短編詩2016③

「夢」

もし夢が叶うなら、世界の端から端まで、誕生日の人を祝って旅をしたい、プレゼントを渡して、優しくハグをして、ケーキに年の数だけロウソクを立て、毎日、大切な時間を

過ごしたい。光のある暮らし。

「夢2」

少女の見る夢の結末はいつも同じだ、パフェのように崩れる観覧車の中で、少年の手を握るとパッと目が覚める。観覧車の中は電話が鳴りっぱなし。観覧車の中はリンゴの香り。名前も声も知らない、いつか出会うであろう悪夢に焦がれている。

「天使」

酔いすぎた天使が雨降りの窓をコツコツと叩く。天使の吐く息は酒くさかった。でも可愛い顔をしていた、焼けた声で歌うメロディは美しい。一緒に踊ろうよ、と言いながら1人でくるくる回ってる。だんだん気持ち悪くなってきた。目が覚めると1人車の中にいて、クーラーが強く、右腕が麻痺していた。

「リボン」

恋はリボンのようにほどけてく、端っこをちゃんと握っててね。

「約束」

少年を乗せた船が2度と戻ってこない事を、少女も少年も知らなかった。二人は約束をしたのに。病室の窓から海が見えたが、それに触れることは出来なかった。その夜、星空は金属のように硬く。前髪が湿っぽく。少女の咳は止まらない。握りしめたネックレスは恐ろしいほど青くて。どんな深海よりも深い。

「自滅」

彼女の瞳に映る資格がないと彼は考えていた。だけど、彼にとって彼女だけが世界の全てだった、小さな狂気のメロディが彼を蝕んでいった。小説を書くことも出来なくなった。紅茶色の瞳をした彼女は、壊れた玩具には興味がなかった、教会とその中身が全てだった。

「火事」

小説家は台所が焼けても物語を綴り続けた、妻の悲鳴も、カップが割れる音も、何も聞こえていなかった。果物を溶かしたあと、炎は小説家を背中からジリジリと燃やして、最後に彼の左腕を焼いた。燃えなかったのは小説家の遺作だけだった、傑作とは程遠い物だったが、命を賭けた作品だった。

「レストラン」

海が渇いてしまうほど人を愛したことはありますか?

誰もが顔を見合わせて黙っている。

「揺れる」

涙の形のネックレスが彼女の胸元で。炎のように揺れてた。

「happy」

幸せにしたかった人達のことを考えている。幸せに出来なかった人達のことだ、14歳の時から僕には音楽が必要だった。音楽は人生の津波だった。見事に飲み込まれてしまって、ほどけた指と指があった。それはみんな大切な人達の薬指だ。音楽は魔法じゃなくて呪いだったのかも知れない。

「引き出し」

「あなたを小さくして、机の一番上の引き出しに入れて置きたい、話したい時だけ、引き出しを開けるの」って彼女は言った。

「戦い」

前向きな孤独がある、前向きな失意がある、前向きな絶望がある、前向きな逃亡がある。絶対なんてない。夢を諦めちゃいけない。

「世界」

「ジョンレノンは世界を変えたい訳じゃなかったの。ただ、ヨーコに褒めてもらいたかっただけなんだ、と彼の作品を見て僕は思うんです」

「屋上にて」

濡れた光に抱きしめられながら、果てしなく悲しかった。少しも救われなかった。少しも守られなかった。感情が蛇口をひねったまま、水はどこかへ流れてく。闇が腰の辺りを支配する頃、ようやく手の震えが止まる。明日が来るのが怖いと爪先が考えている。爪先で考えている。

「家」

帰る場所がある人はみんな幸せだ。

「待つ」

愛する事ができないから、愛されないんだ、手を離してるのはいつも自分。返事を返さないのも自分。考えもしないで吐いた言葉の冷たさが胸にまだ残ってて、鳥肌がたつ。嫌な汗が背中を。手の震えが。そんなのずっと前から。もうずっと前からだ。一体、何を待っているんだろう。

