用
デザインプロセス全体のデジタル化と効率化
挑戦的なデザインへの実験
累積的 UX の向上を目指したデザインの研究
ユーザーフィードバックに閉じない機能開発
インサイトの発掘と深掘り
対Reducer投資
中間成果物が多いデザイナーにとって会議や作業をしていない時間も貴重ですが単純に断る以外の方法で総生産量を増やす方法もあるかもしれません。
非デザイナーへのデザインスキル向上
最低基準を上げるためにデザインノウハウのインプット
デザインキットの配布と作成物のレビュー
Design Sprint などによるプロセスの平準化 & 他業種の巻き込み
デザインシステム、ワークフローのブラッシュアップ
デザインの自動化やコンポーネントの更新
デザインツールやプロセスにおける無駄を削減する技術投資
デザインがビジネス目標に与える影響を定量化するフレームワークの構築
チームメンバーがスムーズに連携できるワークフローの確立
デザインリサーチの効果的な統合と活用
対Power投資
デザインの場合、デザイナーを採用すればすぐに機能するとは限りません。大体の人にとってデザインは見栄え調整や色つけ作業なのでこのバイアスには折り合いをつけていく必要があります。また良いデザインを構成するものの中には新しい何かを生み出すために再解釈、再構成する力や美意識みたいなものもあると思います。場合によっては外部の力に頼ることも必要かもしれません。
デザイナー採用や評価の仕組み化
参画するメリットの洗い出し
採用者ペルソナ立案
採用チャネル整理
採用資料作成
評価制度の再構築やスキルマップの作成
外との連携
クリエイティブエージェンシーやデザインコンサルティングファームとの協力を通じたプロジェクトの拡大
コミュニティとの協力
デザイン業界の最新トレンドの把握、伝達
より専門的なメンバー採用や組織ブランデイングのための連携企画
各種イベントや定期的発信によるデザイン業界でのリーダーシップ構築
組織内でのデザインの価値向上
デザインのビジネスへの寄与を示すメトリクスの設定と追跡
デザインが組織戦略にどのように組み込まれるかの戦略的なアウトリーチ
最後に
ここまで読んでくださってありがとうございます。
役割上、経営者でもないデザイナーが P/L や B/S を考えることはごく稀です。しかしデザインの観点から企業や事業を俯瞰できれば、真に重要な課題に集中し、一貫性と持続性のある価値を生み出せるのかなと思っています。
そのためにも限りある時間を割いてくれた経営者と対話できるように企業の戦略を自分の経験と照らし合わせながら説明できるくらい腹落ちさせておきつつ、期待値調整をしながら企業や事業、会社の財産によって優先度を考えて価値を最大化させる点はまさにデザインだと思います。
「経営者(または上司)はデザインへの理解が足りない」と聞くこともありますが、反対にこちらが経営者に合わせる手段もあるかなと思っています。
(マイノリティとしての権利を要求したくなる気持ちもわかります。)
経営者や上司との対話や共感を通じて、短期と長期のバランスを取りながら本質的な変革をもたらしていけたら、文字通りデザイン経営と呼べるのかもしれません。
一応トップの画像をテンプレ化したので共有しておきます🤤
いらない気もしますが笑
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