漫画の第1話を読み返しまくった話
連載用のネームを描き始めるに当たって。
好きな漫画の、第1話に焦点を当てて読み返してみました。
なにせわたくし、基本が読み切りの人間です。
初めから連載を目指してお話を作った経験が少ない。
お話より何より、キャラクター作りが大切と聞きますが(私もそう思う!)
キャラクター作り、それがまさに苦手なので。
自分の好きな漫画たちを、
ただ読むことを楽しむだけではなくて、
「他の先生方はどんなふうに描かれているか」を、気をつけつつ
読んでみることにしました。
なかなかに驚きがあったので、記録しておきます。
以下は全て個人の感想です。
連載をどう作っていくかに迷ったマンガ描き(私個人)が
名作の1話目に注視して読み返してみた事から 受けた印象を書いています。
作品の評価とは 違った視点だということを明記しておきます。
そして。
ネタバレも、おそらく含んでしまっています。
『子供はわかってあげない』
ちなみにこの作品は、
好きで好きで、
読めば毎回必ず「ああ私も描きたい!」と思うので
これを読み返しても尚 描きたくないって思う時が来たら、漫画をやめようとまで思っている作品だ。
読者として完全にお話に入り込んで読んでいる時には、
作風の穏やかな印象から、その完璧さに気が付けないまま 読み進めてしまっていた。
が。
第1話として、
主人公の性格、メインキャラの特徴、生活、設定、サブキャラの味 等々
驚きの全部盛りだった。
そこにこの作者特有のとぼけたような可愛らしい味付けが加わる。
詰め込んだ感が全く無い。作品世界にするっと引き込まれる。
これを自分もやろうと思ったらおおごとだぞ、という印象。
テンポの良さとセリフのセンスがなければ成り立たない作風だと思う。
真似できない!
『LOVELESS』
助けて!
高河ゆん先生全部盛りである。
第1話の引力がハンパない。
この作者の作品はいつもそうだ、と思っているし
多くの人がそう思っているんじゃないかな。
絵、キャラ、セリフ、思わせぶり、萌え、色気、そして
独特かつダイナミックなテンポ。
1話目から読者を捕まえて離さないぞ、というオーラが…
漂うなんてもんじゃない。殴ってくる。
殴られた!
力技のレベルが違う。
みんな(みんな、って思っちゃうんだよ!)1話目から夢中だよ。
こんなの誰にも真似できないでしょ???
『乙嫁語り』
絵のことはもう言わない。
その素晴らしさは万人が知るところだから。(ですよね??)
このお話の、第1話のキモは。
(個人的には)、主人公ふたりの対面シーン。だと思う。
アミルさんの、「あら!」という言葉と表情。
ふたりの行く末に、ぱっと明るい光が当たる。うまい…
この後どんな困難が待ち受けていようとも、
読者は主人公の側にしっかりと立ち 読み支えることを約束させられる。
と、思う。
美しい絵も緻密な描写も、もちろん素晴らしい。
素晴らしいけれど、
この、愛されるキャラクターがあってこそ
強い引力が生み出されるのだと、ひしひしと感じた。
やはりキャラクターが大切…
『チェンソーマン』
あざとい。
いや褒め言葉です。だって目指してここまでやれるか?
主人公の置かれた境遇がひどすぎる。やりすぎだ、くらいに思う。
経済的に貧すると、教育的にも環境的にも困窮する。
それは「福祉が届かないってことはこういう事だぞ」と、殴ってくる。
あまりに辛い設定で、その上に悪魔というフィクションが加わるので
うっかり現実感を見失いそうになる。が、
デンジくんの境遇は、
じつはリアルすぎるあまりリアル味がない、「現実」であると思う。
パンにね、ジャムを塗るのが夢だっていうんですよ。
あざとすぎませんか???
