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蕎麦とナチュラルワイン

ちょっと上品な立ち食い蕎麦(そば)を味わいながら、おいしいナチュラルワインを楽しむ――。こんな異質のペアリングが楽しめる店が、9月10日、東京の渋谷駅近くにオープンします。

東京のナチュラルワイン専門店「VIRTUS(ウィルトス)」と京都の立ち食い蕎麦店「SUBA(すば)」のコラボ店で、名前は「VS(ブイエス)」。1階が立ち食い蕎麦の「SUBA VS」、店舗内の階段を上がった2階が立ち飲みスペースも備えたワインショップ「VIRTUS VS」となっています。

1階で蕎麦を注文し、2階に上がってワインを飲みながら食べてもよし。逆に2階で買ったワインを1階で飲みながら蕎麦を食べてもOK。もちろん、下の階で蕎麦を食べるだけでも、上の階でワインを飲むだけでも、まったく問題ありません。

SUBA VS

蕎麦のメニューは「名物!肉そば温泉玉子」「島根県産宍道湖しじみと青マンダリンオイル」「酢橘無花果 すだちいちじく」など、中身もネーミングもちょっと変わったおしゃれ系。そばつゆは、利尻昆布や本ガツオ、サバ、ウルメイワシなど上質な素材で引いた関西風の出汁(だし)を使っているので、エレガントな味わいです。

2階のワインセラーには、ナチュラルワインを中心に常時1000種類を超える世界のワインがストックされ、立ち飲みスペースでは最大48種類のワインをワインディスペンサーから自分で注いで飲むことができます。

ついでに言うと、ディスペンサーの各ボタンのところにはQRコードが張ってあり、スマホで読み取るとワインの説明がコンパクトに出てきます。これはとても便利だと個人的には思いました。

VIRTUS VS

ところで、ナチュラルワインとはどんなワインなのでしょうか。

ナチュラルワインは一般に、有機農法など合成農薬も化学肥料も使わない環境にやさしい農法で栽培したブドウを、ブドウの果皮に付着した天然酵母などで自然発酵させたワインを指します。さらに、醸造過程で添加物を一切加えず、遠心分離機など工業的な手法も使わず、体に負担をかけるとされる酸化防止剤は使用しないか、使用したとしてもごく微量にとどめているのが特徴です。

こうして造られたナチュラルワインは味わいが個性的なものが多く、飲んだ印象はよく「ジュースのようにおいしい」と評されます。ちょっと飲みすぎたと思っても、翌朝「体が軽い」という話もよく聞きます。

ナチュラルワインは今世紀に入った頃から世界的に人気が広がり、日本でも愛好家が急増。特にどの国でも20代から30代の比較的若い層に大変な人気で、ウィルトスの代表取締役、中尾有さんによると、渋谷を選んだ理由のひとつも、若い人が集う渋谷は愛好家が多いと考えられるからだそうです。

日本でも人気があるイタリアのナチュラルワインの生産者「ラディコン」のブドウ畑

しかし、蕎麦とナチュラルワインってそもそも合うのでしょうか。そう質問すると、中尾さんはこう解説しました。

「関西風の蕎麦の出汁は、口当たりが柔らかい。それとナチュラルワインの柔らかいテクスチャーが非常によくマッチします。同じ出汁でも、関東風の出汁は濃すぎて、ナチュラルワインにはちょっと合わないかな」

ついでに、蕎麦とナチュラルワインのペアリングという突飛な発想はどこから来たのか聞きました。

答えは、「偶然、蕎麦を食べてナチュラルワインを飲んだらおいしかったから」と、とてもシンプル。おいしさに理屈は要らないようです。

突飛な発想と言いましたが、実は、蕎麦とお酒(この場合、ワインではなく日本酒ですが)は昔から切っても切れない縁で結ばれています。

宝酒造が運営する情報サイト「酒噺(さかばなし)」にはこんな話が出ています。

お酒好きであれば誰もが一度はやってみたいと感じる「蕎麦屋飲み」。そもそも、蕎麦屋でお酒を飲む習慣は江戸時代に始まったものと言われています。当時は、現在でいう「居酒屋」がなく、お酒とともに多彩なメニューが楽しめる蕎麦屋は庶民の憩いの場とされていました。それから時を経て、さまざまな形態の飲食店が増え、外でお酒を飲むシチューエーションが多彩になった現在でも「蕎麦屋飲み」は、お酒好きの心をとらえ続けています。

酒噺(https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/eqwr8

ワインも日本酒と同じ醸造酒。しかもナチュラルワインの中には日本酒が持つ「旨み」と似た味わいのニュアンスを感じるものもあります。日本の伝統的な食文化が今の時代に、しかも若者の間で少し形を変えて広がるとすれば、とても興味深い現象ですね。

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