ひかるの読書感想文①『日本女子サッカーが世界と互角に戦える本当の理由』(著:松原渓)
先日、とあるきっかけから読書活動をはじめることにした。
小学生のころは、休み時間の度に図書室に入り浸る「本の虫」だった私だが、中学校進学後からめっきり読まなくなった。
4歳のころから続けていたクラシックバレエを家庭の事情で辞めたのも、中学1年生の途中。
思えば、負けず嫌いな性格、1番になりたいという気持ちを心の奥にしまい、自分のやりたいことを見失い「情熱をもってひたむきに取り組むこと」をやめてしまったのはこの頃だったかもしれない。
そんな当時の私に読んでごらんとお勧めしたくなる本が、今回の読書活動の1冊目に選んだこの本だ。
2011年7月。女子日本代表チーム「なでしこジャパン」がFIFAワールドカップで優勝した。
日本女子サッカー史上初の世界制覇。歴史的快挙。その背景や強さの核を伝える1冊である。
著者は、スポーツライターとして活動している松原渓さん。
小学校から6年間サッカーをプレーしていた経験を持ち、現在も女子サッカーを中心にライター活動を続けている。
この本の序章では著者が自己紹介を兼ね、自身のプレイヤー目線で見てきた景色と経験。そして中学進学のタイミングで松原さんがサッカーを辞めるきっかけになった出来事と環境について記されている。
その後、女子サッカーの育成組織の名門である日テレ・東京ヴェルディメニーナ(当時 読売・メニーナ)のセレクションに落選し、中学進学を機にサッカーを辞めてしまった松原さん。
そんな自分の過去の挫折と対比をしながら、1章ではなでしこの優勝メンバーたち、2章では彼女たちを育て活かし見守ってきた各年代の監督陣たちのインタビューを記し、「世界と互角に戦えた理由」をまとめている。
私はこの本から、
【個】としての強みを見つけ、それを磨き続けること。
それからチームとして勝つために自分ができることを考え、実行すること。
の重要さを学んだ。
【One for All,All for One 】
という言葉があるが、自分がやりたいプレー、自分を活かせるプレー、目の前の相手に「自分はこう勝てる」という実力や自信を持っていない人間が、「みんな」のことを考えて「みんな」で勝つプレーすることはできない。
そんなことを教えてくれる本だ。
中学生か高校生の時にこの本に出会えていたら、25歳の今、ここまで自分の人生に迷走することは無かったのではないか。過去に戻れるなら、ぜひ2012年の自分にこの本を推薦したい。
それでも、遅ればせながら「自分」が磨きたいと思えるものは何か、何が好きで、やりたいことはなにかを、今一度考えているこのタイミングでこの本を読めたことは大きいし、同じように自分の人生に悩んでいる人がいたらぜひとも読んでみてほしい。
このように、いち個人の生き方としてはとてもためになる本であったのだが、女子サッカー論として読み進めるとショッキングな内容となっていることも併せてご紹介したい。
選手や育成陣へのインタビューの合間に、コラムとして出版当初の世界の女子サッカーの現状について記してくれているのだが、
と、女子サッカー大国のアメリカでさえプロリーグを過去に2度解体した出来事を知り、WEリーグを開幕したばかりの自国に不安を感じるし、
出版当初(2012年)日本と同じような女子サッカーの立ち位置とと競技人口として、
とスペインが挙げられれば、「この間カンプノウに9万人が集まったとニュースになっていたのは、10年の間に何があったんだ」と思わされる。
そして何より残念な気持ちになったのはこの本を通して当時のなでしこメンバーが未来に一番伝えたかったはずの、
情熱を持ち、幼少期からひたむきに個を伸ばし続けることの大切さ
それを支える育成・プレー環境の重要性
が、ほとんど今に伝わっていないと感じられることだ。
著書の松原さんについて調べていると、
昨年の夏、東京五輪で女子日本代表がベスト8で敗退した際に執筆した記事を見つけた。
その記事の中で、ベスト8敗退の結果を受けたのち、近賀ゆかり選手(W杯優勝メンバー)が投稿したInstagramの文章を引用している。
未来のなでしこに向けて発信されるメッセージの第一声が、10年前からなにも変わっていないのだ。
強いチームをつくるためには、強い個があってこそ。
10年もの月日があれば、その考えも当たり前のものとして日本の女子サッカーの根に浸透し、そのうえでさらにより強いチームを作るために何ができるか(戦術等)を考え、実行していくフェーズのはずではないのだろうか。当時のなでしこジャパンが伝え続けてくれていることさえも、現状思うように実現できていないということなのか。
「新しく女子のプロサッカーリーグが開幕したらしい」
と、昨年から足を踏み入れてみたものの、日本の女子サッカーが抱える問題は想像以上に大きくそして根深そうだ。もしも当時から女子サッカーを観に行っていたら、「今の女子サッカーはつまらない」「レベルが低い」と批判する人間になっていただろうか。
だけどもう、過去の10年を悔やんでも仕方がない。競技レベルや育成の問題点ばかりについて考えたところで代わりにスーパープレーができるわけでも、金の卵をポコポコ生むスーパー指導者になれるわけでもない。
そして何より今私がファンとして「素敵だな」「また応援したいな」と思うのは、2022年の女子サッカーだ。
先ほどの近賀ゆかり選手のInstagramの投稿文はこう続く。
ゴールは日本女子サッカーを〝日本のたくさんの人に応援したくなるスポーツにすること〟
厚かましいかもしれないけれど、グループの一員としてこのゴールを叶えるために、今の女子サッカーが持つ魅力を、ファン・サポーター目線で正しく的確に言葉にして伝える力を身につけたい。
これを私自身の【個の強さ】としてこれから磨いていくことを、ここに宣言したいと思います。