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【84】北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周 28日目 岩内〜余市① 2020年8月17日
2020年の晩夏、「週末北海道一周」最終レグ。
今日は、積丹半島を周回します!
▼ 「週末北海道一周」、ここまでの記録はこちらです。
◆ 濃霧の朝〜『飢餓海峡』の舞台へ
昨夜の満天の星空は夢幻だったのか、と疑ってしまうような、真っ暗な朝を迎えました。
放射冷却によって岩内の町は濃霧に包まれています。
そればかりか、部屋の窓から見下ろす駐車場には水たまりができ、雨粒の波紋が広がっていました。
天気予報を見ると、霧が上がれば昨日同様の好天になることは間違いないのですが、問題は、それが何時ころになるか、
今日の行程は100キロあまり。険しい山越えがあるわけでもなく、比較的余裕はあります。ただしあまり出発を遅らせると、神威岬や積丹岬などの景勝地に寄り道する余裕がなくなってしまいます。積丹半島には過去3回ほど来たことがありますが、その真髄とも言うべき西海岸は未体験なのです。
ゆっくり朝食を取りながら、出発のタイミングを窺いました。
午前8時を回った頃、雨が上がったのを見届けて、ホテルを出発。残念ながら海も山もまだ灰色の霧に包まれています。
町を抜けると、堀株川の河口に広がる湿地帯のような開けたところをしばらく走ります。意外なことにこの辺の路面はドライ。今朝の雨は局所的なものだったのでしょうか。平坦な道を快調に踏み込んでいきました。
昨夕訪れた木田金次郎美術館には、泊原発の手前にあるこの堀株地区から、海を隔てて羊蹄山を望む作品がありました。今日もそのような風景が見られるのではと期待していましたが、諦めざるを得ません。
さて、この旅の後で、水上勉の「飢餓海峡」を再読してみたところ、昔何度か読んだ時は気づかなかったのですが、この堀株が、事件解明のカギになる重要な土地として登場していました。
この春にNHK -BSで観た昭和40年制作の映画版では、原作の後半に描かれている刑事たちの執念に満ちた捜査活動が大幅に割愛されており、舞鶴署の警部補が下北~函館~倶知安と犯人の10年以上前の足跡を追いかけ、とうとうこの堀株で全ての断片が繋がるスリリングな山場も描かれていなかったのです。その舞鶴署の警部補は若き日の高倉健、犯人は三國連太郎が演じていました。
そんな予備知識を事前に仕入れていたら、どんな場所なのか、ちょっと寄り道してみたいところでしたが、この日は北海道にしては交通量の多い国道をひた走っていきました。
ダンプの縦列が次々と追い抜いていきます。泊原発で何か工事をしているのか。それとも、どこかで災害復旧工事をしているのでしょうか。
1443メートルのホリカップトンネルを抜けると、すぐに泊原発への入り口を左に分け、緩い上りが始まりました。ダンプの縦列はまだ続き、やがて道路工事が行われているらしき右手の沢筋の道へと折れていきました。
前方には、ほぼ垂直な壁が海へ落ち込む兜岬が姿を現しました。
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◆ 泊村〜神恵内村
この先、いよいよ積丹半島の核心部へと入っていきます。積丹半島は、ニセコ連峰や昨日抜けてきた雷電火山群に連なる火山地帯のため、そのマグマが侵食されないまま残されたことで、急峻で複雑な地形や奇岩が形成されています。
泊村商工会の前から海の方へ分かれる旧道がありました。旧道は弧を描いて海岸線へ下り、傾斜地の下に細長く伸びる住宅地の中へ延びていきます。
郵便局や漁協が集積する泊漁港周辺を通り過ぎると、疎らに住宅が立つ中を、捻れて波打つような細い道路が一直線に延びていました。シベリアからの厳しい風がまともに吹き付ける、この地域の冬の厳しさを想像してしまいます。
国道に戻り、兜岬の基部を1075メートルのトンネルで抜けると、波打ち際に出ました。濃霧はまだ晴れないが、海はべた凪。
それにしても、何と透明感のある海でしょうか。陽が差していないので、噂に聞く積丹ブルーの鮮やかさではありませんが、海中の藻や小石の一つ一つがくっきりと見えます。潜りたくなってしまうが、水温は恐らく17~8度、ドライスーツを着ていなければ厳しい冷たさでしょう。
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巨岩が海面から聳え立つ漁港を走り抜けた先に上り基調のトンネルがあり、やがて、絶景が広がる海食崖の上に飛び出しました。
かつては山肌を忠実に辿って曲がりくねった道が付けられていたところ、冬季でも安全に通行できるように整備されたのでしょう。今では大規模な橋梁が海面から突き出し、大きな弧を描いて北へ向かっています。まさかこのパノラマのために新道が建設されたわけではないでしょうが、右に険しい断崖、左には大海原が広がり、まるで天空の道を進んでいるかのよう。
新しい道なので路面の状態も良く、上り勾配を感じさせません。立ち止まって風景をスマホに収めたい気持ちよりも、リズミカルに気持ち良く踏み続けたい思いが勝ります。
