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「生き方」を示してくれた3冊の本と2人の取締役

「自分はどう生きていくのか、生きていきたいのか」

今月で38歳を迎えるほどの年齢になり、そういったことを考えることが増えてきました。これまでは「何をしたいか」「どういう状態でありたいか」に意識が行くことが多かったですが、今はそれも含めた「生き方」を考えています。

そんな中、直近で起きた大きなイベントと、3冊の本の内容が自分の中で掛け算となり、少し「生き方」のヒントが見えてきました。

今回はそんなことを綴っていきたいと思います。


一冊目:「生き方」(稲盛和夫)

この年始に稲盛和夫氏の「生き方」という本を読みました。

非常に素晴らしい本で、未読の方には強くお勧めしたいのですが、この本に書いてあることを私の言葉で一言に纏めると、

お天道様に恥ずかしくない人生を、"ど真剣"に生きなさい

と整理しました。「感謝」と「利他」の心を持ち、「原理原則」を守り、日々を本当に真剣に生きること、ただそれだけだと。

この本の終盤には、私が今後ずっと大切にしていきたいと思っているこんな言葉が載っています。

"運命を縦糸、因果応報の法則を横糸として、私たちの人生という布は織られているわけです"

つまり、「運命」は確かに存在する。存在するが、もう一つ、人生に大きな影響を与える力が「因果律」だと。自分の発言、自分の行動すべてがいつか何かしらの形で自分に戻ってくる、この大きな力が自分の人生を善きものにも悪しきものにもする、ということです。

でも、それがどのような形で戻ってくるかなんて、誰にも分からない。分からないのだから、「常に」「善い生き方」をしましょう、ということと理解しています。

「お天道様」=「自分」

私がまとめた「お天道様」という言葉は、この本には出てきません。稲盛さんは、あくまで「自分の定めた原理原則」が規範です。

では、なぜ私は敢えてそのような書き方をしたのかというと、日本人は「恥の文化」を持つと言われており、その概念に敢えて寄せてみたからです。

「恥の文化」とは、アメリカの文化人類学者ルース・ベネディクト氏が『菊と刀』で表現した、以下のような文化を指します。

他人の目や評価を気にしながら行動し、恥をかきたくないという意識が強いため、道徳の原動力として「世間様の目」が働く文化

つまり、日本人の大きな判断基準・行動基準の一つが「誰かが見ているかどうか」という要素と言われています。

なので、「自分の原理原則に従う」というよりも「お天道様が見てるよ」とする方が、より日本人に向いた考え方だと思ったからです。

でも、結論は同じです。どれだけ隠れて何かをやろうとしても、必ず「自分」は見ている。どんなに誤魔化しても、そこから逃げることは出来ません。

「自分」という人間を磨くことでしか、「善い人生」は送れない。だからこそ、稲盛氏も本書で「魂を磨け」と繰り返し仰っていると理解してます。

二冊目:「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」(山口周)

ここで出てくるのが、山口周氏の「世界のエリートは~~」です。

私はこの本は本質的には「生き方」と同じことを言っていると思いますが、アプローチが「なぜそういう"生き方"が出来ない社会になってしまうのか。それに対してどうすれば抗えるのか」を説いている本だと思っています。

この本を一言で纏めると

資本市場にいる限りは、強制的に「アカウンタビリティ」が求められ、自動的にサイエンスが優位になる。その強制力を認識し、「自分の美意識」を大切にしなさい

ということだと思っています。

住友商事、セルソースとと所謂「プライム上場企業」に勤めてきており、IRの責任者もやっていたのでとてもよく分かりますが、資本市場が「論理的に説明可能であること」を求める力は強大です。

ここを全ての起点としてしまうと、会社の全ての意思決定・行動基準が「説明可能かどうか」=「サイエンス」に蹂躙されてしまう。

そうなると、模倣可能な弱い会社になるだけでなく、「あれ、なんかおかしくない?」といったセンサーも鈍くなるので、不正も起きやすくなる。

フジテレビやビッグモーター、その他の大きな不正事案に共通する要素だと思っています。

中にいる人間しか、変えられない。美意識を持って他者に働きかける

この本で私が一番素敵だと思う一文がこちらです。

「システムを修正出来るのはシステムに適応している人だけ。(中略)最適化していることで、様々な便益を与えてくれるシステムを、その便益に拐かされずに、批判的に相対化する。これが今求められている知的態度」

「最適化~~相対化する」の所は、こんなきれいな日本語あんのか、という位に要点が詰まった美麗な文章です。

「美意識を持って、それを守る」ということは、「自分が属しているシステムに対して負っている責任を果たす」ことにも繋がるのだと理解しました。

「いじめの傍観者は加害者と同罪なのか」というよく議論される論点があり、この話をすると神学論争になってしまうので深入りしませんが、私の意見は「同罪ではないが、何かしらの罪はある」という意見です。

