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誕生日に抜けた話と『クララとお日さま』

 思い返せば、とても沈み込んだ二ヶ月を過ごしていた。自分ではその自覚はなかったけれど、抜けてみるとわたしは長いトンネルの中にいたのだと気がつく。昨日は誕生日で、その数日前からハッピーが溢れていた。体調がいいし、わたしが「こうなりたい」と思っていた思考ができるようになってきた。誕生日前に陰が極まるのは毎年のことなのに、それでもいつも忘れて落ち込んでいる。整体の先生に「誕生日は体の中心に中心がくる」と教えてもらった。リセットされゼロになって、また始まっていくエネルギーを感じる。女性は体のサイクルもそんな感じ。生理が終わってスッキリした一週間を過ごし、しばらくなんでもできそうに軽々気分でいる。生理前になると落ち込み、自分をせめて、小さなことにも傷つく。また生理がきて元のサイクルへ向かっていく。世界にも季節がある。春、夏、秋、冬と巡っていく。体は小さな宇宙で、1日は一年の縮小版だ。そんな感じで、ただその時が流れているだけなのだ。だから今のこの感覚もいつか変わっていく。それを知っていても、わたしは今をずっと覚えていたい。

 カズオイシグロの『クララとお日さま』を読んだ。2日で一気に読んでしまうくらい夢中になれる小説だった。カズオイシグロの作品にはいつも「違和感」がある。その最大の違和感は、彼が幼少期に日本からイギリスに渡って英語が母国語になったことによる言葉、文章の違和感だと思う。その言葉で書かれた小説は、読んでいる間ページの上に膜や靄がかかっているように感じる。その感覚がわたしは大好きだ。ショッキングな出来事や突飛な話がたくさん登場するのに、その膜によって静けさと深さがもたらされる。『忘れられた巨人』ではその膜が「霧」として実際に小説の中に登場していた。ネタバレになるのでほとんど語ることはできないけれど、長い読書を終えた後に残るのは「美しい」という感覚だった。AIや宗教、格差のある世界について、そして心と体の問題について描かれている。読み終わり物語から取り残されたわたしは、ずっと魂について考えている。

 「書かない」ということで浮き彫りにされるテーマやトピックがある。それがカズオイシグロの得意技だとわたしは思っている。描かれていないことに思いを馳せてしまう。氷山の一角のような物語がわたしをワクワクさせる。とても素敵な2024年の読書始めだ。

 今年はわたしもなにかを書きたいし、本を作りたい。お店をするなら本屋さんがいい。でも、好きな本を紹介することはブログでもできる。わたしは、わたしを表現できる場所があることがありがたい。そこから見知らぬ人に何かが届いていくことが嬉しい。

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