映画 「ドライヴ」(2012年公開)
個人的所感によるあらすじ
天才的なドライビングテクニックを持つ寡黙な“ドライバー”は、昼は映画のカースタントマン、夜は強盗の逃走を請け負う運転手というふたつの顔を持っていた。家族も友人もいない孤独な彼は、ある晩、同じアパートに暮らすアイリーンと偶然エレベーターで乗り合わせ、一目で恋に落ちる。不器用ながらも次第に距離を縮めていくふたりだったが、ある日、アイリーンの夫スタンダードが服役を終え戻ってくる。
一度は身を引く決心をするドライバーだったが、服役中の用心棒代として多額の借金を負い、妻子の命を盾に強盗を強要されたスタンダードに助けを求められ、アイリーンのために無償で彼のアシストを引き受ける。しかし計画当日、首尾よく進んだかに見えた計画は、逃走寸前で窮地に陥り、彼らは何者かによって嵌められたことを知る・・・・。
ちょっとネタバレな感想
スタイリッシュな映像。
研ぎ澄まされた演出と、センスのよい音楽。
そして説明的な会話に頼らない、可能な限りそぎ落とされたセリフ。
アクションや暴力シーンは激しく、賛否両論があるようだが、
その暴力でさえどこか冷たい静けさにも満ちていて、目線や会話の間で彼らの過去の物語まで想像させるスマートさには唸ってしまう。
「ラ・ラ・ランド」で人気を不動のものにしたライアン・ゴズリングが、とにかく抜群に格好いい。寡黙でミステリアスで狂気をも感じさせながらも、けしてそれだけでない温かみを持った優しい男。
彼の出演作の選び方は、一見方向性がないように見えるのに的確でいつも相当な頭の良さを感じるのだが、この作品の彼も非常に魅力的で、その選択眼の良さが遺憾なく発揮されていると思う。
個人的にも彼のファンだが、好き嫌い抜きにして、彼の出演作で一番心に残っているのがこの作品だ。
クールなバイオレンス、そしてフィルム・ノワールの空気に満ちた秀作。
全ての人に薦められるとは言わないが、見終わった後でバーでグラスを傾けたなるような、大人のための一本だと思う。
本当に彼は彼女を守れたのだろうか。
なにもわからないまま、想いを引き剥がすようにただ置き去りにされて。
スタンダードのような(たぶん)調子がよくけれども弱さも隠さない男なら
「一緒に逃げてくれ」と懇願したかもしれない。
知りたくないことまで教えられるかもしれない。
怖いんだと泣きさえするかもしれない。
ある意味情けないことかもしれないが、もしかして本当は、その方が救われたりしないだろうか。
男の誠意には、むしろ女は傷つくことの方が多いのではないか、と思う。
それが自分への真摯な想いからだとしても、そこに自分の想いが入り込む隙間などまずないのだから。
刺さった棘は、愛も恨みも、だから一生忘れられない。
ある意味地獄だ。
むしろ静か過ぎるほどのラストシーンが心に深く残る。
彼の行き先も、彼女の行方も。救われなさにも。