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佐々木典士著 『ぼくたちに、もうモノは必要ない。[増補版]』

いきなり全然違う人の話をするけれど、先週福岡に行って『途中でやめる』というファッションブランドを手がけている山下陽光さんに会ってきた。そして山下さんと話をしているなかで、改めて実感したことがある。

人が、物や思想や映像など誰かが手がけた何かに対して「あ、いいな!」と感じる理由は多くの場合、物体そのものの後ろに超絶なバックボーンがあるからなのだと思う。(当たり前だけれど。そして、そうじゃないこともたまにあるけど。「なんでこれ流行った?」みたいな。)

山下さんの服は、世界的メゾンや現代アートが醸す空気を絶妙にミックスして、日常風味ぎりぎりにカスタマイズしたような、飛び抜けたおしゃれさがあると私は思っていて、その見たことのないデザインの服がネットショップにアップされるたび、私は斬新さに単純に感動していた。

でも山下さんと話をしていたら、山下さんという人の興味や考えや嗜好はあらゆるジャンルに渡ってとても深く、それらの蓄積も新たな探究心も半端なく、私はそのごくごく片鱗を山下さんの服に見ているんだなあと改めて思った。まあ、当たり前のことなのだけれど。

そしてこういうことは、自分が生活をしてるなかで、はっと手を止めたり、なんだか気になったりして、のちに深く好きになったりするものに必ず付随しているんだなと再確認した。そこには、やはり裏打ちされたその人の技術や歴史や考えが深く鎮座しているのだ。私がこれまでインタビューさせていただいた方々もそう。

前置きが長くなったけれど、佐々木典士さんの『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(以下『ぼくモノ』)は、発売されてから3年のあいだに23ヵ国語に翻訳され、世界で累計40万部も売れている。私も何度も読み返し、自分の部屋からかなりの物を減らし、ミニマリストとまではいかないけれど、とても快適な暮らしができるようになった。

文庫になったこの[増補版]では、文章がすっきり読みやすくなっていたり、いろいろな改訂部分がある。それは佐々木さんのブログ記事に詳しく書いてあるので、ここを読んでいただければと思う。(「捨てる」を「手放す」という表現に変えていたのが、佐々木さん自身の結構大きな心情の変化な気がした。)

私は先週山下さんの話を聞いてからずっと、冒頭のようなことを考えていて、そんな時に読みかけていたこの本をめくりながらふと、私がこの本を繰り返し読んだり、その後佐々木さんのブログや思考が気になったりしたのは、単純にこの本にあるミニマリストのテクニックに助けられたとか、そういうことじゃないのでは、と思った。

「ミニマリスト」という言葉はよく聞くようになったし、片付け・断捨離・シンプルライフといった方法論的な本は、今でも多く出版されている。『ぼくモノ』はちょうどミニマリズムという言葉が日本でも知られ始めた頃(たぶん)に発売されて、その上で、本の最初に載っている、極限まで物を減らした部屋の写真が与えるインパクトが、とても大きかったんだろうなと思っていた。

また、その極限に達する過程が丁寧に描かれていたことで、読んだ人が物を減らすことに取り組みやすい。そうしてシンプルに生きることで得られる様々な利点に、深く共感したんだなと思っていたし、実際そうだと思う。

でも今、私がこの本を何度も読み、それから佐々木さんのブログも熱心に読むようになったり、イベントに行きたいと思ったり、2作目の本も読んだりしたのは、そこに直接は描かれていないバックボーンに惹かれていたからなんじゃないかと思った。ライフハック的なミニマリストの手法や、その結果である部屋や生き方に、佐々木さんのアートみたいなもを感じていたんじゃないかと思った。(ついさっき。)

ちょっと話が変わるのだけれど、私の家から車で15分くらいのところに、現代美術家の杉本博司さんが内装を手がけたレストランがある。このあいだ3年ぶりにそこへ行ったのだけれど、私はこの3年のあいだに、ミニマリズムやいろいろなアートに触れて、すこしだけ自分の感性も変化したような気がしていて、そうしたらその場所の見え方もすこし変わっていた。

その場所は、1ミリも隙なくぎりぎりまで引き算されたツールの、色やラインに、温かい食事が不思議と心地よく調和していた。その時にふと、佐々木さんのこの写真を思い出したのだ。

その場所の片鱗を、この写真に感じたのだ。なんかこれ、アートじゃんと。

物を持たない人、シンプルに暮らす人は今も増え続け、そういう人の生活を紹介するネット記事や雑誌やテレビ番組も、たくさん見るようになった。そこに登場する人は、厳選した家具や食器だけを持ち、皆総じてとてもおしゃれに暮らしている。

でも、私が佐々木さんの考え方や写真に特別心地よさを覚えるのは、そこに佐々木さん独自のアートを感じていたからなのでは?と、だからこの本は海外でも売れているのではないかと思ったのだ。

(だから、頑張って英語圏の人の『ぼくモノ』の感想をいくつか読んでみたのだけれど、私が思っていることに辿り着けないうちに挫折してしまった。でもそう言っている人はたぶんいると思う。)

ふと思ったことをつらつら書いてみたけれど、べつにそんなことを感じなくても、人生に新しい観点を持たせてくれる面白い本だと思う。まだ読んでいない方にはぜひおすすめしたい。文庫になって持ち運びやすくなったしね。

#佐々木典士 #ぼくモノ #ぼくたちにもうモノは必要ない #ミニマリズム #ミニマリスト

中部国際空港の本屋にもありました(*´∀`*)

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ナカヤママリコ
いろいろな方にインタビューをして、それをフリーマガジンにまとめて自費で発行しています。サポートをいただけたら、次回の取材とマガジン作成の費用に使わせていただきます。