マガジンのカバー画像

planktos.

7
小説「planktos」 2021年より執筆開始。 ※場合によって、公開後加筆修正することもあります
運営しているクリエイター

#APIS

Dysco. #4

Dysco. #4

「なぁ、茶ぁしばかへん?」
足元から声がする
「なぁ」
「なぁ、茶しぃひん?」
狼の影からそっと覗くと、全身真っ赤なオレンジ色の蛙がこちらを見上げている。
「なぁ」
「なぁ、お茶しよーやぁ」
ケロロロ.... と軽妙に喉を鳴らし、無視し続けても一向に諦める気配がない。
しつこい
「・・・。飲まない。」
「おー?なんだぁ。声若いなぁ。まだ子どもかぁな。」
あまりにも独断的にかけられまくる無礼講な言葉

もっとみる
Oenothera. #3

Oenothera. #3

アピスが起きたことを確認した後、狼は夜に咲く花を求めて移動した。
月夜に開く花を求めて。
その香りをたよりに、時には何時間も狼は走った。
今夜は宵待草の咲く草原にたどり着く。

アピスが花の蜜を吸うと一つ、心揺れる景色を見てまた、一節と歌が生まれた。
うたうことで自分が何者であるか、というかけらを反芻できるような気がして、生まれるままに歌にした。

気のせい、かもしれない
歌う度に、あの夢のつづき

もっとみる
Lupus. #2

Lupus. #2

その狼は声を発することができなかった

満月を臨み、時折行う遠吠えも、虚しく夜空を仰ぐに過ぎなかった

白狼の額には琥珀色に輝く彼女のシェルターがあった。

蜜蝋をハニカム状に重ね繋いで造られた小さな要塞は、雨風を凌ぎ恒温を保つ。主要の4部屋と各部屋とへの行き来がしやすいよう、アーチ状にできていて、外部からのあらゆる衝撃から彼女を守った

目が覚めた時には、アピスは狼の上にいた。
何故狼の上にいる

もっとみる
Apis. #1

Apis. #1

かすかに聴こえる
夜の帳のような穏やかな音

懐かしい
だがその姿に近づけば近づくほど辺りが白く輝き、彼の人を臨むことができない

夜露に包まれる中、差し込む月光を浴びて蜂の姫は薄く目を開く。

毎度同じ風景だ。
知っているのに、どうしても思い出すことができない。夢を見る度に彼の人は現れて、そして転瞬消える。

不機嫌な顔のまま月を眺め、白狼の上で謳う。
すべてを月光のせいにして