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緩やかな坂道を登り詰めたあとは、神恵内湾を見下ろしながら、直線的なダウンヒル。小さな湾の奥に密集した神恵内村の中心部を、立ち止まることなく駆け抜けました。ここには有名な寿司屋があるけれど、時刻はまだ9時半を回ったところ。またの機会に。
海岸線に沿って交通量に少ない道を5キロほど走り「道の駅かもえない」に至りました。この先は長大トンネルが連なる区間に入るので、ここで今日最初の大休止を取る事にします。
レストハウスの入口には、流木で作られた人や動物の実物大のアート作品が展示されていました。「進撃の巨人」か何かを想起させて、ちょっと不気味。案の定、車を降りて建物に入ろうとした小さな子供が怯えて泣き出しました。お母さんが困り果て、なぜかわたしに「すみません」と謝ります。
まだお腹は空いていないので、麦茶を買ってボトルに補給し、ベンチに腰掛けて霧に煙る海を眺めつつ、しばしスマホをいじりながら休息をとりました。
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道の駅のすぐ先に口を開けている2509メートルの大森トンネルに突入します。
トンネルの先には、断崖が海に落ち込む豪壮な海岸線が続いていました。標高差3~400メートルはありそうな垂壁の上部では、未だ灰色の霧が渦巻いています。
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◆ 神威岬へ
トンネルを1つ抜けるごとに、青空の面積が大きくなり、ジリジリと気温も上がってきました。
長大トンネルは嫌らしいが、その狭間に広がる景色がすごい。
北海道一周の行程の中で、美しい海岸線は幾度も走ってきたけれど、地勢の複雑さと豪快さ、尖塔の如く海面から聳える岩、この圧倒されるようなスケール感は他に例を見ません。
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アプローチの不便さなどハンデはあるけれど、北海道西海岸の道は、多くのサイクリストに知って欲しい、そして魅力を発信してほしいと思います。コロナ禍が収まったら、私の大好きな台湾とかタイとかインドネシアとかからも、多くの自転車乗りがこの道を走りにやって来る日が訪れてほしい。
とにかくもう、一気に駆け抜けてしまうのがもったいなく、この風景を見渡し、適宜脚を止めながら、海岸沿いを北上していきました。
そして、ようやく陽光がさし、海の色が変わりました。
連続する垂壁と海から聳え立つ巨岩群の先に、神威岬のローソク岩が、小さく姿を現しました。
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原生林と絶壁に飾られた山々と、海面から聳える要塞のような巨岩。圧倒的な絶景に目を奪われ、幾つものトンネルを抜け、半島の北西端に至りました。
神威岬へは、ここで国道から左折し、9%の坂を登ります。
坂を上り詰めて稜線を越えると、眼下の駐車場は、ここまでの静かな道からは想像もつかないような喧騒でした。広い駐車場は7割がたが埋まり、今回の旅では一度も見かけていなかった観光バスも止まっています。今日はお盆休み明けの月曜日、そんなに混むことはなかろうと甘くみていました。実際、ここまでの道は車も少なく極めて快適に走ってきたのですが、車で来る観光客は殆どが札幌方面から東海岸を経由してここまで来るからでしょう。
積丹半島は有名観光地とはいえ、伊豆や房総など首都圏近郊とは違って、飲食店の選択肢は決して多くありません。これは昼食難民になりかねない嫌なパターン。以前、網走や室蘭などで食いっぱぐれた記憶が脳裏をよぎります。
しかも、このあたりは海食崖の上のためか、濃い霧がまだ晴れていないのも嫌な感じ。
ともかくも、駐車場の片隅に自転車を停め、靴を携帯用ランニングシューズに穿き替えて、「女人禁制の地」のゲートをくぐります。もちろん、これは古の話であり、私の前を手を繋いだカップルが歩いていきます。
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痩せ尾根上の遊歩道を下っていくと、やがて霧の層を抜け、透明な積丹ブルーの海が、眼下に広がりました。
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海中の石の一つ一つがくっきりと見えています。細波が水面を渡り、まるで山奥の淵のように清涼です。
その突端に、積丹半島のシンボルともいえるローソク岩が巨立していました。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。積丹半島周回の道は、まだまだ続きます。よろしければ続きもお読みいただければ幸いです。
わたしは、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかの自転車旅や海外旅行の記録などを綴っています。宜しければこちらもご覧頂ければ幸いです。