映画「春が来れば」(2006年公開)
個人的所感によるあらすじ
トランペッターのヒョヌの夢は、交響楽団に入って名声を得ること。だが、その夢も実現しないまま、気がつけば中年の年齢になり、愛する人を幸せにする自信もない。いつの間にか不機嫌で頑なな人間になっていたヒョヌ。挫折感を味わい心が荒んだ彼は、江原道の小さな炭鉱町にあるトゲ中学校の臨時教員としてブラスバンドを指導することに。トゲ中学の吹奏楽部は、かつては全国大会で入賞したこともあったが、今は見る影もなく、今度の全国吹奏楽コンクールで入賞しなければ、廃部になってしまう。
おばあさんと二人暮らしのトランペットのジェイル。ケニー・Gに憧れるませたサックスのヨンソク。意欲もなくやって来たヒョヌだが、次第に子供たちと心を通わせ、若い薬剤師スヨンとも打ち解けていく。そして季節は巡り、春が来ればコンクールの日が、そしてヒョヌがこの町を去る日がやってくる。
ちょっとネタバレな感想
非常に地味だけど、しみじみしたストーリー運びがじんわり魅せる不思議な映画。正直、主人公を含め出演者の状況や周りの説明が不十分で、いまいちはっきりと分からないままにストーリーは進んでいく。
たぶん身近だけれどそんなに仲がいいわけでもない、例えていえば毎日会う学校のクラスメートとか会社の同僚を見ている感じといえばいいだろうか。なにかあったみたいなんだけど、細かいことは分からない。根堀葉堀聞く程の関係でもないから、きっとそうなんだろうなと推測するだけ、手を出しかねてこまねいているみたいな、そんなもどかしい雰囲気がどこかにある。
けれどもそんな消化不良感がかえってリアルな空気を醸しだしているのだから面白いものだ。たぶん現実でも知っていることなんて、実はこんな程度なものなのかもしれない。
いいことも悪いことも色々な出来事が積み重なって、まるで細い雪溶け水が大きな流れになっていくように、止まっていた心もやがれ動き出す。
自分を哀れむのに精一杯だったヒョヌが、人の為に走り回って悩み泣き苦しむ。それが見ていてとてもすがすがしい。
天涯孤独になったジェイルになにもできないことを嘆き、ヒョヌは思わず母親に電話をかけ「もう一度やり直したい」と本音を吐く。その時の母親はこう答える。
「これからが始まりなのに何をやり直すの?」
その人がそう願えば、新しい道はいつだって開けている。いつからでも始まる人生がある。そう、冬が終わり、桜が咲く春が来るように。