宇宙童話 記憶保管所 記録係⑤ 惑星アーザンヌの預かり石
惑星管理局に登録した翌日から読み解きのお手伝いが始まった。とても楽しいお仕事だった。
お手伝いをすると管理局から飲食券をもらえる。そしてラーンという特別なご褒美券も。この券は何でも買える特別なもの。
一回のお手伝いで五ラーンももらえるなんて驚きだった。
わたしはさっそく自分用の便り石を入れる木箱を木箱屋さんで買った。ちょっと赤みがかった光沢のある木箱。ふたには惑星と衛星の絵が彫られている。人目見て気にいった。
「母さん、これステキでしょ?十五ラーンだったの」
「まあ、すてきな木箱。便り石を入れるのね?」
「うん!わたしこのお手伝いとっても楽しい!」
「ナイルは便り石と相性がいいのね。母さんよりも読み解きが上手くなるんじゃないかしら?」
「母さんより?」
母さんはわたしをギュッと抱きしめてくれた。
「あなたはとても古い力を宿しているわ。そうじゃないと便り石は読み解けないのよ。誰かの役に立つお手伝いをナイルが楽しんでしてくれているのは母さんとても嬉しいわ」
「ありがとう。わたしは母さんみたいになりたい」
「ナイルはナイルでいいのよ。それが一番」
☆ ☆ ☆
わたしのお手伝いも日に日に増えてきた頃。
母さんは頻繁に惑星管理局に行くようになっていた。
「お昼には戻るからね」
「うん、今日は三つ便り石を頼まれているの」
「丁寧に、丁寧によ」
「はい!」
わたしは便り石の読み解きが楽しくて仕方なかった。こんなに楽しいとは思っていなかった。
それぞれの便り石はひんやりしていたり、暖かったり、つるつるしていたり、柔らかかったり。どこの工房で作られたかによって、便り石は全然違うものに感じた。
どの便り石も誰かが大切に写し込みをしたもの。
『丁寧に、丁寧に』
わたしはひとつひとつの便り石を出来るだけ丁寧に読み解きをするよう心がけた。
☆☆☆
「ナイルさんはこんな便り石でも読めますか?」
今日預かってきた便り石は、いつもよりも五倍くらいの重さのある便り石。そんなに大きくないのに重さがかなりある。
「これは昔、惑星間パイロットの方が他の惑星で見つけた便り石だそうで。大事に木箱に保管していたらしいのですが、最近、この便り石に写し込みされているという記録が小屋から発見されたらしいのです。
ご家族は何が写し込まれているか知りたいと……
しかし、管理局の者は誰も読み解きが出来ないのです。
ナイルさんにお願い出来ないでしょうか?」
わたしはリビングのテーブルに便り石を置くと深呼吸をしてゆっくり中指と親指でそっと石に触れた。
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滝が見える。
ここはどこだろう?
男の子……あっ、女の子もいる。
隣にいる大人の人はあの子たちのお父さんなのかしら?
『ここはわたしたちの住む場所からはとても離れたところにあるんだ。わたしたちの惑星にも、滝や川がある。とても美しい場所だよ』
『行ってみたいなぁ』
『わたしも!!』
『大きくなったら、ぜひ来てください。お待ちしていますよ』
わたしはパイロットのトト。
ここは、アーザンヌという惑星。非常に美しい景色が広がっています。水は豊かで、生命が住んでいます。
植物はここでは住民として登録され、話すものもいます。とても面白い。
オオナギという長細い葉をつけた植物は、このあたりの長老として、昔話をしてくれ……
……
わた……わ………
…… ……
あ……
…… …… … ……
また来たいと思っています』
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最後の方は何度繰り返しても読み解くことが出来なかった。
便り石を光にかざすとかけた部分があるのがわかる。指の感触もざらざらしていてひっつきにくい。
母さんが帰るまで、まだ時間がある。
わたしはその便り石を木箱に入れて、便り石工房に持っていくことにした。