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映画 「幸福な食卓」(2007年公開)

個人的所感によるあらすじ

「父さんは、今日で父さんを辞めようと思う」。始業式の朝、突然「父さん」が口にした意外な一言。佐和子の中学校生活最後の1年はこうして始まった。三年前に父が自殺未遂を起こしてから微妙に変化した家族。母は家を出て、成績優秀だった兄は大学進学を拒否し農業に従事している。けれども全員揃って食べる朝食だけは変わることはない。
新学期が始まり、佐和子は転校生、大浦勉学と親しくなる。志望校を目指すため、佐和子と友達になりたいと言う大浦。変わり者だが明るく男らしい大浦に影響を受け、佐和子の日常も少しずつ形を変えていく。そんな淡々としながらも平凡な生活の最中、とある事故が起こり・・・・。

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ちょっとネタバレな感想

「父さん」であることをやめて浪人生になってしまった父親、家を出て暮らしているのにたまに帰ってきては家事にいそしみ「母さん」をまだ捨てない母親、兄は天才児と言われながら大学受験をやめて「学生」を放棄し、女性に惚れっぽく、家では鶏を飼う。そんな家族を淡々と受け入れ、地に足をつけた生活を送る佐和子。

考えれば異常な家族なのに、誰もが妙に幸せそうなのは何故だろう。


佐和子の家族だけでなく、出演者の誰もが魅力的な映画だ。主人公、佐和子を演じた北乃きいちゃんもいい。食事したり、たわいもないことで笑ったりすねたり、表情豊かとは言わないが雄弁に物語をつないでいく。
えぐみがあったり突出したりしている人間はひとりも出てこないのに、誰もが印象的で個性的なのは役者の質か、監督の腕か。

観る前にはお涙頂戴の作品かと思っていたが、どっこい、あくまで淡々とストーリーは流れていく。佐和子と勉学が織りなす“初々しい交際”も自然で素敵で嬉しくなるほど。
だからこそ勉学が事故で亡くなった後、泣き叫ばない佐和子の悲しみがじんわりとしみてくる。その彼女に手を差し伸べようと集まる家族。そして残された勉学の家族。
二つの家族の再生の物語を予感させるラストも柔らかい余韻を残す。哀しい物語でもあるのに、見終わった後味もいい。

「家族は作るのは大変だけど、その分めったになくならないから。努力しなくてもそう簡単に切れたりはしない。だから安心して甘えたらいいと思う。」

お父さんが「お父さん」を辞めたかったのはきっと「お父さんでいなければならない」という思いがいつしか重くのしかかっていたからではないかと思う。だから「お父さん」を辞めたお父さんも「優等生」をやめたお兄ちゃんも「いいお母さん」を辞めたお母さんも、異常ではあっても幸せだったのだろう。
けれども努力をしなくても「お父さん」は「お父さん」「お母さん」は「お母さん」、そう、なろうとしなくてもそこにいるだけでいいのだ。

”must(ねばならない)”ではなく”be(そうあること)”でいい。

それに気が付いた彼らはきっと見事に家族を再生していくだろう。
もしかしたら十数年後に佐和子と勉学が作り上げたかも知れない「幸福な食卓」を持った幸せな家族に。

私もそんな風に誰かを守りたい。
そして守られたい、と思う。

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