宇宙童話 記憶保管局 記録係② 便り石工房
わたしが一番お気に入りの場所。
それは《便り石工房》
家の近くの川は便り石に適した石がたくさんとれる。それをこの工房で加工して、便り石として販売している。
ちょうど手の指に馴染むように滑らかに削られた便り石は、ここの工房のものが一番お気に入りだ。
母のおつかいで小さい頃からよく来ている場所。
「いらっしゃい、今日はひとり?」
「おつかいにきたの。便り石ひとつください!」
「はい、いつもありがとね。好きなもの選んで」
奥の工房からは石を滑らかにする音が聞こえる。石磨きの職人は惑星管理局からの認定がないと名乗れない。そして、技術も秘密にされている。
工房の奥さまはいつも優しくて大好きだ。
木の箱の中の一つ一つ区切られた空間に便り石が三十個ほど入っている。指馴染みのいい石を選ぶ。選び方は母から教わった。
「指に馴染むもの、吸い付くような感じのもの。それがあなたにぴったりな便り石。そうでないと、便りが相手に届かないから。石選びは大切よ」
わたしの住むこの惑星では、一番古い伝達方法。
もう1万年近く便り石を使っていると言われている。
「これください」
「ありがとう、よい便りを届けてね」
奥さまは帰りにクッキーをくださる。赤い木の実の入ったクッキー。それを食べながら家に帰る。楽しいおつかいだ。
☆ ☆ ☆
「いい便り石ね」
母は便り石を手の中に入れてすーっと深呼吸してにっこりしている。
「よかった!今日もクッキーもらったの。美味しかったぁ」
「良かったわね。今度行ったらお礼を言わなければいけないわ」
母は暖炉の上にある便り石を入れる木箱に大切にしまった。
「いつ便りを届けるの?」
「あさってよ。今晩はゆっくり寝かせて、明日の朝便りを入れるわ」
「見てていい?」
「いいわよ」
便りを入れるのは読み解きが出来るようになってからだと母から言われている。
わたしは早く母のように読み解きが出来るようになりたかった。
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