短編詩2016①

魔法も奇跡もない国で、少年は少女を幸せにしたかった。一緒に暮らしたかった。だけど少年の頭は狂っていた、少女は少年を嫌な顔で見た。吐瀉物を見るような目で見た。馬鹿にしていた。少年は狂っていたからその事にも気づかなかった。少年は少女を幸せにしたかった。

赤いタンバリンの音が永遠を演奏している横で、無理するなよって笑いながら男は女に強い酒を勧める。生きている事が似合わない奴もいる。ジャニスやジミヘンのポスターだらけの古着屋の隅っこ、キスをした。ハチミツの匂いは消せない。大麻の匂いも。サボテンを買って帰る。総武線は混んでいた。

79%もバッテリーの充電は残っているのに、不安で仕方がない。スマホを十字架のように握りしめて。冷たく光る画面を眺めて。通知はない。黄色い頭をした男が音楽に合わせて揺れ。ミラーボールの下、グラスの中の紅さは異常だ。捨てなきゃいけない物はゴミだけじゃない。

花や植物の名前を知らない詩人の心はプラスチックで出来てるのか、音楽センターの前に車を止めて、マクドナルドを食べた。油まみれの指、逃げ場を失った逃亡犯は、蜂の巣になるしかないのだと、預言者は告げる。ピアノを騙した罪は大きい。ギターは黙秘している。

真冬の路上で出会った中年男は、ピエロの格好をして、腰のラジカセから音楽を流していた、小さな太鼓を指差して、「音を集めてます、音を下さい」と声をかけてきた。僕らは彼を狂人だと思ったが、一発ずつ太鼓を叩いた、ピエロは満足して去ってゆく、ユーロビートのリズムだけが胸に残った。

愛欲が尽きない世界にうんざりして、ショートヘヴンのフィルターをハサミで切る。哲学的で難解な手紙の返事を考えてる、炭酸が抜けたコーラは砂糖水だ、裏切りだらけの世界で、逃げても逃げても影のように付いてくる。瞳の色は腐ってる。聞きたいのは言葉ではない、聞きたいのは声だ。

歪んだ窓は開きづらくなる。

或いは、2度と開かない。

バケツ一杯の花々を地球にぶちまける。シャワーのように子供達に降り注ぐ。太陽の歌。月の踊り。友情を捨てるのは簡単。愛を投げ出すのは簡単。大人になることに比べたら、ずっと簡単で、情けないこと。

人生はとても長いけど、永遠を一瞬に変える魔法のキスは、最後に。

皇帝の情に訴えかける。涙が蒸発したあと、腕に紫の痣が残った。天国への帰り方を忘れた天使が歳をとり老人になった。老人は飛べないピアニスト。老人は唇だけの詩人。過去は通り過ぎて消えて。今だけが哀しい。君を抱きしめる腕を持ってない僕はシザーハンズの気分。

黙っている自体が罪だと彼女は罵った。それでも彼は無口を通した。珈琲をボールペンでかき回す、流星のように過ぎ去る日々の中、声を思い出した時には遅かった。世界中の信号機が赤色になった。

傷の裂け目はpink色だった。

pinkは神様の色だ

花が似合うような少女じゃなくても、女の人はみんな、心に一輪の花を咲かせている。そうゆう凛々しさを感じる。

死んだらピエロになりたい。ぼくの遺書はノート13冊分のポエムである。どうか、笑ってくれ。ぼくを笑いものにしてくれ。逃げて、逃げて、逃げ切れなかった、馬鹿な男を笑ってくれ。

悲しくて美しかった

人間以下になりたくないと思う、渋谷の真ん中で。人間以上にはなれないと思う、新宿の真ん中で。僕の居場所は田舎にある。遠く。木々に囲まれてる。花々に見守られてる。海に抱きしめられる。16歳の頃から考えてたこと。まだ、考えている。死ぬなら、明日はやめておこう。

生きてることが大切にできないとき、泣きたいと思っても涙がでないとき、黙っているのに胸がうるさいとき、ピストルが欲しいと願うとき、ギロチンが欲しいと願うとき、誰かの顔を忘れたいとき、愛の正体が雲の隙間から見える。どうやら僕はそれを無視できない。

心をどこまでも冷たくして、無に近づけて、透明にして、それからどうしたいか、わからない。

花火がしたい。

忘れられない朝と忘れられない夜をミキサーにかけて。月と太陽の見分けがつかないほど、酔っ払って。音楽に身を任せていた、その内、破滅してしまうと思った。洋服がボロボロに汚れていく。身体のラインが崩れる。音楽のボリュームをあげたら涙がこぼれた。全然優しくないひとが野良犬に餌を与えていた。夏の朝。

泣きながら彼女は叫んだ、それは悲鳴だった。この国には耳がないから誰も聞かなかった。戦争の足音が近づいてる。銃や爆弾がどんどん作られていく。 冬には町が燃えるだろう。多くの血が流れるだろう。この国には目がないから誰も見ていない、でも、それも今だけさ、激しい雨がやってくる

ナイフのような恋だった、風を切り裂き、坂を震わせて、花を揺らした。自転車のような愛だった、車輪を回し、世界を回し、季節に取り残された。

言葉は眠っている、詩はもっと深く眠っている、目覚まし時計を鳴らそう。ペンを握ろう、空っぽの頭で。空っぽの心で。

小さな痛みを大事にしすぎてる、小さな批判を気にしすぎてる、小さな魔法を信じすぎてる、小さな栄光に縋りすぎてる、ポケットに入る程度の問題で頭を抱える必要はない。君は君のドアを叩け。歩き始めよう。

僕の涙は価値がない、ただの水滴だ、その水滴を泳ぐカモメは飛べるのに空を飛ばない

やっとわかったパスワードで彼女の瞳の鍵を開けた。

溢れる言葉がスピード違反で片っ端から警官に手錠をかけられる。

瞳の下はラメまみれ、唇は上向き。耳は彫刻のようだ。恋は罪だ。愛は復讐だ。すべて燃えてしまえばいい。

指をパチンと鳴らすと、夜が少しだけ明るくなる気がした。盲目の花売り娘が微笑むと。シネマ越しに男が涙を流す。地面に溢れた青い血は大地を乾かす。ブラザー、声を合わせて歌おう。焚き火を囲んで、内容のない約束をしよう。


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Mei&Me(原題:僕と笠原メイ)
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