我々は生きていく以上、何かしらのシステムに属しています。「自分の美意識に合わないシステム」から逃げ続けていては、どうにもなりません。

下の1コマは「3月のライオン」で、ひなちゃんという女の子が他者のいじめに立ち向かったところ、そのいじめが自分に向いてきてしまった時の言葉ですが、まさにこれこそが「自分の美意識に従って行動した、勇者の言葉」だと思っています。

それを体現している二人のセルソース取締役

今私が働いているセルソースの取締役陣は本当に素晴らしい方ばかりなのですが、その中で、直近でまざまざと「生き方」を見せつけられた2人の取締役がいます。

一人目は藤沢久美さん。多数の企業や団体の社外取締役やアドバイザーを務めておられる方です(プロフィールはこちら

先日は当社取締役や執行陣が全体的に行きかけている方向性に対して、「それは完全におかしい。我々はこうあるべきだ」という意見を示し、その場の空気を大きく変えられました。

どんなに素晴らしい人たちでも、人が「集まる」と何かしらの「流れ」が生まれます。それに対して「いやいや」と声を上げ、そしてそれがなぜオカシイのかを明晰に述べられる姿を見て、「これこそが社外取締役であり、これこそが"使命に生きる"ということか」と感動させられました。

二人目は社長の澤田さん。日々一緒に仕事をしていますが、めちゃくちゃご自身の意見をドーン!と言う人です。

最初はそれに圧倒されるのですが、さらに驚くのは「人の話をめちゃくちゃちゃんと聞いて、議論して、納得したら自分の元々の意見に全く拘らない」こと。

ユニクロ、ファミリーマートなど、素晴らしい実績を残しておられるにもかかわらず、他者の意見をフラットに聞ける。私と30歳ほど年は違いますが、自分よりも柔軟性に富んでいる瞬間を最近も見せつけられ、「まだまだだな」と思いました。

そして、このお二人から、「自分の美意識を保つための必須要素」に気が付きました。

三冊目:「貞観政要: 世を革(あらた)めるのはリーダーのみにあらず」(出口治明)

中国史上最も安定した治世の一つを築いたといわれる、唐の第二代皇帝・李世民が、彼を補佐した重臣たちとの問答をもとに編纂された書籍が「貞観政要」です。

私は出口氏がまとめた方の書籍を読んだのですが、この本は究極的には以下のことだけを言っていると思っています。

耳が痛いフィードバックをしてくれる人を、誰よりも大切にせよ

中国には秦以来、皇帝に忠告し、意見を述べる諫官(かんかん)という職務がありますが、多くの諫官は皇帝の怒りを買い、殺されていました。

ですが、この李世民は魏徴という諫官を常に側に置き、彼からの進言・忠告を何よりも大切にしたことで、長年にわたる安定した治世を実現しています。(「李世民の娘の嫁入り支度が贅沢である」ことまで指摘し、李世民はそれも反省・修正しています)

人はどうやっても自分に甘くなる。美意識の歪みを正してくれるのがフィードバック。

どんな素晴らしい人でも、常に自分を客観視することも難しいですし、自分に甘い判断を意識下・無意識下に下してしまいます。

それを繰り返していると、気付いた時には「美意識」が自分本位なものになってしまい、歪んだ裸の王様が誕生します。

それを修正し、命潰えるその時まで「お天道様に恥ずかしくない生き方」をするためには、まさに魏徴のようなフィードバッカ―が必須なのではないでしょうか。

年を取るごとに、放っておくと自分にフィードバックしてくれる人が減っていきます。社会的地位が上がったりすれば尚更です。

上述の「サイエンス優位」の力学があるので、「年を取り、上場会社で偉くなる」ことは「サイエンスでしか物事を考えられない、歪んだ裸の王様になる」のが自然な流れなのです。

そうではなく、「自分の美意識を元にした、善い生き方をし続ける」ためには、出来る限りの力を尽くして「フィードバッカ―を大切にする」必要があると私は思います。

まとめ

今回は少し長くなったので、最後にまとめを書いてみたいと思います。

  1. 「因果律」は「運命」と同じくらいに大きな力を持つ

  2. だからこそ、自分のためにも社会のためにも「お天道様に恥ずかしくない日々」を送るとよい。

  3. そして、それは「自分」のみならず「システム」に対しても一部の責任を負っている。

  4. だが、資本主義にある限り、それを実現し続けることは非常に難しい。

  5. だからこそ、自分の耳に痛いフィードバックをしてくれる人を誰よりも大切にしなくてはならない。

私は普段から本を読むのが好きですが、それはあくまで「本の中」の出来事です。それを体現する方々に出会えたこと、そしてその方々と一緒に仕事が出来ていることは、本当に幸せなことだと思います。

素晴らしい取締役会の下で執行が出来ることを誇りに思い、事業活動を通じて今日も社会に貢献していきたいと思います。

細田 薫


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