#13 地方都市の新たな魅力に出会う ブロンプトンとローカル線の旅/小江戸川越から春爛漫の飯能•高麗郷へ①
今回は、今年(2023年)早春の、小江戸•川越への旅のことを書いていこうと思います。
「ローカル線」は登場しませんし、「地方都市」かというのも微妙なところ。さらには、川越は長年暮らしていた街でもあります。ですが、とても穏やかな良き旅でした。
◆ わたしの愛してやまない町
1990~91年の2年間、わたしは川越郊外にあった勤務先の独身寮に住んでいました。その後、東北赴任から戻った2000年に再び川越にアパートを借り、程なく本川越駅近くにマンションを購入。
国内外の転勤も多かったので、住んだ期間は通算で15年ほど。もっとも転勤暮らしの最中も、自宅は親戚の子に貸したり空き家のままにしたりしており、川越は東京へ来たら必ず帰る場所でした。
2020年の夏。転職して京都へ移住するにあたり、自宅は賃貸することにしました。それ以降、幸いほぼ途切れることなく家賃収入をもたらしてくれて、随分と家計が助かっているのだけれど、他方、川越には帰る場所がなくなってしまいました。
それでも、何か用があって上京した時は、いつも一日を割いて川越へ足を伸ばし、かつての週末のように街を歩き、川越七福神をはじめ点在する寺社で手を合わせ、四季の移ろいを感じています。
そんなことをしている自分が、何だか京都に馴染めず逃げ帰ってきているように感じられ、後ろめたくなったこともありました。しかし、川越はわたしの愛してやまない町。今でも固定資産税を納めているんだし(←関係ないか)、帰省先だと思って来たいときに来て、この町での時間を楽しめばいいのだと思っています。
さて、3月30日(2023年)、木曜の夜。経費節減のためマイルを使い、羽田空港へ着いたところ、予定していた所沢行きのバスが既に満席。かつては21時30分発の川越行きもあったのですが、コロナ禍以降のドライバー不足のあおりか、運行を休止しています。
バスがあかんとなると、新宿か池袋へ出て、鉄道で川越を目指すしかありません。新宿も池袋も、道路が混んでいないこの時刻ならバスの方が早いのですが、思考停止状態で京急に乗ってしまいました。
品川経由で高田馬場へ。高田馬場からは、本川越行きの特急「小江戸」の最終便に乗ります。首都圏で、終電間際の混雑する列車に自転車を持ち込むことは、小心者としては避けたい。全席指定の有料特急なら、白眼視されず済みます。
本川越に着いたのは0時17分。京都市内の職場を出てから約6時間に及ぶ移動でした。もはや風呂に入るのも面倒で、歯を磨いて着替え、安いビジネスホテルの小さなベッドに横になりました。
🔲 初日 飯能〜高麗郷ポタリング
翌朝、空は雲が多いものの薄日が差し、青空ものぞいていました。
今日の予定は、入間川サイクリングロードを飯能まで走り、日和田山の山懐に広がる高麗の里へ。そして日高・狭山の里山を走って川越へ戻るルート。これまでに何十回走ったかわからない道ですが、何度走っても飽きることがありません。
◆ 入間川サイクリングロード
ホテルの前で準備を整え、ブロンプトンで走り出します。
金曜の朝。多くの人が急ぎ足で、新富町を北へ向かっていきます。市役所周辺や、蔵の町での仕事に向かうのでしょうか。この風景に、我が家へ帰って来たような安堵感を覚えました。
川越市駅の脇で東武東上線の踏切を渡り、アパートと畑が混在する中を走り、郵便局の脇をかすめ、水上公園の手前で右折。初雁橋の上に出ると、春の武蔵野の眺望が広がりました。堤防は菜の花に覆われ、堤防下の桜の木が彩りを添えています。ここでは、桜が主役を譲って、引き立て役に徹しているかのよう。
散り始めた花びらがサイクリングロード上に積もっています。薄緑の若葉も萌え始め、入間川の堤防はパステルカラーに染まっていました。
菜の花の中を走り、安比奈親水公園へ到着。広い芝生のグラウンドは、週末はサッカーや野球の歓声が満ちる場所。今日はゲートボールに興じるシニアで一杯。
出発した時は肌寒く、ウィンドブレーカーを羽織ろうかと思ったくらいなのに、早くも汗ばんできました。風もほとんどなく、外で体を動かすには最高の日です。
その少し先には、桜並木が続きます。
ワオ!今年は最高のタイミングだ。
去年もこの季節に来たのですが、ようやく蕾が開きかけたところだったのです。
終点が見えないほどの桜花のトンネルが続きます。平日なので自転車はほとんどおらず、散歩やランニングの人影も多くはありません。
プロンプトンを止めて写真を撮っていると、背後から賑やかな声。おばあちゃんと孫たちがパターゴルフへ向かっていきました。春休みで親戚がみな集まったのでしょうか。いい風景。
並木を抜けて、河川敷をしばらく走り、狭山市の上広瀬あたりに来ると、再び一面に桜が広がります。河川敷中央公園というところで、その一隅にできたスタバが話題になっています。
