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【86】北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周 28日目 岩内〜余市③ 2020年8月17日

2020年の晩夏、「週末北海道一周」最終レグ。今日は、積丹半島を周回しています。
石狩湾を隔てて、水平線の上には暑寒別岳の姿が浮かび、いよいよ旅の大詰めを感じさせられます。今日は余市まで、あと20キロほどの道のり。

▼ 「週末北海道一周」、ここまでの記録はこちらです。


◆ 祈り

美国の次の漁港、古平の町内にもまた、ウニ丼の幟旗が林立していました。ここは足を止めずに走り抜けました。この先には2000mを超える長大トンネルが連続しています。

さて、余市までの道程で、あと一箇所、立ち寄りたいところがありました。

古平の先にある2050メートルの沖歌トンネルを抜け、その先にある豊浜トンネルの手前でペダルを止めました。
海岸沿いに整備された小さな園地があり、そこに1996年の崩落事故で亡くなった20名の方の慰霊碑がありました。

1996年2月10日、吹雪の朝のこと。崩落した5万トンの岩盤が豊浜トンネルの入り口を直撃し、通りかかった路線バスと乗用車を押し潰しました。災害に巻き込まれたのは、病院へ通う高齢者や、通学途中の中学生や母親、そしてバスの運転手。
厳冬期の8日間にわたる救助活動にも関わらず、全員が助かりませんでした。みんな、何が起きたのかもわからぬままに亡くなっていったのでしょう。

北海道一周の途上で走り抜けてきた長大トンネルの多くは、この事故がきっかけとなって、危険箇所を回避し、安全を確保するために作られたものです。

地底を延々と走らされるのは快適なものではありませんが、このような道路改良が進んだからこそ救われた命も少なくないだろうし、そのおかげでわたしも、ここまで安全に走ってこられたとも言えます。

工事に関わった方の多くが、豊浜トンネル事故の犠牲を無駄にしないという、強い思いを持って、厳しい土木工事を推進されたのではないでしょうか。
そんな思いを持って、20個のランタンが並ぶ慰霊碑の前で、手を合わせました。

◆ 穏やかな夕べ

豊浜トンネルを抜けると、ローソク岩。ここは5年前の札幌赴任中に、ダイビングに来たことがあります。5月の積丹の海は水温9度、ドライスーツでも20分ほど潜っているのがやっとで、しかも生命の気配がまるでなく、以来、北海道では海はやめて専ら自転車を楽しむことに決めたものでした。

1300メートルのトンネルがもう一本あって、その先、想定外の峠がありました。ツーリングマップにはちゃんと「出足平峠」と記載されているのに、存在を全く認識していなかったのです。
標高差100mほどの直線的な上り。終盤戦になって、こういう想定外の上りは精神的に応えるものですが、気合を入れ直して踏み込みました。
頂上のトンネルを抜け、かなりスピードの出る下り坂をクルマの煽られながら下り切ると、余市の町外れにある浜中モイレ海水浴場。お盆過ぎの浜は静かでしたが、札幌方面への帰路につくクルマの量はさらに多くなりました。

今日は広い湯舟で脚を伸ばしたかったので、余市川を渡る手前にある、日本最初の宇宙飛行士•毛利衛さんの実家が元々は営んでいたという「余市川温泉 宇宙の湯」で一風呂浴びることにしました。古びた建物の屋根にはスペースシャトルのオブジェが乗っています。

内部は老朽化しており、古き良き昭和の銭湯といった雰囲気。観光需要よりは地元客に親しまれ定着しているようで、農作業を終えて湯に漬かりにきた雰囲気の男性が多く見られました。
湯が日焼けに滲みるので、そろそろと浴槽に浸かります。
そのうち、安っぽい香水の匂いをプンプンさせたおっさんが、それも二人立て続けに入ってきて、頭痛がしそうになったので、早々に退散しました。

夕方5時、北国の日はまだ高い。余市橋を渡っていくと、河縁の銀杏並木が長い影を落としていました。町の周囲はたおやかな山々に囲まれています。
穏やかで、美しい土地だな。
余市へは学生時代に友人たちと何回か遊びに来たことがあります。しかし、型通りにニッカの工場を見学して終わりだったり、そのままニセコ方面へ車で走り抜けてしまったりで、こうして町そのものの雰囲気を感じることがありませんでした。

▲ 余市の海岸よりシリバ岬方面を望む

◆ 星影さやかに光れる余市

静かな夕暮れの市街地や海岸沿いを少し走ってから、国道沿いのビジネスホテルにチェックインしました。
汗を流したあと、フロントで教えてもらった市街地の居酒屋へ足を運び、杯を傾けました。わたしのほかに客はおらず、店を経営する年配のご夫婦と夕方のニュースを見ながら、カウンターで雑談しました。
新型コロナに関しては、わたしのような一見の客は、どこから来たかということよりも、車中泊をしていないかが気に掛かるといいます。マスコミではあまり取り上げられない視点ですが、なるほど、狭く密閉された空間で毎夜過ごし、しかも消毒や換気など適切な対策がなされているかもわからぬわけで、とても現実的な見方だと首肯できました。

せっかく余市に来たのだから、ウィスキーやワインを堪能すれば良かったのに、そんなことは考えもせず、ビールと日本酒でいい気持ちになって店を出ました。余市の飲み屋街はそこそこお店が集積しており、今夜は北海道一周最後の夜でもあるので、梯子しようかな、という気分でもありましたが、それよりも、上空には今宵も美しい星空が広がっており、その下を歩きたい雰囲気でした。

▲ 余市の飲み屋街

人影もまばらな静かな街を歩き、国道に沿った住宅地を抜けて海岸に出、堤防の上に寝そべって星空を見上げました。
いつかは、こんな穏やかなスモールタウンで暮らしたい。
そんな思いがまた心を過ぎりました。

▲ 夜の夜市の海

そうこうしているうち、適度に酔いが醒め、身体が炭水化物を欲しはじめました。ホテルの近くにある回転寿司の評判が良い、と先ほどの居酒屋で聞いていたので、軽く数貫つまんでから帰ることにしました。
お茶を飲みながら、最初は平目だったかカワハギだったか忘れましたが頂くと、これが評判に違わずうまくて、これはいいぞと日本酒を発注。
それからどれだけ食べて呑んだか、まったく覚えておりません。
翌朝になっても、まだ胃もたれが残っていました。

【本日の走行記録】
走行距離 108.3Km
走行時間 4:20
平均速度 25.0Km
獲得標高 1588m
消費カロリー 2041kCal

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28日目は以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
次は最終日、小樽を経て札幌へゴールします。よろしければ続きもお読みいただければ幸いです。

わたしは、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかの自転車旅や海外旅行の記録などを綴っています。宜しければこちらもご覧頂ければ幸いです。

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