一冊の雑誌がくれた、自分を変えるきっかけ
それはなんてことのない、ささいな始まりだった。
ある日、一冊の雑誌を読んだ。今でも大切に取ってある、2020年12月号のHanako。サステナブルの特集号だ。
この頃、「サステナブル」「エシカル」という言葉をよく耳にするようになり気になってはいたものの、「地球にやさしいこと」は「自分には難しそう」「ひとりで取り組んでも、どうにもならないこと」と勝手に決めつけていた。
でも、その雑誌には肩ひじ張らず、楽しみながらサステナブルな暮らしを営む人たちが載っていた。
思っていたよりもっと気楽に、楽しみがらでいいのかもしれない。ページをめくるたびに、「楽しそう、やってみたい」と心が躍った。
そんなささいなきっかけで、何かひとつやってみようかな、とまずはじめにタンブラーを買った。
折りたためる、ベージュのカップ。早速カフェへ持って行った。
カップを持ってレジに並び、どう注文すればいいのかまごついていると、それを見た店員さんは「タンブラーのご利用ありがとうございます!」と笑顔でカップを受け取ってくれた。少し値引きもしてもらえた。
カフェでお気に入りのマイカップで飲みものが飲める、というのも新鮮で嬉しい。帰りにゴミを捨てる必要もなく、いつもより少し軽やかな気分で帰り道を歩いた。
思ったより、自分にできることは身近にあるのかもしれない。
それからというもの、地球にやさしい選択は私にたくさんの気づきや楽しさを与えてくれた。
例えば、植物性のケーキが想像以上に美味しかったこと。
使い捨てのラップがなくても、他のもので代用できること。
プラスチックの容器よりも、空き瓶やガラスを使った収納が心地よかったこと。
壊れたものは、すぐ捨てて買い替えるのではなく、直せばまだ使えて、愛着も湧くこと。
ひとつひとつ試していくうちに、地球にやさしい暮らしの心地よさを実感した。今までの思い込みが壊され、いつも新鮮な驚きや喜びがあった。
一番変わったのは、なにかを選ぶときに「これでいいや」から「これがいい」になったこと。
今まで安さや見た目でなんとなく選んでいたものを、ちゃんと物の背景を知って、納得して、素敵だなと心が動いて選べたとき、「ああ、私に足りなかったのはこういうことだったんだ」と思った。
今まで、仕事を頑張っても何の役立っているのか分からなかった自分。
忙しさに追われて、生活をないがしろにしてしまっていた自分。
なんとなくを積み重ねて、いつもちょっと自信が持てなかった自分。
ぜんぶ、適当に選んでしまっていたからなんだ。
でも、理由を持ってひとつずつ丁寧に選ぶことを繰り返していたら、選んだものを好きだなあと思えるようになった。
暮らしが楽しくなって、今の自分を少しだけ好きになれた。
もちろん、気候変動やどうぶつのこと、今まで知らなかったことを知ると無力感を感じたり、悲しくなったりすることもある。
「ひとりの小さな行動に、なんの意味があるの?」
「誰にも頼まれていないのに、なんでそんなにこだわるの?」
そう思って立ち止まることもあった。
それでも、最初に雑誌を読んだときのような、ポジティブな気持ちを大事にしようと思った。「楽しくて、心地よいことが、地球へのやさしさにつながる」と信じて。
ついには、自分の結婚式まで「地球にやさしいエシカルウェディング」をテーマにしてしまった。
食事や装飾、使うアイテムなど、細部までこだわって自分たちで準備した。
その結婚式の準備で生まれたのが、海に落ちているシーグラスや貝殻を使ってゲストと一緒につくる、オリジナルの結婚証明書だった。
地球にやさしくて、自分が本当に好きと思えるもの。それを選ぶだけじゃなくて、自分でとことん考えて、はじめてつくることができた瞬間だった。
完成した結婚証明書を見たときの達成感と喜びは、これからも忘れることはないと思う。
それからweb上に自分のお店をつくり、結婚証明書の販売を始めた。
あの時、世界にひとつしかなかったシーグラスの結婚証明書は、今では200組以上の方々に届いている。お客さんからお礼の連絡が届くたび、あたたかく幸せな気持ちになる。
「好きなことが仕事になった」とかそういうことじゃなくて、私の人生の軸をみつけた気がした。
たった一冊の雑誌を読んだことから始まった、日々の選択の積み重ね。それを続けているうちに、仕事になり、人生のテーマになった。
心から取り組みたいと思える、人生の軸を見つけられたのは幸運だったし、偶然だったと思う。
でも行動してみなければ、なにも始まらなかった。
途中でやめてしまったら、きっとここまでたどり着かなかった。
大きな選択よりも、ときには日々の小さな積み重ねが、なにかを大きく変えるきっかけになることがある。
選び続けてきてよかった。世界を動かす大きな選択はできなくても、自分や自分のまわりをやさしく動かす、小さな循環をつくりたい。