ちなみに1話目からは外れるけれど、
この夢、「ごく普通の朝食」として叶えられるんだ。
そりゃあマキマさんに魂を捧げるね。
私だったらチチなんて揉みたいとも思えない。 神だよ。
でもデンジくんは望む。バカだからだ。
デンジくんはあまりめんどくさい言語化をしない。直情的だ。
良い。
悶々と悩んだり考えたりは、他のキャラクターにやらせとけ。
この物語の1話目は、掴みだ。
話数を重ねるごとに、デンジくんの形がわかってくる。
全てを盛り込むだけが1話目ではないんだな…
『ブルーピリオド』
コミックス派なので、1話目がどんなふう、という認識をしていなくて。
今回、あらためて1話目だけを意識して読んでみました。
おそらく、この作品の最初の大きなフックって、渋谷の絵を描く時の、
あの浮遊感だと思うんです。
(私は私の持つ感想がごく一般的なものだと思い込む悪癖があります)
あれ、あの、描く時の浮遊感とも没入感ともいうようなあの感じ。
ぞくぞくしたね。
主人公の要領の良さとか手堅さとか、そういうものが淡々と語られていく事に油断して読み進めていたところを、読者はぐっと掴まれるわけだ。
(と、私は感じるのですよ私は。)
体感では、2〜3話目くらいに出てくるのかな、と思っていたこのシーン、
1話目で出てくるんですよね。
驚きました。
あのシーン、アニメ版や実写版で観るよりも、漫画で読んだ時の方が
つよく静寂と浮遊感と共感を感じるのは、私だけかしら?
その後、「あ、通じた」と感じて泣いちゃう八虎くんの可愛さ。
その相手が常日頃つるんでる仲間ってところも良い。
これは「とても良い」1話目だと思いました。
つまり、私が「とても好き」ってことですね。
冒頭からの、ユカちゃんとのやり取りやら先輩の絵、先生との出会い等々…
正直、たどたどしさの残る描き方であると感じたんです。
えらそに言ってる事は、目をつぶって読み飛ばしてちょう。(ちょう
とても丁寧で、丁寧なところがテンポの悪さを生んでるというか。
でも、この、1話目最後の数ページ、これがほんとうに引力がすごい。
それまでのたどたどしさ(と、感じられる部分)も、むしろ計算で
八虎くんの不器用な真剣さに通じるよう作られているんじゃないかとすら思う。
「いちばん描きたいこと」が明確であるって事は、これほど強い。
とても強いんだな…!
『違国日記』
あらためて読み返してみて、
はじめて、驚愕の事実に気がつきました。
このお話、
1話目には主人公たちの境遇も、一緒に暮らすようになった経緯も、
なんにも描かれていないのだ。
ふたりの日常が、淡々とえがかれている。
驚愕です。(2度言う)
1話目、とは???
私はコミックス派なので、気にせず1巻分を一気に読んでしまっていた。
連載を追っていた人たちは、まっさらのこの第1話を どう読んだのだろう。
私はもうけしてその経験はできない。
まさに一期一会。(経験したかった!逃したね…)
連載を追いかけるって、意味のある大切なことなんだな。
そして、このお話の場合、この1話目がとても貴重だと思われる。
あの、辛い一連の出来事を、読む前にこの第1話が救ってくれてる。
ちなみに2話目も、1話目級かそれ以上の「掴み」を持つ。
たらい、の一文字の威力。うまい。
朝ちゃん、きみが何を考えていたか わかるよ。
そこを明文化しなかったのも心憎い。作者のセンス。
そのぶん槙緒ちゃんのキッパリとした表情が際立つ。
計算され尽くした1話目2話目だと思う。
ダブル1話目だと言ってよい。(我ながら意味不明…)
ここには挙げきらなかったけれど、
実際にはかなり、家じゅうをひっくり返して1話目ばかりを読みまくりました。
つい入り込んじゃって、結局読み耽って
ああ当初の目的を忘れている、イカンイカン、と
また1話目に戻る、を繰り返しました。(そんでまた読み耽ったりね…)
大好きな作品も大好きな1話目も、たくさんある。
逆に、
1話目が私にはどうにも合わず 読み続けるのを諦めた作品が
のちに大ヒット作となった事だって、1度となくある。
たまたま、今、書き残しておこうと思ったものだけを
無作為に選出したと思ってください。
で。
1話目ってどうあるべきなんだろうという疑問には
結局 明確な答えは出なかった。
こうあるべき、と言われる方向性は無いのかもしれない。
ただ、
キャラクターの重要性は、ひしひしと感じた。
キャラクターは、
うまく作る、のではなく、丁寧に掘り下げて 愛していくもの…
今はそんな気がしている。
私が連載を始める時は、それが終わるまで、
読者の誰よりも 自分がいちばん
キャラクターを愛し、物語を愛していようと思った。
だから大丈夫。
始めよう。
追加記録
2025/02/16
『ブルーピリオド』部分を追加。
思い出して、尚且つ、書く余裕があったら、また他の作品について
記述を追加はすると思います。
それでも『異国日記』を最後に持ってきてるのは、やっぱり、私にとってそれほど特別な感動(これが…1話目だったのね!という感動)だったから、です。