新規就農物語⑨〜野菜農家〜
追い風も向かい風も、風向きが変わった時がターニングポイントとなってきました。
前回の記事で、ついに「家なき子」となり全てを失った高松夫婦でした。
なんの身寄りもなく新潟に単身やってきたひかりです。頼れるのはパートナーの高松だけで、帰る家はもはやその家だけだったのに、その家がなくなってしまった不安はもう相当なものだったでしょう。
持っている農機具は小さな家庭用の管理機ひとつだけだったとは言え、鍬や鎌、その他小さい農具の諸々を保管する場所が必要なので、農家をするためには一軒家に住むか、アパート暮らしで他にビニールハウスなどを建てて道具を保管するスペースを作らなければなりません。
ビニールハウスを建てようとすれば100万円単位のお金が必要で、それがなかなかできなかったため、一軒家を探すことに目的を絞りました。
田舎には空き家がたくさんあります。「空き家バンク」なんて言葉もあるくらいで、田舎の空き家問題って結構深刻な問題なように言われていますよね?
でもその実情をお話しましょうね。
自分たちが暮らすこの地域にも空き家なんて山ほどあるんです。なので家を追われることとなった時には、すぐに見つかるだろうなんて簡単に思っていたのですが、ところがどっこい、なかなか家が決まらなかったんです。
理由はただひとつ。
「キレイにするのが面倒臭い」
これです。
人に家を貸すとなると、家の中のものを整理して外に出さなければいけないし、家も掃除をして貸せるような状態にしなければいけない。
それが面倒で誰も家を貸したがらなかったんです。
近所の空き家を見つけては、地域の人伝いに貸してくれるかを聞くということを何度も何度も繰り返したのですが、結果は全滅。
あぁ、機械は梨畑のどこかにビニールシートでもかけて実家から通うかと思った矢先に、梨畑から車で10分ほど言った秘境に、もうここしかない!という物件を見つけてしまったのです。
それが今私たちが暮らしているこの家?作業小屋?です。
初めて我が家に来る人たちはビックリしますよ。
「あ!ここに住んでらっしゃるんですか?」
えぇ、そうなんです。私たちはここに住んでいるのです。周りは四方畑に囲まれて、一番近くにいる哺乳類は牛。
ここを借りるときも本当に一苦労でした。まずはここの地主さん探しから始めます。地域の人にいろいろ聞きますが、どうやらここの持ち主は農家ではないらしいということがわかり、聞き取りを進めていくと、以前そこに務めていた農家に出会いました。
もう繋がりはそこしかなかったので、なんとか話をしてくれないかとお願いして家主さんに話が繋がり、その後は自分たちで直談判。
最初はもうその建物いらないから、買ってくれるなら。
というお話で貸すのはダメみたいな雰囲気だったのですが、自分たちが今置かれている状況や、将来のことをひかりと話をしていくに連れ、だんだんと家主さんも耳を傾けてくれるようになり、最終的にはめっちゃいい条件でこの家を貸してくれることになりました。
毎月35000円の家賃で、その家賃をこの建物の購入代金に充ててくれる。
言ってみれば、今車とかで流行っているリース契約みたいなものですね。もう本当に感謝しかない。そしてその場で鍵や書類などを全て渡してもらい、ようやく家が見つかったのです。
前の家を出て行ってくれないかと言われてから4ヶ月ほど経った頃でした。
家を出ていけと言われた時は向かい風。
この家を見つけた時は追い風。
この風向きが変わったことで私たちの農業のスタイルが一変しました。
今まで私たちが住んでいた地域は果樹栽培が盛んな地域だったのですが、今度引っ越した先は野菜の栽培が盛んな地域。
しかも私たちが暮らすその古屋には古いトラクターが眠っていて、家主さんにお願いして格安で譲ってもらうことになりました。
トラクターと管理機があれば野菜作れる!
ということで、梨と梅だけで生計を建てていた自分たちの農業経営の中に、野菜が本格的に加わることになるのです。
この時点での経営面積は、
梨50a、梅10a、ニラ5a、野菜(キャベツ、白菜、トウモロコシ)50a
と一気に野菜の面積が増えることになりました。
ということはどういうことか。
今までは果樹栽培に絞っていて年に一回の収入だったものが、野菜を複合的に経営に入れることで、収入のサイクルが早くなったのです。
しかしながら、今の状況でも夜明け前から日暮れ後までノンストップで働くという状況の中、急激に野菜を増やした自分たちがどうなっていくのか…。
それはまた今度お話致します。
今回のまとめ。
やっぱり助けてくれるのは地域の人。その人たちとのやりとりは絶対に無視できないどころか、その人たちの助けがなければ農業はできないと行ってもいいと思います。
あとは、田舎には空き家がたくさんあるという情報を鵜呑みにしすぎないこと。確かに空き家は山ほどあります。ありますが、「貸してくれる空き家」は本当に少ないです。
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