喫茶養生記
もうずっと不眠に悩まされていた。不安から考えごとなどぐるぐるぐるぐる脳はいつでもフル稼働。ああ、今日は眠れるだろうか。毎日寝れるかどうか不安になってしまう。睡眠薬をのみ、ぷつんと意識が飛んで、いつのまにか朝になる。
朝だろうが昼だろうが、日中はとにかく眠くて眠くてしかたない。目をつむっていても瞼の奥は一向に暗くならない、ちかちかして、サザエさんのエンディングみたいにタマが踊りながら瞼を開けようとしてくる。
私は全然愉快じゃない。
そわそわ、きょろきょろ期
まず、ぼーっとする時間が少ない。昔は本が大好きだったのに、活字も目がちらばって読めない、追えない。雰囲気で読むことしかできなくなった。
幼少期から割と神経質な子だった。アル中と暴君な両親の顔色を伺い、マスコットのように振る舞い、ピエロの化粧をとったら石のような子。ピエロ時間があまりに長すぎた。
明日は何も事件が起こりませんように、普通というのは一番難しく、小さい社会が普通という文字を私の右頬に押し付けてくる。普通とは、とは、とは検索をしてもでてこない。
インスタント安心感
薬に頼ればどんどん依存していった。抗うつ剤も睡眠薬も年数を重ねるごとに体にしみついてくる。なにか水かなんかふくんだような重さ、皮膚の上からコーティングされたような不思議な感覚が体全体に広がっていく。
明らかにおかしい。
ここ2年くらいで心と体が違和感でいっぱいになった。
長年のごまかしが、もうきかなくなったようだ。
人間関係も良好、好きな仕事、大事な趣味。最近やっと、人間でいる為の土台ができてきた。今ならきっと大丈夫なはず。
取り憑かれたように両手で「落ち着く感覚」を集めて、頭の中の書類棚に大事に保管していた。ほっとする、無心になれる、そんな気持ちを収集し、結構ぱんぱんになってきた今、棚卸しの時期に差し掛かってきたのかもしれない。
収集癖が活かされた
だいぶ前置きが長くなってしまったが、とくに「落ち着く」が集められたのが喫茶店という存在。
人がいて温度がある。想像力を掻き立てられる空間。あたたかいものが喉をとおり、胃にじんわり沁みていく安心感。また来たいな、と思えることの尊さ。
めちゃくちゃ眠いけど、モーニングが食べたい。お店は夕方までだから頑張って起きよう。コーヒー飲んだら仕事やるぞ。看板猫ちゃんに会いたい。
自然と外の世界へと連れ出してくれる。
落ち着く収集がひと段落したタイミングで、私は減薬と断薬をはじめた。(もちろん先生と相談しながら)
東京という喫茶店パラダイスに身を置いて、熱海で物件撮影の仕事をしたあとに喫茶店に行き、友人に誘ってもらえたプロジェクトで地方へ行き、その土地の喫茶店を訪れてお話しを聞く。
安心でいっぱいな日々が送れている。
様々な巡り合わせで、本気と書いてマジな健康というのに出会えて、焦りから解放されてきた。
すぐに環境を変えることはとてもとても難しいし、チキンハートなので思い切ったこともできないタイプの私が、扉を開けたらちょうどいい異世界に「お邪魔します」ができる絶妙な存在感である喫茶店。
もし喫茶店にメールを送るなら、だいぶお世話になっております。と冒頭でご挨拶する。
まだ完全体な私ではないけど、きっともっと軽やかになれると思う。行きつけの喫茶店のはじの席で、静かに確信している。
今日もピザトーストとコーヒーが美味しかった。
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