「嘘」

空気が腐って、星空が溶けて、パンケーキに滴り落ちる。それを食べて美味しいと、嘘をついた。口の中は冷たくて苦かった。悲しい時に泣けないなら、詩にたい時に詩ねないなら、どうして私は生まれてきたのか。なぜ生きるのか、砂漠のサボテンのように、北極の流氷のように。時々、ここが何処だか分からなくなる。

「オモチャ工場のブルース」

オモチャ工場で時給820円で働いている。ベルトコンベアには、飛行機のラジコン、クマのぬいぐるみや、リカちゃん人形が流れてくる。それを僕は検品して。冬になるとクリスマスのプレゼント便から注文がくる。手にとる子供はみんな笑っているだろうか、笑っているといいな。

「待つ2」

唇が壊れるほど愛を囁いて、舌が疲れるほど痺れたのに、胸に残ったキスマークはただの痣。一週間後には死体のようにベッドに転がって。腐ったタオルケットにくるまり、煙草を吸い、車が動くのを待つだけ。一体いつまで、こんなことが続くのか、気圧のように脈絡のない熱が心臓を震わす。

「生きる」

死体じゃねぇから温もりはある。誰にでもな。

「優しさ」

あんたが息を止めても世界は表情を変えないだろう。両親と妹が悲しむだけさ。花は枯れて、小鳥も歌わない。天使も踊らない。あんたが最後に書いた手紙のパスワードを教えてくれよ。おやすみの前に読むから。生きてた事を見るから、優しい奴って駄目な奴なのかな、そんなことないよな。

「優しさ2」

なにもしないことが、誰かを深く傷つけてる場合がある、用心して生きなきゃ。

「カメラ」

ピントがボケたまま写真を撮り続けているような人生。手も震えてるし。でもときどき美しい光が写真に入り込んでくる。その光を信じているから。絶対にカメラを手放さない。自分にはもったいないくらい綺麗な景色を焼き付けるんだ。魔法も奇跡もない世界で、願うように、祈るように。

「悲痛」

取り残された瞬き、彼女はその映画を理解できなかった。ひとつも共感できなかった。それが自分なのだと彼女は分かってたけど。なんだか少しずつ悲しくなっていった。トランプが端からめくられてゆくように。悲しくなっていった。理解できないって事は、理解されないって事だから。

「フール」

コンビニの前で、夜空を見上げていたら、天国が透けて見えた。綺麗だった。なんだか悲しくなった。ぼくは狂ってるのかな、壊れてるのかな、死ぬのかな。彼女なら「莫迦じゃないの」一言で許してくれるだろう。今のぼくには彼女の声が必要だ。

「フール2」

死は言葉にすると一番軽く響いてしまう。重量の差が大きすぎる

「天使2」

天使は15秒しかこの世界に存在ができないというのに、僕の目の前に現れて、手を握り、優しく抱きしめてくれた。15秒、数える終わると、一枚の羽がゆっくり地面に落ちた。僕はそれをポケットに入れてまた歩き出す。

「潔癖」

僕の手は汚いから君に触れられない。僕の言葉は汚いから君と話せない。なのに君は手を取り、お喋りしてくれた。たった1人、君だけが僕の名前を呼んでくれた。なんてことだ。気絶しそうだ。僕は死ななくてはいけない。と頭で考えて。生きなくてはいけない、と胸で思った。

「ch」

寂しさに洗脳されそうな朝、悲しみに支配されそうな夜、君の手のひらで世界を隠してくれ。もう何も見たくない、何も聞きたくない、君が歌う、素晴らしい世界だけ、それが真実、僕の涙はあふれて、花に塩分を与える。胸のなかで波打っている綺麗な海に、カモメが飛び交う、白紙を愛で塗りつぶせ。


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Mei&Me(原題:僕と笠原メイ)
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