立ち寄ってみようかとも思っていましたが、スタバはスタバだろう、と思い、サイクリングロードに面した大きな木のベンチに腰を下ろしました。
座るもよし、寝そべるもよしの気持ち良さそうなベンチなんだけど、ついつい仕事用のスマホを出して、メールチェックしてしまいます。返信を要するものが何通か。中には、見なきゃ良かった、と後悔してしまうようなメールも。
おかげで頭の中から仕事のことが離れなくなってしまい、何だか気分悪いのですが、対岸にはWild Oneの大きな看板とか、仏子の武蔵野音大とか、懐かしい建物が見えています。もう少しこの時間が続いて欲しいと思いながらペダルを回すうち、サイクリングロードの終点に着きました。
◆ 飯能
ここからは一般道を走りますが、交通量の多い幹線道路はなるべく避けて、旧道を辿ります。左手には家並みの間から入間川の川面が見えています。
やがて西武池袋線の元加治駅。もう30年も前ですが、川越の寮を出た後、この近くに住んでいたことがあります。茶畑の中に一戸建てやアパートが無秩序に立つ長閑なエリアでした。
その雰囲気は今でもあまり変わっていません。多少は新しい道が整備されたりしているけれど、住んでいたマンションまでの路地のような細い道を、今もそのまま辿ることができました。当時暮らしていた建物は今も残っていましたが、まもなく取り壊しになるのか、住民は誰もいない様子。そろそろ築50年かと思われ、耐用年数に達したのでしょうか。ここの最上階からは秩父の山々や狭山丘陵の見晴らしが素晴らしく、隣のご家族もとても良い方たちで、今まで住んだ中でもかなり好きな物件でした。よき思い出が消えていくようで、残念です。
近くに小さな神社があります。足を運んで小休止。こんなに桜が綺麗なところだったのか、と思いました。秋になると、境内に彼岸花が咲いていた思い出があります。
茶畑、小さな野菜畑、そこに咲く春の花々を愛でながら、飯能市内へ。
飯能も、また住んでもいいかなあ、と思える町。何年か前、石垣島で知り合ったアウトドア好きのアメリカ人が、都心から飯能への移住を考えているとのことで、いろいろ聞かれたことがあります。実際、ここはアウトドア好きな家族には人気の町です。
ぶらぶらと走っているうちに、八幡神社というところに行き当たりました。数え切れぬほど来たことがある中心市街地なのに、ここは存在すら知らなかった。
社の前から振り返った景色が美しい境内でした。
◆ 高麗郷へ
さて、そろそろ高麗へ。飯能からは丘陵を越えていきます。
下り坂の途中にある瀧不動尊で足を止めました。お参りして、無人の売店で、PayPayで朱印を一枚購入。
さらに坂を下り、巾着田へ。
ここは、高麗川が山間部から平野へ流れ出すところ。川は大きく巾着状に蛇行しています。初めて来たのが35年前の春。この土地の伸びやかな雰囲気と空の広さが好きで、それから何度ここへ来たことか。
とくに、今は最高の季節。堤防に桜並木。土手に菜の花。畑には色鮮やかな春の花。散策を楽しむ人たちの邪魔にならぬよう、ゆっくりと走ります。
日和田山は、針葉樹、若葉、桜花のグラデーションに彩られています。山の端には古民家、農家の佇まい。
顧みれば、こんな土地が身近にある日々は幸せでした。
ランチは阿里山カフェへ。ここはヴィーガンフード中心の人気店。土日には行列がすごく、とても入れませんが、こうして平日に来られる日にはよく立ち寄っていました。
本日はベジバーガーとコーヒー。おっさん一人では少し場違いながら、美味。
12時過ぎるとカップルや家族連れで混み合ってきましたので、退散。
ふたたび巾着田をゆっくりと、ペダルを踏んで走ります。
ドレミファ橋という、高麗川の浅瀬にかけられた歩行者専用の木橋へ向かいます。春休みも終わりに近づき、母と子の姿が多くみられました。
桜の下、ベンチに腰掛けて、手作りのおむすびを頬張る若いカップル。
川辺でお弁当を広げるシニアのグループ。
皆、穏やかな表情で、先を急がず道を譲り合い、春の陽射しと風景を楽しんでいる。
もし死後の世界というものが実在するならば、このような場所であって欲しい。
そんな思いが胸をよぎりました。
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ここまでお読み頂き、ありがとうございました。引き続き、高麗峠へのハイク、川越の夕べと、夜の小江戸放浪記をしたためていきますので、よろしければ続きもお読みください。
これまでのローカル線とブロンプトンの旅、こちらへまとめております。
私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは主に旅の記録を綴っており、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、また海外旅行のことなども書いていきます。宜しければ↓こちらもご笑覧下さい。
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